小学5年生社会科
私たちの食生活とアメリカの農業とのかかわり
〜アメリカ合衆国のとうもろこし・大豆農家をたずねて〜
上越教育大学・院 社会系M1
(上越市立春日小学校) 小林 朋広

1 はじめに
(1)学習指導要領との関係
 新学習指導要領では、小学校5学年の社会科の中で「食と農」に関係のある学習の目標と内容を次のように記している。
<目標(1)>
 我が国の産業の様子、産業と国民生活との関連について理解できるようにし、我が国の産業の発展に関心をもつようにする。
<内容(1)>
 我が国の農業や水産業について、次のことを調査したり地図や地球儀、資料などを活用したりして調べ、それらは国民の食料を確保する重要な役割を果たしていることや自然環境と深いかかわりをもって営まれていることを考えるようにする。
 様々な食料生産が国民の食生活を支えていること、食料の中には外国から輸入しているものがあること。
 我が国の主な食料生産物の分布や土地利用の特色など
 食料生産に従事している人々の工夫や努力、生産地と消費地を結ぶ運輸の働き
 産業と自分たちの生活のかかわりを明らかにしていくことが5年生の社会科の学習の中心となっている。食生活と農業とのかかわりについて言えば、新学習指導要領の内容(1)のアでも記されているように我が国の食料は他の国からの輸入にたよっているものが非常に多く、私たちの食生活は我が国の農業だけでなく、他の国の農業のとのかかわりも深いと言える。特に、食料輸入で深いかかわりのあるアメリカからどんなものがどれ位輸入されているのか。日本の農産物よりも安く、大量に輸入されるようになったのはどうしてなのか。そんな点について学習することが必要であろう。
(2)教材化の意義と教材観
 パンやうどんの原料になる小麦、味噌の原料になる大豆、缶詰や家畜の飼料となるとうもろこしの多くは、アメリカからの輸入に頼っている。また、米中心だった日本の食生活が変化した理由の一つとして、アメリカからの食文化の伝来が挙げられる。さらに、日本の農業が全体的に衰退化し、生きていくための収入を得ることが難しくなったことの一つにアメリカからの農産物が自由に安い値段で大量に輸入されていることを子供たちにとらえさせていく必要があろう。そして、この問題について自分なりに考えさせていくことも「21世紀の我が国の食と農」について問題解決させていく態度を育てるための過程として必要なのではないかと考える。
 ここでの学習は、アメリカの農業と日本の農業を比較させようと考えるが、ただ単に他国の農業の特徴を知るだけでなく、広い農地で大型機械を所有し、大量で安い農産物を作り、日本にも大量に輸出しているアメリカの農業の現状を知ることで、日本の農業の衰退の現状や問題点を明らかにしたり、衰退の理由の一つに海外から食料が大量の輸入されていることに気付かせたりしていくことができると考える。そこで、アメリカの農業について学習する時間を設定することにする。アメリカのとうもろこし・大豆農家を訪問して写した耕地や作物、農業機械、作業の様子の写真を提示して、日本の農業と比較させたり、実際に農家の方に、仕事の内容・収入や農業の利点・今後の経営の見通し・後継者・なぜ大量に作るのかについて聞き取り調査を行い、聞いたことを子供たちに提示したりすることで、日本の農業の実態や日本の食と農がアメリカの農業と深く関わっていることに気付かせていくことができるであろう。また、貿易問題や日本の農業の衰退の問題について真剣に考え解決していこうとする意欲を育てるきっかけになるのではないかと考える。

2 単元の指導計画
 新学習指導要領に基づき、指導計画をたて、その中でアメリカの農業学習を次のように位置づける。
(1)単元名「わが国の食料生産とわたしたちの食生活」 (2)単元の目標
 我が国の農業について、生産物の産地や土地利用、農業に携わる人の工夫・努力、国や地域の政策などを調べることを通してその現状をとらえ、農業がわたしたちの食生活、海外との貿易、環境保全などと深くかかわっていることを考えたり、農業の維持発展に関心をもったりできるようにする。
(3)指導計画
第1小単元「食料の産地調べ」(計8時間)
第2小単元「米作りのさかんな地域」(計8時間)
第3小単元
選択「漁業のさかんな地域」(計5時間)
「野菜作りがさかんな地域」 「果物作りがさかんな地域」
「畜産、酪農の仕事にはげむ人々」
第4小単元「これからの食料生産」(計4時間)
1)「わたしたちの食生活とアメリカの農業とのかかわり」(2時間) 本時 1/2
2)「わたしたちの食生活の変化と農業とのかかわり」(1時間)
3)「環境にやさしい食料生産」(1時間)

3 本時の学習 授業校; 新井市立新井中央小学校5年生 施日 平成11年9月9日(木)
(1)小単元名「わたしたちの食生活とアメリカの農業とのかかわり」
(2)ねらい
 ミネソタ州のとうもろこし、大豆農家の仕事の様子の写真や聞き取り資料をもとに、アメリカの大規模農業の特色を日本の農業と比較しながらとらえるとともに、アメリカの農業と自分たちの食生活とのかかわり方について考えることができる。
(3)児童の実態
 小学校の社会科の学習の中で、アメリカを含め海外の国の学習を行っていない。従ってアメリカ合衆国についての知識はテレビや本などによって得ているので、一人一人によって差がある。我が国の農業の学習については、本単元の学習の中ですでに行っている。農業(稲作や野菜作り)に携わる人々の工夫や苦労を認識するとともに、農家や耕地面積の減少など、日本の農業の衰退化の実態を認識している。しかし、アメリカ農業とのかかわりという点での農業の認識は十分とは言えない。そこで、子供たちに共通の認識や課題意識をもたせるために、現地調査に行く前に事前指導を行うことにした。
(4)前時の指導の構想
 事前指導では、まず子供たちが日頃よく口にしているパン、とうもろこし、牛乳、ソーセージを提示し、それぞれの食料品の原料をたどった後、小麦、とうもろこし、大豆など日本人が口にするものの多くは、アメリカから輸入されていることに気付かせる。そして、提示した食料品の原料となっているアメリカの小麦ととうもろこし農場の写真を2枚提示し、その写真を見ながら、感想や疑問点を書くことで学習の課題や見通しをもたせていく。
(5)本時の指導の構想
 導入では、アメリカ人の食生活や見学してきた場所、訪問した農家や家族の紹介などを地図や写真を使って簡単に行う。この農家の就業状況も合わせて行う。農家のイメージをつかませる。
 展開では、事前の指導の中で、子供たちがもった疑問を調べる形で授業を進めていく。作物の種類、耕地面積、仕事の内容、収入などについて調べてきたことをまとめた資料と写真をもとにグループごとに調べる。そして、アメリカの農業と日本の農業を比較してみて、気付いたことを話し合いながら、アメリカの大規模農業の様子と日本の農業が衰退している現状を認識させていく。
 終末では、農家の出荷した作物の行方について説明し、日本への輸入の現状を把握させる。グラフなども提示し日本の作物の自給率が低いこと、アメリカからきた作物と日本の作物の値段を比較し、日本では安いアメリカからの農産物を多く買い、そのために日本のものが売れなかったり、農業が衰退化することもあることに気付かせ、自分たちの食生活とアメリカの農業そして日本の農業とのかかわりについて考え、6年生の公民的分野の国際理解教育につなげていく。
<本時の展開>

主な学習活動 教師の支援 評  価

@アメリカの訪問地の位置を確認し、アメリカの食生活や訪問農家のおおまかな紹介や家族構成、就業状況などについての話を聞く。

Aアメリカの大規模農家の仕事の様子を写真で見たり資料で読んだりし、今まで学習してきた日本の農業と比べる。

B作られた作物の行方の探る中で、日本人との食生活との結びつきに気付き、食料の輸入と食生活、農業とのかかわりについて考える。

○地図や写真などを使って紹介する。
○12グループ作り、それぞれのグループごとに写真を、全員に資料をあらかじ め配る。
○前時の質問内容を確認する。
○子供たちの疑問である、作物の種類、耕地面積、収穫量や収入、作業内容、農業機械、問題点や工夫などについて、写真、自作の資料、などを使ってグループ単位で調べる。
○販売ルートの図や日本がアメリカから輸入している量や値段を日本のものと比較した図を提示する。一人一人に考えをもたせるために全員に考えを書かせる。

○アメリカの農家の様子を写真で見たりインタビューの資料を読んだりしながら日本の農業とアメリカ農業と違いを明らかにできたか。

○アメリカの農業と自分たちの食生活や日本の農業とのかかわり方について考えることができたか。

5 主な授業の概要
(1)前時の指導
畑がすいぶん広いな。どれくらいの面積があるのだろう?
仕事がめんどうだと思う。どうやって、収穫しているのだろう?何時間位かかるのか?
どんな作物を育てているのか?
広い畑を一家でもっているのか?
実際に、とうもろこしをもってきてほしい。
どんな機械をもっているのか?
アメリカの人はどんなものを食べるの?
どうして、こんなに広いのだろう?
とうもろこしは枯れているけれどどうしてなの?枯れる前に収穫すればいいのに。
日本では、おじいさんとおばあさん、子供も農業を手伝っているがアメリカはどうなの?
農業をしている人は男が多いか、女が多いか?
なぜ、こんなにたくさん作るのか?
日本のようにお米を作るのか?
日本の畑のように手作業はしないのか?
水はどのようにやっているのか?
一件でどれくらいの量がとれるの?
日本の農業と違うところをもっと知りたい。
アメリカの農業の工夫を知りたい。
アメリカの農業は、日本よりもさかんなのか?
日本にない食べ物はあるのか?
作業は何人位いるのか?
アメリカは、畑で1種類しか作っていないのか?
とうもろこしは日本でもアメリカでも作られているが、作り方に違いがあるのではないか?
機械の値段は?
どれくらいもうかるのか?
農業の写真をたくさんとってきてほしい。
 前時の学習で子供たちは、アメリカの農場の2枚の写真から次のような感想や疑問をもった。
 子供たちから出た疑問の多くは、日本の農業と比較したものであった。作物の種類、耕地の広さ、収穫量、作業の工夫、農業機械、作業内容などが主な疑問であった。日本の農業の学習をしてきた子供たちにとって、少し違った農場の写真を見て、日本と比べてアメリカの農業の実態や農家の工夫や苦労について知りたい気持ちが高まったと考えられる。しかし、日本とのかかわりのという点でアメリカの食料生産について疑問をもつ子供はいなかった。導入で、日本の食生活とアメリカ農業とのかかわりについて説明したものの、アメリカの農場の写真を見ることで、子供たちの意識は作物や耕地、作業そのものにいき、日本とのかかわりについての意識は薄れてしまったのではないかと考える。
(2)本時の学習
 導入では、世界地図を見ながら、アメリカ合衆国ミネソタ州の位置(緯度)、気候について確認した。また、写真を見ながら、アメリカ合衆国の人と日本の人との食生活の違い、ミネソタ州レンビルの紹介、レンビルで作られている作物や日本のように稲作がさかんでない理由等について説明した。
 次に各グループに配った資料と写真を見せながら、前時で出された疑問を確認した後、訪問したBob(ボブ)さんの農家の紹介を行った。家族構成と農業就業者、ボブさんの農場の広さ、作物と収穫量について紹介した。広さについてはイメージしやすいように新井市の主な4点を結ぶ広さを示した。
 続いて、子供たちはグループごとに配られた写真と資料を読みながら、自分たちが出した疑問点について調べた。写真プリントには、それぞれの写真に説明を書いたのでそれを一人一人が読んだ。そして、学習プリントに日本の農業と比べてわかったことや感じたことを書いた。
写真1 授業の様子、ミネソタ州の紹介写真2 グループごとの調べ活動
写真3 トウモロコシの町、レンビル
写真4 ボブさんの農場(大豆・とうもろこし農場)
写真5 農場を耕す機械(10mの幅を耕す)
写真6 農薬散布機(10mの幅まで散布できる)
写真7 刈り取り機(大豆を刈り取り実を後方から出す)
写真8 とうもろこしを刈り取る刃(写真7の機械に付ける)
<日本の農業とくらべてわかったことや感じたこと>
畑がすごく広い。日本とはくらべものにならないくらい。収穫量も多い。
日本とくらべて忙しいことがわかった。日本は用水を使っているのにアメリカは雨水にたよっていることがわかった。水がつきることはないのだろうか。(疑問)
日本と違いアメリカでは秋にとうもろこしを収穫し、その後すぐに耕すことがわかった。
見たことのない機械を使っている。
機械の数の多さが日本と違う。
農薬や機械代、修理代など、たくさんのお金がかかることがわかった。
設備の管理が難しそう。お金がかかりそう。
作物の種類が日本より少ない。
広い農場を一人で耕すのがすごいな。
アメリカは、田んぼの機械がないかわりに、畑の機械が多い。日本のようにナス、ピーマンなど細かいものは畑で作らないのか。
種まき、収穫が少しずつずらしてあるところが工夫している点だ。
ボブさん以外の農家の人もこんなに広い土地を持っているのか。
アメリカは自由に農業を行っている感じがした。
機械を使って、一度に10mもの幅を刈り取ったり耕したり種をまいたりするのでびっくりした。
なぜ、一つのものしか作らないのか、疑問に思った。(疑問)
アメリカでは、あまりお米を食べないで、パンを食べると聞いてびっくりした。
日本と食生活が違うから、作物も違うことがわかった。
日本の畑では、手で作業を行うが、アメリカではみんな機械を使って仕事をしている。
農場の面積がただでさえ広いのにもっと増やそうとしているからすごいと思った。
広いけれど機械を使っているので大変ではなさそうだ。
すごい量だ。なんで、こんなにたくさんとうもろこしや大豆を作るのか。(疑問)
お金がたくさんもうかっているな。
写真9  穀物エレベーター(横に線路がある)
写真10  穀物を運ぶ貨物車(30両以上もある)
 その後の話し合いでは、やはり耕地の広さに驚く意見が出された。これは多くの子供たちがプリントに書いていたことである。また、機械の大きさや作業の能率、機械の種類の多さに驚きを感じる意見も出された。疑問点として、「なんでこんなにたくさんとうもろこしや大豆を作っているのか。」「何で日本のようにいろいろな作物を畑で育てないで、少ない種類の作物ばかり育てるのか」という意見が出された。それについて、子供たちに聞いてみたところ「もうかるから。売れるから。」という答えが返ってきた。そこで、作物がどういうルートを通り出荷され、どんなところに行くのか。その行方について、写真と資料で説明した。アメリカでは、作物がトラック、貨物車、船で運ばれること、中継点にいくつかの穀物エレベーターがあること、国内はもちろん日本を含めた海外にも船で、大量に輸出されていること、作物は缶詰になったり、乾燥させ飼料になったりして出荷されること、日本の私たちも多くのアメリカ産の食料を口にしていることなどを説明した。
 その後、学習プリントのアメリカから日本への輸入のグラフを見ながら、アメリカの農業と日本人の食生活や日本の農業とのかかわりについて考え、子供たちは意見を学習プリントに書いた。
<アメリカの農業と日本との関係について考えたこと>
もう少し、日本も自分の国で作った方がいい。
アメリカの作物を買いすぎていると思う。
他の国から買っているから、日本のお米があまると思うので、他の国に売ればいいと思う。たくさん売れば、日本の農家をやる人も増えると思う。
こんなに輸入にたよっていて、もし外国で作物がとれなくなったらどうするのかな。
今はいいけど、もし外国から買えなくなったらどうするの。豚や牛のえさがなくなり、肉が食べられなくなる。
食べ物がないよりましだから、このままでいいと思う。
日本だってお米をたくさん作っているのだから、もっとお米を食べればいいと思った。
輸入は減らした方がいい。
日本はお米があまっているから、お米といろいろなものを交換してもいいと思った。
アメリカが食料を送ってくれるから、食べ物に不自由しないと思った。
アメリカから多くの食料を輸入したから、日本の食生活はアメリカと似てきた。
頼りすぎだ。だんだんアメリカの食生活に似てきたから、お米を食べなくなった。
アメリカなどに頼らないで、自分たちでどうにかしないと後で大変なめにあう。アメリカの農業がだめになったら、日本はどうなるの。
少しアメリカも日本への輸出をおさえてほしい。
アメリカは、日本にとって大事な国だと思った。
アメリカは、牛肉、オレンジ、とうもろこしをたくさん作っているから、日本が買っている。
 子供たちは、今までのアメリカの大規模農業の日本の農業との比較や日本の食料の輸入の実態などの学習を想起しながら、思い思いに自分の考えを書いた。短い時間であったが、子供たちは、学習したことから自分なりのとらえ方をしており、そのとらえ方は様々であった。自分たちの食生活の改善に目を向ける子供、日本の農業の問題に目を向け農業の活性化に目を向ける子、貿易が途絶えたときの問題を提起する子、この食糧貿易を維持していくことを重視する子、アメリカからの影響を受け日本の食生活が変わってきたことに目を向ける子供、日本の自給率を上げる努力を要求する子供等、様々な考えが出された。どれも、両国の農業の実態を真剣に見つめて考えた意見であった。今回は時間が足りなくて意見交換をする場を設定することができなかった。後ほど、友達の意見を聞く場を設定する必要がある。5年生として、貿易について初めて自分なりの考えをもったことになる。この各自の考えをもとにして、今後様々な貿易や各国とのかかわりについて考えていく土台となった。

6 考察
 今回の授業の成果は、5年生の時期に、国際理解という点でアメリカ合衆国という海外の国の現状に多少なりとも触れることができたことである。そして、自分たちの国や自分たちの生活とのかかわりを認識し、よいかかわり方について考えることができた。特に、自分たちの食生活と日本の農業の衰退の現状を真剣に見つめた子供の姿が見られたことは大きな収穫であった。
 事前に、子供たちの疑問を聞いて、それを子供たちの代表者としてアメリカの農家で質問したり写真に収めたりして教材化を図ったことも、学習の自然な流れとしてだったと考えている。
 しかし、前時と本時で2ヶ月の間があり課題意識がうすれたこと、本時の時間が足りなかったことが反省点である。教師の説明だけでなく、各グループごとに7枚の写真資料と3枚の調査資料を与え、各自で主体的調べることを試みたが、時間がかなり不足した。短時間で行う場合は、一緒に資料を読んだり同じ写真をみんなで見たりした方が効果があったと考える。話し合いの場も十分持ちたかった。
 この学習は、広く浅い面もあったが、日本と諸外国のかかわりについて少しでも興味関心をもち、よいかかわり方を前向きに考えたり、他の考えを聞いたりする出発点になれば幸いである。


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