まちづくりグループのコンセプト
アメリカ諸都市のまちづくり
−ピッツバーグ・ツインシティー(ミネアポリス・セントポール)
・サンフランシスコ−
まちづくりグループコーディネーター 
新潟県立高田南城高等学校 五十嵐 雅樹

 現在日本では、「まちづくり」が非常に重要なタームになっている。大都市においては、これまでの大規模な開発から住みやすさアメニティー(amenity)を求めた再開発が進められているし、地方の中小都市においては、中心市街地の衰退が顕著でそれに抗する動きが活発化している。また、農村部においては過疎という言葉はあまり使われなくなってきたが、依然として人口減少は続き超高齢社会になってきている。そのような中でも、それぞれの自然を生かした特産品づくりや観光開発など村おこしが盛んである。
 一方、ヨーロッパにおいても、パリやロンドンの計画的な都市づくりということだけではなく、スウェーデンでは高齢化社会のまちづくり1)が、ドイツやフランスの農村ではグリーンツーリズムを通して活発な村づくりの取組みがなされている。また、最近日本でもビオトープ(biotope)という概念が導入され、各地にそれに基づく公園が造られるようになってきたが、もともとこの言葉はドイツが語源である。たとえば、ドイツの農村では、大規模なビオトープが整備され、また川を自然の状態に戻す試みがとられ、これらの活動を通して村づくりが行われている。
 さて、現在アメリカ合衆国は、自動車の普及率が1.9人に1台という自動車大国である。この傾向は、自動車の価格が低価格化した1910年代以降にすでに始まっており、それに伴って郊外の都市化が急速に展開した。そのため、住環境を保護する政策としてゾーニング(zoning)が積極的に行われるようになった。一方、大都市では第2次世界大戦後、都心部の衰退やスラム化の拡大を防ぐため、雇用の機会と生活基盤の確保を目指しながら再開発が進められた。
 このような中、アメリカの諸都市では、それぞれ独自の計画を作成しユニークなまちづくりが実施されている。たとえば、ボルチモア(Baltimore)では古くなった港湾地区の再開発が行われている。これは港湾地区であるインナーハーバーで、古い倉庫や教会などの建造物を利用して、ショッピングセンター・博物館・水族館・会議施設・ホテルなどを建設し再開発を進めたのであり、地域の歴史的な特性を生かしたまちづくりといえよう。また、サンアントニオ(San Antonio)では、市内を流れる河川を公園化して保存するという取組みが早くから行われてきた。河川に沿って河岸遊歩道が整備され、ホテルやレストランが建設され、各種の文化的な行事も加わり、多くの観光客を集めている。この他にも高齢社会におけるまちづくりが実践されているカリフォルニア州ロスムア(Rossmoor)、美術館を軸に市民の地道な努力により町づくりがなされているアイオワ州デモイン(Des Moins)など様々な取組みがなされている2)
 さらに、1895年イギリスで始まったナショナルトラスト(National Trust)運動は、自然環境を守るということだけでなく、歴史的建造物の保存再生ということでも大きな成果を収めている。日本での妻籠宿の伝統的建造物群保存地区はこの運動の成果である。アメリカにおいても、イリノイ州ゲイルズバーグ(Galesburg)などひじょうに小さな町であるが、この運動の成果によってまちづくりがなされている。
このようにひじょうに多角的なまちづくりの取組みがなされているが、すべての運動に共通する視点が環境ということと、そこに住む人たち住民自身のためということである。
 さて、このようなアメリカ諸都市の取組みの中でも、我々が訪れたピッツバーグ、ツインシティー(ミネアポリス・セントポール)、サンフランシスコも独自のまちづくりがなされている。ピッツバーグはかつて鉄鋼で栄えた町であるが、反面スモーキーシティー(Smoky City)とよばれ、公害の町として知られていた。しかし、ルネサンス運動という都市再生プロジェクトが始まり、今や全米を代表する住みやすい都市へと発展した。経済都市ミネアポリスと政治都市セントポールがミシシッピ川を隔てて立地する2つの都市(ツインシティー)は、互いに競争する中でも協力し合いながらスカイウェイ(Sky Ways)の建設などでダウンタウンの活性化を図っている。また、サンフランシスコは全米でも最も住民の意見が取り入れられた都市の再開発が行われている。
 このような班の基本コンセプトの下で、ピッツバーグでは冨永浩文が「人々のくらしと公園−〜身近な地域から外国(アメリカ合衆国)へ視野を広げて〜」と題して報告する。住みやすさの中心ともいえる公園に焦点を当て、自然を重視する大規模な公園から再開発で生まれた公園、さらに児童公園をも取上げ、小学校3年生を対象とした教材化を試みた。ツインシティーでは、猪又力が「新しい地域づくり−地方自治の課題−〜ユニバーサルデザインdeまちづくり〜」と題し報告する。障害者だけでなく、高齢者、人種・民族、男女などすべての人にとって使いやすいということで提唱されているユニバーサルデザインに焦点を当て、ここからまちづくりを考えさせる手法により、中学校3年生を対象にした教材化を図った。サンフランシスコでは佐藤洋が「東京とサンフランシスコの比較−ティーム・ティーチングを導入した授業−」と題し、同じ湾岸での開発を重視し発展してきた両都市の比較により、再開発に焦点を当て、中学校2年生対象に教材化した。山内洋美は「日米農村比較−自然環境と生活環境−〜米どころ米山町とカリフォルニア米産地サクラメントバレー〜」と題し、特に米作に依拠する日米の農村を比較することによって、身近な地域のまちづくりを再考する教材を高校3年生対象に創った。


1) 栂野 孝(1999):高齢化社会の住まいと街づくり.和田一誠ら『地球人の地理講座2すむ』大月書店,124〜129p
2) 渡辺 明次(1991)はこの他にもニューヨーク州イサカ、オレゴン州アッシュランドなど多くのまちの紹介をしている。特にここで取り上げたボルチモアやサンアントニオなどは高等学校の教科書でも紹介されている。

参考文献
西村幸夫(1994):『アメリカの歴史的環境保全』実教出版,63p.
渡辺明次(1991):『世界の村おこし・町づくり〜まち活性のソフトウェア〜』講談社現代新書,222p.
小林重敬編 計画システム研究会著(1994):『協議型まちづくり』学芸出版社,294p.
大野輝之、レイコ・ハベ・エバンス(1992):『都市開発を考える−アメリカと日本−』岩波新書,235p.
寄本勝美(1993):『自治の形成と市民−ピッツバーグ市政研究−』東京大学出版会,370p.
石原照敏・吉兼秀夫・安福恵美子編:『新しい観光と地域社会』古今書院,121p.
Arthur G. Smith(1990):Pittsburgh Then and Now. University of Pittsburgh Press,Pittsburgh,325p.