Observing Mathematical Problem Solving Through Task-Based Interviews

By Gerald A. Goldin

(In A. R. Teppo (Ed.),  Qualitative research methods in mathematics education (pp. 40-61).
Reston, VA: National Council of Teachers of Matheatics. 1998年)



 この論文は、具体的な算数の問題を用いた構造的インタビューについて述べたものであるが、実際の手順を述べたマニュアルではなく、「数学的問題解決の研究における課題ベース(task-based)・インタビューという方法の、科学的基礎のいくつかについて議論すること」(p. 41)を目的としている。全体は大きく三つに分かれる。まず課題ベース・インタビューの今日的必要性と、それに関わって考慮すべき点が3つあげられる。数学的活動に注意が払われてきている今日の数学教育では、研究の手段としても評価のツールとしても、課題ベース・インタビューが必要なのである。次に、彼らのプロジェクトにおいて実施されたインタビューのシナリオ(script)が紹介される。これは1991年から3年間にわたって同一の20名ほどの生徒たち(初年度に3〜4年生)を追ったプロジェクトで実施された、5回のインタビューのものである。最後の部分では、これらインタビューのデザインにおいてGoldin氏らが上記の3つの点をどのように扱ってきたかが述べられている。以下では、この3点を中心に紹介してみる。

課題ベース・インタビューの科学的性格
 インタビューには厳密な意味での再現性はないが、数学の学習や問題解決についてよりよく理解しようとするのであれば、次のような点が目指されるべきとされる。

  1. 観察されたことと観察から推測されたことを区別すること;
  2. 自分の理論的背景を明確にし、それをもとに意識的にインタビューをデザインすること(次項参照);
  3. 推測を引き出す過程自体が議論できるよう、推測を引き出すときに用いる基準を記述すること。
氏らのプロジェクトではこれらに関わり、シナリオを作る際に「柔軟性」と「再生産性」が注意されている。前者は学習者の多様な探求の道筋に応じ、彼らの自発的なプロセスを引き出すようにすることであり、後者は課題変数などの制御可能な変数をできるだけ整備することである。そのためには、予想される反応をできるだけ考えておき、それぞれの反応に対するインタビュアーの介入の仕方を前以って明らかにすべきだとされる。これらの努力により、インタビュー自体の再現性や結果の比較可能性を高めるとともに、一般化可能性を調べる実験につながること、インタビューで予想されていた反応について議論すること、結果の分析について議論するための基礎を明確にすることをねらうのである。そのことが、課題ベース・インタビューに科学的性格を与えるというのが、氏の主張のように思われる。

課題ベース・インタビューにおける理論の役割
 インタビューにおける問いの選択には、研究者が持っている理論の影響が出るし、観察から引き出そうとする事柄を記述するには理論的枠組みが必要である(N. R. ハンソンの「理論負荷性」が思い出される)。前項でも触れたように、こうした理論的枠組みを明示的にすることは、インタビューの科学的性格を高めることになる。Goldin氏は数学的問題解決能力(competency)のモデルを開発してきたが、彼らのインタビューのシナリオは、このモデルを含む理論に意識的に基づいて作られている。例えば、(内的)能力およびその構造は観察可能な行動から推測しうること、それらの能力はいくつかの種類の内的表象にコード化されていることなどが前提となっている。用いられる課題の設定においては、やはり氏の有名な「課題変数」の理論が考慮されることになる。理論と観察の相互作用は避けられるものではなく、我々には2つの選択肢しか残されていない。すなわち面白そうな課題を選んで生ずることをただ見ているか、ある程度予想できる行動を引き出すようにデザインした課題を用いて体系的に進むかである(p. 57)。氏は後者を推奨するわけだが、しかし、予想外の反応の重要性にも触れている。大切なのはインタビューにより、理論的モデルの修正や発展が行われたり、将来の探求につながる推測が得られることである。

課題ベース・インタビューにおける文脈の役割
 インタビューは様々な文脈の中で行われる。見知らぬ人によりビデオの前で行われるインタビューは子どもの活動に当然影響を与えるし、また課題が学校の算数のようなものと見なされれば、正答や誤答がそこにあると子どもは考えよう。課題により作られる文脈を、子どもがどの程度リアルなものと見なすかによっても、反応は変わってくるし、課題の提示の仕方によっても変わってくる。たとえば、Goldin氏らはカードに書かれたドットのパタンを考える課題を用いているが、最初の3枚のカードを一度に見せてしまうか、カードを1枚ずつ子どもにめくらせるかによっても、影響が出るだろうとされている(この場合の影響は、悪いものばかりではなく、よい影響も考えられるわけである)。インタビューの科学的基礎という点からすると、様々な文脈上の変数に対して、安定しているものを観察から引き出すようにすることが求められる、と氏は述べている。

 文脈の影響を考えると、推測を引き出すための基準をあらかじめ考えることも難しさを伴うことになるが、彼らのインタビューでは、「考えられうる最良の予想を作り、文脈の変数も含めて、その予想に対する理由を明らかにするよう努める」ことが行われたそうである。いずれにしろ、課題ベース・インタビューが真剣に捉えられるのであれば、社会的、心理的、数学的な文脈上の要素が問題解決にどのように影響するかなどの、より深い理解がインタビューのデザインにとって本質的であると氏は指摘している。

インタビュー・デザインの原理
 最後に、彼らの5つのインタビューに共通する特徴が述べられ、さらにそこから4つの原理が抽出されている。前の議論との関係が見えにくい部分もあるが、これらの原理も、「できるだけ強力な科学的基礎を確立し、課題ベース・インタビューから得られる情報を最大限にするという目標をもって、インタビューをデザインしたり構築するための暫定的原理」(p. 61)とされている。 そこで取り上げられているのは以下の四つである。

 本論文で述べられていることを大雑把にまとめると、一方で、インタビューのデザインや分析においては、用いられる問題、実施される文脈、解釈者の背景知識など、インタビューに関わると思われる諸要素について、事前にできるだけ意識をし、制御できるものは制御するよう努めること、しかし他方で、インタビューの途中で現れる偶発的な事象には十分に注意を払い大切に扱うこと、ということになりそうである。この方向性は、佐藤郁哉「フィールドワーク」で述べられている、モ仮説モの考え方にも通ずるように思われる。中間部で詳しく述べられたインタビューのシナリオが後半の議論の中で十分活かされていないようにも思われるが、本稿は、質的研究を行うものが心のどこかで感じている問題を明示的に示し、また長年そうした研究を行ってきた先達の知見を与えてくれている。

 なお、元の本は JRME モノグラフの第9冊であり、Ernest「質的研究の認識論的基礎」、Pirie「質的研究のためのデザインに向けて」、DユAmbrosio「学習のための刺激としての研究の利用」などの11章からなっている。


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