Grade 6 Students' Preinstructional Use of Equations
to Describe and Represent Problem Situations

by J. O. Swafford & C. W. Langrall
(Journal for Research in Mathematics Education, 31 (1), 89-112, 2000年)


 この論文の目的は、文字式(algebra)についての指導を受ける前の6年生について、彼らが問題場面を記述したり表現したりするために式をどのように用いるかを調べることとされている。文字式の学習において生徒の直面する困難などについては多くの研究がなされてきている。また、文字式の特定の内容(例えば方程式の解き方)の指導を、生徒の持っている直観的な知識に基づいて考えることは、いくつかの研究でなされてきている。しかし、指導上の決定をするためには、指導前の生徒の文字式についてのインフォーマルな知識をもっと十分に考察する必要があるとして、Swafford氏らはこの目的を設定しているようである。

 研究は10名の6年生に対するインタビューの分析からなっている。なお 下位の生徒は自分の考えを言葉で表すことが少ないであろうとして、数学の成績が中位から上位の生徒の中から10名が選ばれている。文字式のフォーマルな指導を受けた生徒はいない。学校では標準的な教科書に沿って授業が行われており、6年生では最後の章が文字式の導入となっている。ただし、加数や被加数のわからない部分に文字を使うとか、簡単な式の評価(evaluation)、面積や体積の公式などは以前に導入されていた。5年生の時は、表を作ったりパタンを一般化するといったことが行われていた。

 インタビュー問題としては、6つの場面に対して類似の4つの課題が設定されたものとなっている。6つの場面は、

  1. 缶あたりの補償金が5セントのときの、ある数の缶に対する返却金を考える比例的な場面
  2. 基本給が週20ドル、残業1時間あたり2ドルのときの、ある残業時間に対する全賃金を考える 一次関数的な場面
  3. 10×10や5×5などのマス目を考え、辺にあたる部分にある小さい正方形の数を考える一次関数的な場面
  4. コンサートホールで1列のイスの数が前の列よりいつも2つずつ多くなるとき、何列目かのイスの数を考える等差数列的な場面
  5. 紙を半分半分に折っていくとき、折った数とできる面の数の数を考える指数関数的な場面
  6. 駐車場にある車を36人で洗車すると1時間で終わるとき、洗車する人数とかかる時間とを考える反比例的な場面
例えば賃金の問題であれば、以下のような課題が行われる。 こうした課題は、文字式についての歴史的発展に沿ったものと考えられている(pp. 90-91)。最後の課題は、生徒が方程式を数学的対象として扱い、式に対して操作を加えることができるか、という疑問に関連してる。

 インタビューは個別に行われ、各生徒について約45分であった。電卓や紙、鉛筆が準備され、各問題について考え方を説明するよう求めたとされる。またデータの分析は質的なものと述べられているが、Miles & Huberman "Qualitative data analysis: An expanded sourcebook" (1994) に従っており、ある種のチェック・コードやTask Coding Matrixを利用したと書かれている。

 全体的な結果としては、調査に参加した10名の生徒は、関係を記述したり変数を用いて式を書くことで、問題場面を一般化することについて、大変な能力を示したとされている。比例、一次関数的な場面では6〜7名が記号的に表現しているし、反比例的場面でも5名、等差数列的場面で2名、指数関数的場面でも3名がそうしている(ただし、標準的でない表記も含まれている)。しかし、比例や一次関数の場面で変数間の関係を記述できたものは8〜9名になり、等差数列の場面では5名が、指数関数の場面では7名が再帰的な関係を利用している。これより、関係を記述できる生徒はさらに多いことがわかる。式を書いても、それを用いて関連した問題を解く生徒は少なく、利用する場合でも、方程式を「実行されるべき演算のリストとして」(p. 96) 用いていた。

 次の部分では、6つの側面について生徒の考え方の考察が行われ、また典型的な反応のプロトコルが掲載されている。取り上げられる側面は、具体的な場合を計算する、関係を(言葉で)記述する、記号的に表現する、方程式を使う、表の役割である。ここではタイトルに直結していると思われる、記号的に表現することと方程式の利用について簡単に述べておく。

 一人をのぞいては何らかの場面で記号的に表現することができた(ただし、2名は一つの場面についてのみ表現できた)が、記号的に表現できなかった生徒は、具体的な数値を計算したり関係を言葉で記述することにも困難を感じていた。関係を言葉で記述できた生徒だけが式を作ることができた一方で、言葉で関係を記述できたからといって記号的に表現ができるわけではなく、指数関数的場面では全員が言葉での記述ができながら、記号的に表現できたのは3名であった。全体としては、反比例や指数関数的場面の方が、比例や一次関数的場面よりも難しいようであった。なお、記号的に表現できたといっても、その中には標準的でない表記も含まれている。例えば、残業の問題(一次関数的場面)では、次のような式が観察されたとされる。

×
ここに、wは固定給の20ドル、hは残業時間、qは2、sは答えである。つまり、賃金を計算する仕方を、筆算のようにして書いたものとなっている。同じ問題に対して別の生徒は、

n×2=n+20=

と書いているが、ここではnは残業の時間と残業代の双方を表している。またこの式では、二つの演算が二つの式で表され、それが羅列されているが、これは辺上の正方形の数を求める問題に対する以下のような反応にも見える。

n×4=[空白] −4=b
N×4=B−4=N

最初の式では、部分的な結果を表すのに空白が用いられている。このように、二つの演算を二つの式を羅列することは、10名の生徒のうち6名で見られたとのことである。ここでn×4の結果にBという文字を当てたり、空白として残しておくことは、n×4自体を数として見ることができない、ということを意味しているようにも見える (p. 109)。

 この部分で取り上げられたプロトコルは、具体的な計算から式への移行を考える上で、面白い現象を示している。辺上の正方形を求める問題で、この生徒は10×10、5×5、100×100の場合について、n+n+(n-2)+(n-2)に相当する計算で答えを求めている。その後、3×3から12×12までの表を埋めるように言われると、4ずつ増えるというパタンを見つけている。個数を見つける公式を書けるかと問われると、n×4−4=と書く。さらに、公式を説明するよう求めると、「各辺上にある個数に辺の数をかけて4を引く。なぜなら、角のは2度使えないから」(p. 102)と説明している。つまり、以前の計算で使っていた方法や表の中で見つけた再帰的方法の、どちらとも少し異なる関係を表すような式を書いているのである。この点をSwafford氏らは「具体的な場合や表を用いて、自分の解決過程をより経済的な形に縮約(reduce)している」(p. 102) とか、「様々な関係を記述した後で、自分の計算過程をより経済的な形に統合する(synthesize)することができた」(p. 103)などと考察している。

 式の利用に関しては、生徒が自分の作った方程式を数学的対象として利用することは希であったと、述べられている。それでも、2名の生徒は、方程式中の演算を逆にして問題を解くという形で、方程式を明らかに利用していた。例えば残業の問題で、自分の式を利用して、賃金が50ドルになるときの残業時間を求めるように尋ねられたある生徒は、

h×2+20=w
50−20÷2=h

と2行目を書き、これにしたがって15時間と答えを求めた。他の何人かの生徒は、演算を逆にすることで答えを求めながらも、それと自分の式とを結びつけてはいないようであった。例えば、コンサートホールの最後の列のイスが50個だとして、何列あるかを尋ねられたある生徒は、「推測とチェックでやることができる」と述べた後、何に2をかけると42になるかを求めなければいけないとしている。42がどこから得られたかを聞くと、50から8を引くのだと答え、最後に答えを21列と求めている。しかしその生徒が書いたr×2=[空白]+8=sが利用できないかと尋ねられると、「できない」と答えている(p. 104)。

 また、缶の返却金が3ドルになるのは何缶かを尋ねられると、「10缶で50セントだから20缶で1ドル、それを3倍すればいい」と答えるとか、賃金が50ドルになるときの残業時間を求められると、「10時間残業すると40ドルになる、そこから50ドルになるまで2ドルずつ足していくと、指で5回数えたから15時間」と答えるなど、式を作っていながらもそれを利用せず、頭の中で計算したり、表を延長するといったやり方で考える生徒が多かったとされる。

 最後の節では、調査結果のまとめとそこから得られる示唆が述べられている。対象となった6年生で文字の使い方に不安定さが残ること(p. 110)を認めながらも、全般的には、問題場面の関係を一般化したり、文字を使って式で表すことができたと、また自分の方程式を用いて関連した問題を解くことはあまりできなかったと、Swafford氏らは考えている(p. 107)。式は数学的対象ではなく、操作の列に過ぎないのである。

 生徒の様子として、良く知っている算術(arithmetic)を一般化するのは容易だが、慣れていない算術を一般化することは難しいことがあげられ、そこから、5〜6年生が、反比例や指数関数的場面を含む多様な場面についての豊かな経験を持つことの必要性を、彼らは指摘している(p. 108)。また、同じ場面について数値を変えたものを扱うことが、自分の用いたプロセスに注意を向け、プロセスの一般化を促進することにも触れている。そこから、低学年では様々な文脈の中で演算の意味を発達するさせることが大事だが、5〜6年生では、同じ文脈の中での変化の影響を理解することに焦点を移行すべきであるとしている(p. 108)。

 ここでは表の利用に関する部分の紹介は省略したが、問題を理解する(make sense)ために生徒が作ったときには表は有用だが、インタビュアーが与えたときには、生徒の焦点を問題から数の列に向かわせ、結果的に注意をそらすものとなったことや、あるいは、5〜6年生段階では、表現と場面の関係や表現間の関係を考え、問題場面を一般化することに重点が置かれるべきとする意見は、大切なものと思われる。

 このSwafford氏らの論文を読んでみて、6年生の生徒が文字を用いて場面を表現することにかなりの能力を持っていることを感ずるとともに、それだけの表現ができても式に対して操作を加えること、あるいは式自体を一つの数として見ることの難しさがあることを、改めて感じた。これはSfard氏の二重性の考えにも通じるように思うが、式を操作として見ることと対象と見ることとのギャップは微妙であるとともに、また大きなものなのであろう。またこの論文を読み、あわせて米国の6年生の教科書を見たときに、文字式の導入についてかなり積極的に向かい合っているような印象を受けた。我が国の文字式の指導に関する議論でも、こうした点は考慮されても良いのではないだろうか。

【註】ここで式を評価するというのは、式の値を求めることで、今の場合であれば、文字の入った式に対し、その文字がある値の時(k=3のとき等)に式の値を求めることと思われる。なお手元にあった1993年版のAddison-Wesleyの教科書を見ると、6年生の「文字式の導入」では、3b+2=14をおはじきなどの具体物を使って解く、n+76=182を推測とチェックにより解く、x-19=84で両辺に19を加えて解く、4n=96で両辺を4で割って解くといったことが扱われていた。ちなみに、3n-4=11を逆の演算を施していって解くことは、7年生の教科書で扱われていた。また6年生の教科書の前の方では、わからない数を文字でおいて(2/5)=(n/45)といった式を作り、うち消すような演算を考えてnを求めることや、ある数より4小さいことをn−4と表したり、ある数を2倍にすることを2×nと表すことが扱われている。さらに、84=8×8×8×8や1.93なども6年生の教科書の前の方で扱われている。 (本文へ戻る


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