コブ氏らの教授実験の事後インタビュー


Cobb氏らの統計教育についてのプロジェクト(その4)


 コブ氏を中心としたプロジェクトでは、1998年秋に第8学年を対象に教授実験を行ってきた(その1その2その3参照)。8月14日にスタートした一連の授業は、当初は10月30日までの予定であったが、ミドルスクールの許可を得てさらに4時間が追加され、これが11月12日から20日にかけて行われた。最後の教材は、速読のプログラムの効果を比較するというものであった。二つのプログラムについて、各150名程度の参加者の事前と事後の読む速さ(単語/分)を散布図に表したものをもとに、どちらのプログラムが効果的かを考えるというものであった。また、これに先立つ教材としては、男性と女性それぞれについての、教育年数と年収を表したグラフ(8年〜18年、各年数20名)をもとに、男女の差を考えるものが扱われた。この場合は、前者の散布図と違い、年数については、8年、9年、・・・と離散的になり、その上に直線状にデータ点が分布することになる。彼らはこれを、"stack data" と呼んでいた。各直線状のデータについては、7年生のときにやった第2のミニツール(その2参照) の考えを利用することができ、それを手がかりに、2次元の散布図における分布や共変の考え(その1参照) に対する生徒の理解を支援しようということのようであった。

 一連の授業が終了後、11月23日より12月7日まで、途中感謝祭の休みを挟んで、事後インタビューが行われた。対象は、授業に最後まで参加していた10名の生徒と、10月末まで参加していた1名である。要するに、授業の最後の方まで参加していた生徒全員が、インタビューへの参加を承諾したことになる。インタビュアーは博士課程の院生であり、一人がインタビューを行い、もう一人はカメラを操作しながら、生徒らの言動をメモしていく。見ていると、生徒の話した内容をほとんどそのまま書き取っているようであり、メモの量は相当なものであった。インタビューは二つの部分からなる。。第一の部分は個々の生徒に対するインタビューであり、第二の部分は生徒のペア(1組だけ3人)に対する、コンピュータ上でミニツールを使える状態でのインタビューである。コブ氏からは、指導にならないように、生徒の考えを理解するように、との注意が与えられたいたようである

 個別へのインタビューでは2つの問題が用意され、そのうちの一つが提示される。問題は、(1) 前日に摂取したカロリーと試合当日のエネルギーについて、フットボールのコーチに提言する、(2) 歯を磨く時間と歯垢の残留量について、歯磨き粉の会社に提言する、というものである。前者の散布図は低いところから始まり、途中まで上昇し、あとは平ら(あるいは若干下降) になる、といった形状であり(グラフのイメージはこちら)、後者はそれを上下ひっくり返したのようなものになる。ただし、データは結構散らばっており、傾向は自明ではない。インタビューではまず、問題文だけが示され、どのようなデータを集めたらよいか、それをどのように整理するかなどが問われる。次に研究者が50名程度のデータをとったことを伝え、それをどのように整理するかが問われる。その後、5種類のグラフ、表が示され、どれが今の目的にとってもっとも有用が選ばせ、さらにそれを分析して、自分なりの提言を紙に書くよう求められる。5種類のグラフ、表は、(1) 名前と2変数の数値が書かれた表(第1の変数=カロリーor歯磨きの時間の小さい順に並べる)、(2) 各変数についての2つの棒グラフ(縦に名前、棒は横向き、それぞれの変数の小さい方から並べる)、(3) 散布図(横軸に第一変数、縦軸に第二変数)、(4) 2つの棒グラフ、ただし、第二変数の棒グラフは第一変数の名前の順に合わせる、(5) 2重の棒グラフ(縦に名前を並べ、そこに第二変数を表す黒い棒と第一変数を表す白い棒を横に描く、第一変数の小さい順に並べる)。書かれた提言に関って、傾向があるかなどが質問される。また、同じ調査を他の人たちに対して行ったら結果はどのようになるかなども質問していた。その後は、調査に半分だけ参加した3名について、第一変数の値が示され、その人の第二変数の値を予想するよう求められる。最後に、データに関って6つの陳述が示され、それに賛成か反対かが問われる。たとえば、「たくさん食べた人は高いエネルギーレベルになっていたので、出来るだけ食べた方がよい」「データに傾向はあるが、例外もあるので提言はできない」といった陳述が示される。

 コンピュータを用いたインタビューでは各グループに2つの問題が提示された(問題は全グループで共通)。一つはある学校の各年の電気等の消費量が示され、消費量を押さえるという試みが成功しているかをたずねる。横軸に年をとり、各月の消費量をその年の上に積み重ねたグラフを表示するので、これは stack data の分析に当たる。第二の問題は数学不安とテストの得点の関係を問うもので、数学不安は連続的な尺度として取られているので、これは stack data ではないものの分析となる。こちらのインタビューではデータを見せながら問題の文脈、内容を説明したのちは、自由に分析させていた。生徒は自発的にミニツールのオプション(その3参照) を使いながら考察していたように見受けられた。そして、ペアでの話し合いなどの途中で、インタビュアーが生徒らの考えを理解するために、介入をするという形である。

 これらについての詳しい分析結果は、8年生の教授実験の分析と合わせて、いずれ論文として諸々の場所で発表されるであろうが、見ていていくつか面白い傾向があった。第一は、授業中とインタビューでの反応が異なる子が多いのである。授業中に主導的役割を果たし、こちらの目指していたことを理解してくれていたように見えた子が、データの個別の点に注目し、傾向をまったく考えられなかったり、逆に授業中はほとんど発言がなかったり、授業の流れとは異なった発言の多かった子が、こちらが目標としてきたような考え方をしてくれたり、といったパタンである。授業中我々が見ていたことが、子どもの学習について何を教えてくれていたのかと、思わずにはいられない。第二に、個別のインタビューの最初にデータの整理の仕方をきくと、散布図のようなグラフを描いてみせる子が、5つのグラフから選ぶ段になると、表や棒グラフを選ぶ場合が多いことである。11名中散布図を選んだのは4名であり、4名が表、3名がいずれかの棒グラフを選んだ。生徒にとっては、被験者の名前や正確な数値がわかる表現が好まれるようであった。第三に、傾向がないと考える生徒が多いことに加え、傾向を見出した生徒でも、全般的な傾向を見ているというよりも、中央部分のデータの比較的固まったあたりを見ているらしい場合があったことである。データは上で述べたような形状をしているが、上昇しきるあたりで比較的散らばりが少ない。その部分を指して、「ここは安定しているからいい」「最初のあたりや最後の方は例外があり、予想はしにくい」といった発言がしばしば聞かれた。このあたりは詳しい分析が俟たれるが、我々数学の教師の目にうつる分布と、彼らの目にうつる "分布" とは少し違うのではないか、という疑問を持った。

 12月10日、11日にプロジェクトのミーティングがもたれ、グラフメイヤー氏、コノルド氏なども出席された。そこでは事後インタビューなどの内容の報告や学習軌道の修正の方向などとともに、プロジェクトの次のフェーズ、すなわち教師コミュニティの支援とその維持というテーマについても、かなり話し合われた (その1参照)。今後数年はこうした取り組みが主になるような感じであり、マーシー・ガベラ氏(ヴァンダービルト大) を中心に、1999年3月からの取り組みについて話しが進められていた。

 なお、このミーティングに続く12月11日、12日には、ヴァンダービルト大のパット・トンプソン氏のプロジェクトのミーティングがあったが、テーマはハイスクールでの統計教育ということのようであった。こちらのメンバーは、Mike Shaughnessy, Leslie Steffe, Martin A. Simon といった顔ぶれであるが、ミーティングにはコブ、グラフメイヤー、マックレーンの各氏も一部参加されていた。逆に11日のコブ氏のミーティングにはトンプソン氏が出席しており、互いに情報を交換しながら自分のプロジェクトを進めているようである。


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