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上越教育大学大学院の私的ご案内2


修士課程 vs. 教職大学院

もう一点,私的ご案内として,修士課程自然系コース(数学)に触れておきたいと思います.近年教員養成系の大学や学部の多くには教職大学院が設置されました.上越教育大学では,今のところ修士課程と教職大学院が併存しており,大学院で数学教育に関する勉強をするには,二つの選択肢があります.私は前者を担当しています.では,修士課程と教職大学院では実際に何が違うのでしょうか.わかりにくいところも少なくないのではないでしょうか.そこで,両者の違いについて私の私的な見解を書いておきたいと思います.大学院選択の際の参考になれば幸いです.

修士課程と教職大学院の主たる違いは,一言でいえば,「理論」と「実践」のいずれを重視するのか,その度合いの違いだと思います.前者を重視するのが修士課程,後者を重視するのが教職大学院です.ただし,修士課程であっても,本学の場合,数学教育学の研究室に所属すれば,理論を重視はするものの,実践とかけ離れた研究をするということはありません.教職大学院では,4ヶ月の現場での実習があり,日々の実践の中で授業改善等を検討します.一方,修士課程では,算数・数学のある領域やテーマに焦点を絞って,その教育的な性格を追究します.指導の内容や数学の指導・学習をより深く理解することにより,数学教育の改善の方策を探り,そして教師に必要となる力量を高めるのです.その際,学校に赴き,実際の子どもの問題解決過程や算数・数学の授業をデータとして収集することもしばしば必要となります.それは,特定のものに焦点を当てるため,教職大学院のように何か月も継続して学校に赴くことはまれですが,得られたデータを非常に多くの時間をかけ,より深く分析するという点は,修士課程の特徴だと思います.

また,理論と実践のいずれを重視するのかということと関連して,いろいろな違いが出てきます.まず,中心的な研究の問いがやや異なります.子どもたちにとって学習が難しい内容があれば,実践重視の場合,当然ながら,どうやって指導したら子どもたちがうまく理解してくれるか,どんな指導の方法があるのかということに関心がいきます.つまり中心的な研究の問いは,「どうやって」や「いかに」という対処方法についてのものです.一方,理論を重視すれば,対処方法を考える前に,なぜそれが子どもたちにとって難しいのか,ということの理解に関心がいきます.つまり中心的な研究の問いは,「なぜ」というものです.もちろん,修士課程でも「どうやって」という問いが,教職大学院でも「なぜ」という問いが問われることもしばしばありますので,これはどちらが中心的かという程度の問題でしょう.

さらに,修士課程と教職大学院では,研究の視点もしくは立ち位置も異なるように思います.教職大学院では,今日の学校教育の現場に入って,そこでの課題を解決すべく活動を進めるため,学校教育の内側の視点・立ち位置でものごとを考えます.これは,現場の課題に対処するためには大変重要なことです.授業改善,学力向上を目指していれば,当然のことでしょう.一方,修士課程では,研究の視点・立ち位置は学校教育のむしろ外側にあります.今日の学校教育の範疇に留まることなく,より広い視野のもと算数・数学の指導と学習を考察します.例えば,なぜ中学校で三角形の合同を教えるのか,なぜ証明を教えるのか,そんなもの教える必要があるのか(例えば,フランスでは証明は教えますが,三角形の合同条件は教えません),高校での数学は多くが意味を伴わずテクニックのみ学習されている,なぜそのようなことが起きているのか(受験だけが理由ではないと考えます),などという問いから,役に立たない高校数学なんてホントに教える必要があるのか,という物議を醸しだしそうな問いまでも扱います.つまり,今日の学校教育に存在する種々のものごとを当然のものと考えるのではなく,一歩下がって研究者の外的な視点から,それらをより根本的に問い直していくのです.このことは,算数・数学の授業を研究の対象とする際も同様です.授業がうまくいったいかないという実践的な判断よりも,第三者の外的な視点から,そこでの指導と学習がいかなる仕組みで生じているのか,授業そのものを理解することに努めます.

以上のことをまとめると次のような表になるでしょう.

 修士課程  教職大学院 
 重点 理論実践
 中心的な問い なぜ(理解)どうやって(開発)
 視点 外側内側

こういった違いを考慮に入れて大学院を選択してもらえるとよいかと思います.個人の関心があるので一概には言えませんが,個人的には,ある程度実践的な力量をもっている方には,算数・数学教育を一歩下がって広い視野からとらえなおすことを重視する修士課程をおススメします.

注:「理論」については「修士論文について」をご覧ください.


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Created: 2015/07/24
Last update: 2017/06/08