論文の主要部分では、以上のような立場に立って、二人の中等学校の生徒の数学の授業における心的経験について、それぞれの生徒の用いる学習方略 (learning strategies) に焦点を当てて分析を行っている。この二人のうち一方は数学を得意とする生徒であり、他方はあまりそうではない。データの分析の結果、彼らの大きな違いは「彼らの学習の目的と、適切で効果的な学習方略の適用の仕方」 (p. 363) にあるとされている。そしてある意味において、前者は自分の学習環境の解釈に関わるものであり、後者はメタ認知的知識に関わるものと考えることもできる。二人の生徒はともに、授業に能動的に参加し、課題や宿題もきちんとやっている。このとき得意な生徒の学習の目的が「内容を理解し、新たな知識を構成すること」であるのに対し、得意でない生徒の目的は「教師や教科書から知識を吸収すること」であった。そしてそれぞれの目的にしたがい、彼らは学習方略を適用していたのである。例えば前者の生徒は、自分の今経験していることを既有の知識との関連で考え、クラスの議論を批判的に評価し、自分に質問を課して探求を進めたり、自分の理解をチェックしたりしていた。また教師の説明などを聞いているときも、自分に必要な情報を選択して聞いていた。これに対し後者の生徒は、短答式の質問にはよく答えるが、それは「間違っていれば教師が正答を与えてくれる」のを期待してのことであり、教師の答えは無批判的に受け入れ、それを自分でなぞれるかどうかにより評価していた。また他の生徒の答えは教師がどう応じたかとか、誰が答えたかにより評価していた。
このように、授業に積極的に参加している点では同じでも、心的経験の質は異なっている。今後は個々の生徒のこの質に注意を向けて、構成主義的な授業を考えていく必要があるのだろう。