記録編 ピッツバーグ 4/4
ペンシルバニア州立大学インディアナ校
(埼玉県春日部市立武里中学校) 大島 薫
 (4) 高等学校での実践報告
 公立の高等学校での実践報告はサンドラ・キンター(Sandra Kinter)氏が担当した。氏は、「世界の文化」の授業のロシアの単元で扱った複数の教材をもとに、ワークショップ形式でその具体的な展開を紹介して下さった。単なる知識・理解に終始しがちな地理学習を、グループワーク等と通じて多面的に学習させられるよう工夫しているのがよくわかった。
クロス氏
ていねいに小学校の事例を発表する
クロス氏(右)
 (5) 各事例が日本の学校教育に示唆するもの
 以上の四氏の報告は、当初の予定よりも日程が遅れた関係で、非常に限られた時間でのレポートになってしまったことが悔やまれる。筆者にとって印象深かったことは、「学区」の要望や必要をふまえたカリキュラム編成が重視されるアメリカであるからこそ、現職教員自身がどれだけ専門的な見識と指導技術を有しているかが日本以上に強く求められているという点である。多様な子どもたちの能力や現実に応じた教育を提供していくことの難しさと可能性について考えさせられることの多いひとときであった。
   4 おわりに―アメリカの教育改革と日本の学校教育の課題―
 日本では2002年の新しい学習指導要領実施に向けて、教育課程審議会の答申がなされた。新しい教育の流れは、換言すれば、今日のまたは将来の日本の教育への危機感の裏返しであろう。アメリカの教育改革の動向を見るときに、日本と抱えている状況は異なるが、学校教育への危機感は相通づるものがある。
 筆者がインディアナ校でのセッションで深く感銘を受けたことは、学術研究者が現職教員と積極的に連携して新しい教育改革に参与していることである。「地理ナショナル・スタンダード」そのものも教育現場に明るい学術研究者が中心になって編纂したものである。また実際のカリキュラム編成となれば、より地域密着型の発想でなされていくわけだが、その際、現職教員が地元の大学で教鞭をとっている学術研究者とネットワークがとりやすい状態になっているように見受けられた。
 これからの日本の学校教育課題を解決するにあたり、アメリカの実践に学ぶところは多い。トップダウン型の発想ではなく、専門的な知見を有した現職教員が自らの問題意識を学術研究者に投げかけ、双方向で研究を進めていく姿勢を持つことがより重要になってくるであろう。ここペンシルバニア州ではそのような試みがすでに根づき始めていることを痛感したものである。
<参考文献>
Geography for Life National Geography Standards 1994
Geography Education Standards Project Developed on behalf of the American Geographical Society, Association of American Geographers, National Council for Geographic Education, National Geographic Society、1994
田部俊充・山縣耕太郎・小口久智・多胡清一「アメリカ合衆国における『地理ナショナル・スタンダード(1994年版)』の概要と18スタンダードの全訳(1)(2)(3)」新地理第45巻第3―5号1997年12月号、1998年3月、6月」日本地理教育学会、1997、1998