そこで、本研究は証明の導入期における証明の意義の理解過程を明らかにすることにより、中学校図形領域における証明の意義の指導について改善への示唆を得ることを目的とする。
2.研究の概要
第1章では、佐伯(1995)の「文化的実践への参加」の学習観の立場から、生徒を「証明の世界」へ誘うには、証明以外の方法では問題を解決できない状況に生徒を置き、証明自体に備わっている機能に意義を見出させる指導を行う必要があることを述べた。
また、証明の意義や機能に関する先行研究を調査した結果、証明に備わっている機能は立証、説明、体系化、発見、コミュニケーションであるが、それぞれの機能の特徴および生徒の証明の意義理解の実態から、証明の導入期には説明の機能に重点を置くべきであることを述べた。
さらに、Hadasら(2000)などの先行研究についての考察により、説明の機能に意義を見出させるためには生徒を矛盾や不確実性の状況に置き、「なぜか」との問題意識を発生させることが有効であろうことを述べた。
しかし、証明の意義の理解をめざした実践研究は少なく、生徒の証明の意義の理解過程の実態は明らかではない。
第2章では、生徒の証明の意義の理解過程を明らかにするための準備として、証明に備わっている説明の機能の意義の理解をめざした授業構成について述べた。具体的には、Hadasら(2000)に基づき、平行線・非平行線の同側内角の和の題材と二等辺三角形の性質の題材を中心に、教科書の題材配列順のまま課題内容や課題系列を工夫することによって矛盾や不確実性が発生するであろう授業構成を構想した。
第3章では、第2章で構想した矛盾や不確実性が発生するであろう授業構成に基づいて筆者が実際に授業を行い、生徒が証明の意義を理解する過程を調査・分析した内容を述べた。
調査にあたっては、公立中学校2年生1クラスの少人数指導(生徒数30名)の授業において、一人の生徒幸太君(仮名)を対象に観察を行った。観察の記録にあたっては2台のVTRを使用した。1台は幸太君の表情やノートへの記述を中心に撮影し、もう1台は授業での教師の説明と黒板の記述の様子を撮影した。対頂角から直角三角形の合同条件までの全23時間の調査授業のうち、矛盾や不確実性によって「なぜか」との問題意識が発生するであろう授業構成に基づいて行った授業を中心にビデオの記録やノート等のコピーをもとにプロトコルを作成した。分析においては、証明の記述の有無に関わらず、証明によって反論、説得、納得を行おうとする行動がなされたときに証明の意義が理解されたとして捉えた。対頂角、平行線・非平行線の同側内角の和、多角形の内外角の和、証明の手順、二等辺三角形の性質の授業を対象に、幸太君の中に発生した問題意識の内容と幸太君の証明の意義の理解について分析した。その結果、矛盾や不確実性が発生した場合は問題意識が発生したが、問題意識が発生した場合でも証明の意義が理解される場合とされない場合があることが明らかになった。
第4章では、第3章でのそれぞれの授業における証明の意義の理解過程を総合的に考察することから得られた次の知見について述べた。
しかし、授業時間内に個々の生徒の問題意識に対応する証明を提供することは困難である。生徒たちが経験するであろう証明と対応するような問題意識を発生させるような課題系列や課題提示の仕方についても研究する必要がある。
4.主な引用・参考文献
佐伯胖, 藤田英典, 佐藤学. (編著). (1995). 学びへの誘い. 東京大学出版会.
Hadas, N., Hershkowitz, R., & Schwarz, B. (2000). The role of contradiction and uncertainty in promoting the need to prove in dynamic geometry environments. Educational Studies in Mathematics, 44, 127-150.
指導 布川 和彦