ごくごくうちわ向けの論文執筆ガイドライン

執筆ガイドライン

Last Updated on: 2008.02.18.

< 予 習 編 >

論文を書き始める前,余裕のあるうちにチェックしておきましょう。

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0.はじめに

 これは論文を執筆するときに参考にするためのガイドラインです。「こう書きなさい」という執筆要項ではありません。

 このガイドラインは,おおむね「心理学研究」の執筆規程に沿って書かれていますが,学会誌の場合と卒論・修論とでは異なる部分もありますので,注意が必要です。また,論文の書き方は意外にきちんと指導されることは少なく,各研究室ごとに営々と受け継がれたりするものですので,けっこう微妙な差異(ローカル・ルール?)があります。あなたが所属しているゼミで,このガイドラインとはちがうことを言われたら,迷わずゼミの指導教員に従ってください。

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1.論文の構成

1.1 一般的な章立て

 論文の一般的な構成は次の通り。

はじめに (書きたい場合のみ;本文とは別のページ番号)
目  次 (本文とは別のページ番号)
第1章 問 題  (タイトルは「問題」や「問題の所在」が一般的だが,研究に合わせて,具体的なタイトルを付けてよい;本文のページはここからふる)
第2章 目 的
第3章 方 法
第4章 結 果
第5章 考 察
第6章 要 約
引用文献 (または「引用・参考文献」だが,おすすめはしない)
あとがき (または「おわりに」。謝辞はここ,または「はじめに」にまとめて書く。「謝辞」という章を別に立てるのはイヤミ。)
資  料 (実験で用いた材料や質問紙の実物,面接の逐語録など,必要に応じて置く;本文とは別のページ番号)
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1.2 複数の実験がある場合の章立て

 複数の実験・調査がある場合は,以下のように章立てする。

はじめに
目  次
第1章 問 題
第2章 本研究の目的
第3章 実験1
第1節 目 的
第2節 方 法
第3節 結 果
第4節 考 察
第4章 実験2
第1節 目 的
第2節 方 法
第3節 結 果
第4節 考 察
第5章 全体的考察
第6章 要 約
引用文献
あとがき
資  料

 研究内容に応じて章の構成は自由に変更してよい。問題や考察の章を複数の章に分けて論述する場合もある。「問題と目的」,「結果と考察」というようにまとめることもある。

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2.問 題

■問題は
あなたの研究がどれだけ意義のある研究かを,読者にアピールするところ。
自分の主張をしっかり書き込んで,みんなに訴えよう。

 自分はどのようなことがらに問題意識を感じているか,それはどのような心理学的概念として研究されているか,その問題に関して,先行研究では何が明らかにされてきたか,あるいはまだ明らかになっていないか,といったことについて概観し,本研究の位置づけと意義を説明する。つまり,「自分の問題意識に照らして,先行研究ではこのような点がまだ不十分だから,本研究ではその点を明らかにする。またそのために,こんな工夫をしている。」というように,本研究の意義を訴えていく。次の「目的」にきちんとつながるよう,論点を整理し,順序立てて論述すること。

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2.1 先行研究とのつきあい方

 「問題」では,先行研究のレビューが中心となるが,ベースとなるのは,あくまであなた自身の主張である。先行研究は,それを補足しているにすぎない。先行研究にふりまわされないように注意しよう。

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2.2 たくさん書けばいいわけではない

 自分が読んだ研究を,なんでもかんでも全部とりあげて,レビューしてはいけない。論文はあなたの勉強ノートではないし,あなたがどれだけ苦労したかを自慢するところでもない。

 研究目的に直接結びつく先行研究だけに絞りこんで,あとは思い切って捨てよう。また,同様な内容の研究が複数あるときは,全体をまとめて記述し,冗長にならないようにする。

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2.3 直接引用を避けよう

 直接引用はなるべくしない。心理学では,誰が何と言ったかより,そのことが実証されているかどうかがだいじなので,誰かの発言を一言一句正確に記載することには,それほど意味がない。必要な部分だけを簡潔にまとめて述べればよい。

 直接引用を用いるのは,概念の定義や,一般的でないその人固有の言い方を強調したいときなどに限られる。

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2.4 先行研究を批判しよう

 先行研究の不十分な点をしっかり批判しよう。先行研究が“すばらしい”と言っているだけでは,新たに研究する意味がない。先行研究に問題や不足があるからこそ,それにもとづいて,自分の研究ではこんな工夫をしました,と売り込むことができる。

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2.5 プロットを作ろう

 基本的に,1つの段落には1つの主張だけを書く。段落の途中で別の主張が出てきたりすると,筆者が何を言いたいのかわかりにくくなる。

 全体の見通しを立てるために,節・項レベルでの目次を作って,論述の流れを確認しておくとよい。それをもとに,各部分で何を説明するか,どこでどの先行研究を使って説明するかを,箇条書きにしていく。この各項目を1つの段落で説明するつもりで,文章を肉づけしていく。

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3.目 的

■目的は
この研究で,何をどこまで明らかにするかを宣言するところ。
大言壮語の問題意識ではなく,具体的に,また限定的に書こう。

 目的には,「~について検討する」とか「関連を見る」などといった漠然とした目的ではなく(そういう表現は「問題」向け),どのような場面を設定し,どのような条件・指標を使って実験・調査を行うか,またそれによってどのような差異が予想されるかを,具体的に書く。その条件・指標を用いる理由については「問題」で詳しく説明しておき,「目的」では簡潔に,それらを「用いる」と宣言すればよい。

 実験・調査が複数にわたる場合は,各実験・調査のアウトラインやそれぞれの位置づけについても書いておくとよい。

 また,検証すべき仮説などは,ここで述べる。

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3.1 仮説を書くときにチェックすること

 仮説を書くときは,その仮説が成り立つ根拠が,「問題」できちんと示されていることを確認しよう。「目的」で唐突に仮説が出てくるようなことがないように注意すること。

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4.方 法

■方法は
お料理レシピみたいなもの。読めばだれでも同じ実験・調査がやれるよう,やり方を詳しくていねいに書いておこう。

 研究の対象(被験者)・材料・手続きなどについて,それぞれ節を分けて記述する。論文を読んでその研究に興味を持った人が,「まったく同じやり方で実験できるように」書く,というのが基本。

 一般的には,最初が「被験者」の節で,最後が「手続き」の節。中間には,実験条件や課題,材料,質問紙の構成,実験期日などが必要に応じて入る。

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4.1 「方法」に書くこと/「結果」に書くこと

 実験前から決まっていたことは「方法」に,実験の後ではじめてわかったことや,変更したことは「結果」に書く......と覚えておくとよい。

 「結果」で分析する測度や調査項目は,実験前にわかっていることなので,すべて「方法」に記述する。「結果」ではじめて出てくる項目などがないよう注意。

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4.2 「方法」に書くこと/「問題」に書くこと

 条件設定の理由や使った尺度の意義などは「問題」で詳しく説明しておく。「方法」ではできるだけ淡々と,それらを使ったという事実だけを書く。

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4.3 複雑な「手続き」を書くときの工夫

 調査とちがって,実験手続きは繁雑になりがちだが,手続きが複雑なときは,フローチャートを作っておくと内容が整理しやすい。論文に書くときも,フローチャートに沿って最初に全体の流れを説明しておくと,あとの説明が楽。

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5.結 果

■結果は
事件現場の証拠集めみたいなもの。データから何が読みとれるかを,冷静に書こう。主観が入ると捜査の目が狂う。確実な事実だけを語ろう。

 「結果」には,基本的に“事実”だけを書き,著者の意見や解釈などの主観的内容は書かない。著者の見解を書くのは,「考察」である。

 「結果」で最もだいじなのは,どの群とどの群の間に差が見られたか,どの指標に差が見られたか。この点をしっかりと記述しよう。どうしてそのような差が見られたか,その差が何を意味するか,というようなあなた自身の解釈は,「結果」に書かずにあとの「考察」に回す。

 心理学では,多くの場合「差があったかどうか」の基準を統計的な「有意差」の有無においている(相関係数や多変量解析など,有意差だけが基準ではない場合もけっして少なくないが)。平均値だけを比較して差がありそうに見えても,有意差がなければ何も言えないし,言ってはいけない。必ず有意差の有無を確認してから,差があったという結論を書くこと。

 しかし,差がなければいっさい書かなくてもよいというわけでは,必ずしもない。予想していた差が得られなかった場合など,有意差が見られなかったということが重要な情報になる場合もある。どの指標で有意差が見られ,どの指標では見られなかったのか,きちんとわかるように書いていく。

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5.1 基礎統計量を明記しよう

 分析に用いた指標はすべて,最低限,平均値とSDをセットにして表などに記述しておく。これは,有意差の有無にかかわらない。「差があった・なかった」という文章だけで平均値データがどこにも掲載されていないと,読者はどのような差か確認しようがない。

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5.2 有意差のない差は?

 統計的検定の結果,有意差が得られなかったものを(平均値で比べると)「差があった」と強弁してはいけない。平均値に見られる差の誘惑に負けないように。どうしても差がある方向で議論を進めたい場合には,「平均値で比較すれば○○の傾向が見られたが,有意差は認められなかった」と明記する。

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5.3 「差があった」ことの記述のしかた

 「差があった」と書くときは,どの条件が高かった/低かったかという差の方向と,それが有意であったということの2点を,必ず盛り込む。検定結果の記述に気をとられて,どういう差かが書かれていない論文が見られるので,注意すること。たとえば,

  1. 分散分析の結果,条件間に有意差が認められた(F=…)。多重比較によれば,A群はB群より成績が大きく向上している。

  2. A群はB群にくらべて事後テストの成績が有意に高かった(t=…)。

のように。

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5.4 結果の記述は単調になりやすい

 指標が多いときは,検定結果の数字が並んで記述が単調になりやすく,読んでいてあきる。読者に結果をアピールするため,文に変化を持たせよう。中心的な結果については詳しく,同様な結果は簡単に「同様だった」と書いて統計量だけ示せばよい。仮説とあまり関係のない結果は最小限に。

 1つの指標の結果について書いた文章をコピーアンドペーストして,数字だけ変えてすませるようなことは,絶対にしないように。

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6.考 察

■考察は
得られた結果にもとづいて,何が言えるかを考える。名探偵の推理のように,証拠をうまく使って論理的に説明しよう。研究成果をしっかりアピールするように!

 得られた結果をまとめ,研究の目的や仮説に照らして,何が言えたのか,言えなかったのかを自分なりに考える。「であった」「見られた」のように書き表される事実は「結果」に書き,「と考えられる」「なのではないだろうか」のような,あなた自身の解釈・推測は「考察」に。事実と自分の解釈を明確に区別して書くこと。

 あくまで結果で得られた具体的な事実にもとづいて考察を展開すること。結果から離れて話を一般化してしまわないように。また,個々の結果をバラバラに考察するのではなく,全体として何がわかるのかを意識して書く。

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6.1 しょーもない考察1:ただの結果の「まとめ」

 これはけっこう多い。結果で得られた事実を一般的な言葉で言い換えたものを「考察」だと誤解してはいけない。結果から何が言えるのか,どういう意義を持っているか,どう一般化できるのかをしっかりと書かないと,読んでいておもしろくない。

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6.2 しょーもない考察2:結果を無視して自説を展開

 思うような結果が出なかったとき,差が見られなかったという事実をまったく無視して,最初から用意していた教育論を強引に述べる人がいるが,根拠のない主張は無意味。あくまで結果をもとにして,そこから何が言えるかを考察する。名探偵の推理は,バラバラな証拠をつなぎあわせて,事件の全容を鮮やかに描き出してみせるものだ。

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6.3 しょーもない考察3:針小棒大な考察

 得られた結果を極端に一般化し,とても言えないような効果や社会的意義を主張してしまう考察。上と同じく無意味。

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6.4 しょーもない考察4:一問一答型の考察

 Aという結果はAの理論で説明し,Bという結果はBの理論で説明し,Cという結果はCの理論で説明し,全部説明できたのでめでたしめでたし…という一貫性のない考察。「問題」でとりあげた理論・仮説が有効かどうかが重要なのであって,ほかの理論で説明できても意味がない。そのひとつの理論の範囲内で,結果のどれだけが説明できるのか,あるいは説明できないのかをきちんと書くのがだいじ。

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6.5 「結果と考察」とまとめてもよいか

 「結果と考察」というように2つをまとめて記述する場合もたしかにあるが,このやり方は,事実としての結果と筆者の解釈との区別が曖昧になりやすいし,一問一答型の考察にもなりやすいので,慣れないうちはやめたほうがいい。「結果」と「考察」の役割のちがいを学ぶ練習だと思って,別の章・節に書こう。

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6.6 胸を張って「有意差が得られなかった」と言おう

 「結果」を読んでいるときに抱く研究のイメージが,「考察」になってガラリと変わる論文に出くわすことが,ときどきある。たいていは,メインの結果で一貫した有意差が得られていないにもかかわらず,一部で得られた有意差(たとえば,たったひとつの指標で,しかも交互作用しか見られないような差)や,統計的には差はないが平均値では仮説どおりの方向で差が見られる,といった情報を誇張してとりあげ,あたかも仮説が検証されたか,そうでなくても“かなり有望だ”といったニュアンスでまとめてある論文だ。

 しかしこれは,読者をだます行為だと考えた方がいい。もし,「差がなかった」と正直に書いてあれば,読者はその研究の進め方に何か問題があったと推測し,それを改善して新たに研究することができる。ところが,仮説が検証されたかのように書いてあれば,読者もそれに倣って研究を進め,結果,同じように有意差の得られない研究を再生産してしまうことになりかねない。

 学会誌への投稿なら,さすがに有意差があったかなかったかが問われるが,修論レベルでは,必ずしも仮説どおりであったと結論づける必要はない。むしろ有意差がなかったという結果も,あとで同様のテーマで研究する人たちにとっては重要な改善情報となるのだ。だから,ヘタにデータをこねくり回してありもしない差をねつ造してはいけない。胸を張って「有意差が得られなかった」と結論づけ,考えられる問題点についてきちんと「考察」で指摘しておこう。

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6.7 「今後の課題」

 あなたの研究の結果から言えることと,その発展として「推測」されたり「示唆」されることとはちがう。教育への示唆や今後の課題を書くときは,考察がすべて終わってから,別の節・項に書く。また,いろいろな示唆や課題をたくさん並べても散漫なだけなので,ほんとうに有用なもの3・4個程度にしぼって論じる。

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7.引用文献

 本文中で引用した文献はすべて巻末にリストアップする。本文に出てこない文献は記載しない(心理学では「参考文献」ではなく「引用文献」であることに注意)。

 研究過程で読んだ文献を,せっかくだからと全部記載するのはまちがい。本文に出てこない文献は,どのような意義を持っているかを読者が判断しようがないので,何のメリットもないだけでなく,掲載する文献によっては,あなたの研究のレベルそのものを疑われかねない。

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8.表 題

 論文のタイトルの付け方には特にきまりはないが,なるべくその研究内容を具体的に表現するようなタイトルがよい。漠然としたタイトルは,大風呂敷を広げていて尊大に見える。

 中心的なキーワードを確実に入れておくと,あとで文献検索をする人のためにも役立つ。独立変数・従属変数の区別を明示できると,さらによい。「○○が△△に及ぼす影響」のような形で。

 サブタイトルにもできるだけ頼らない。主タイトルだけで,しかも長ったらしくならずに(25字程度を目標に),内容をズバッと言い表せればベスト。

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9.脚 注

 「脚注」は,修論・卒論ではあまり使われていないが,意外に便利。本文にカッコ書きでダラダラと補足説明を入れると読みにくいし,本文がそこで切れ切れになり,本文の流れもわかりにくくしてしまう。補足説明が必要なときは,迷わず説明を脚注に追い出した方が,本文がすっきりと流れる。


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