Rittle-Johnson

Developing Conceptual Understanding and Procedural Skill in Mathematics:
An Interative Process

By B. Rittle-Johnson, R. S. Siegler, & M. W. Alibali

Journal of Educational Psychology, 93 (2), pp. 346-262, 2001年


 Rittle-Johnson氏らは概念的知識と手続き的知識のいずれが発達的に先行するかの議論に対し、先ず彼ら自身の立場を表面している。それは次のようなものである:発達の全体にわたり、概念的知識と手続き的知識が互いに影響を与え合う、つまり、概念的知識と手続き的知識は反復的(interative)に発達し、一方の知識が他方の知識の増加を導き、それが今度は最初の方の知識の新たな増加の引き金となる。この立場では、概念的知識が先か手続き的知識が先かは場合場合によるとされ、またどちらが先でもかまわない。互いに発達していくサイクルが動き出すことが大事なのである。また、サイクルの初期では、概念的知識(あるいは手続き的知識)を「持っている」としても、それが完全なものであることを求めず、むしろ部分的なものであることが当然としている。

 この論文は、こうした関係の証拠を実験的に示すとともに、この関係を促進するものとして問題表象の改善(improved problem representation)を想定し、それが手続き的知識の進展をもたらすことをやはり実験的に示そうとしたものである。

実験1
 実験に参加したのは74名の5年生(学年末)であった。Rittle-Johnson氏らは子どもたちの手続き的知識と概念的知識を次のようにして評価している。

 実験は、先ず手続き的知識と概念的知識の事前テストを行い、次に個別に40分程度の学習をする。この学習では、与えられた小数に対応する数直線上の位置を選ぶようなゲームをコンピュータ上で行うが、答えの正誤が子どもにフィードバックされる。また、位置を選んだときになぜそこになるのかの理由を説明させ、それを録音しておく。この学習の後、概念的知識の事後テスト、手続き的知識の事後テスト、手続き的テストの転移テストが実施された。

   テストの得点を統計的に処理することで、Rittle-Johnson氏らは先ず、反復的モデルの裏付けを行っている。事前テストにおける概念的知識の成績は、学習時の成績、事後テストや転移テストでの手続き的知識の成績の伸びをよく予想するものとなっており、それは有意な結果であった。しかし、事前テストの手続き的知識の成績はこれらを有意なレベルで予想するものではなかった。一方で、学習時の成績(上の学習内容からこれは手続き的知識に当たる)や事後テスト・転移テストでの手続き的知識の成績は、概念的知識の成績の伸びを説明するものとなっていた。これらの結果は、事前の概念的知識が手続き知識の学習を予測し、その手続き的知識の学習が概念的知識における伸びを予想したもの、として解釈されている。

 さらにRittle-Johnson氏らは、学習時の説明の記録から、子どもたちの問題表象(problem representation)を取り出している。この実験での表象は問題に出てくる小数をどのように捉えているかを指すようで、次の2通りがあるとされている:(1)共通単位(0.745を0.001が745個と考える);(2)合成(0.745を0.1が7つ、0.01が4つ、0.001が5つと考える)。例えば自然数からの類推で、数字の個数に基づく考え(例えば0.2<0.146)は、誤った表象の例である。

 この表象に関わっても、統計的に次のような結果を示している。事前テストの概念的知識の成績は正しい表象を説明する。正しい表象の使用は、手続き的知識の成績の伸びを説明する。さらに、正しい表象、特に合成に基づく表象は、最初の概念的知識と手続き的知識の伸びの間の結びつきを説明する。つまり、事前の概念的知識→適切な表象→手続き知識の伸び、という図式が統計的に示唆されたとしている。

実験2
 実験2では、実験1とほぼ同様の問題や手続きが用いられているが、学習の部分に変更を加え、子どもたちが正しい問題表象を持てるような介入がなされている。実験1での成功的な子どもの様子に基づき、0.1の位に注意を払うような介入となっている。第1のものは、コンピュータの学習時に、0.1の位にある数字への注意を促すような指示を与えるものである。第2のものは、学習時の課題において現れる数直線について、0と1の間の10等分した刻みをつけておくというものである。

 統計的な分析により、まず、学習時の説明から評価された子どもたちの問題表象は、これら2種類の介入により正しいものになる傾向が示されている。次に、2つの介入のいずれか、あるいはその双方を受けた子どもでは、学習時、事後テスト、転移テストでの手続き的知識の伸びが大きいことが示されている。特に2つの介入の両方を受けた子どもが伸びが一番大きかった。また事前テストの概念的知識の成績が低い生徒の方が、この介入から大きな利益を得ていることも示されている。さらに、実験1と同様に、手続き的知識の成績が概念的知識の伸びを説明しうることが確認されるとともに、介入だけでは概念的知識の伸びが予測できないことが述べられている。

 これらの結果から、上述の反復的モデルが支持され、また上のような介入が問題表象を正しいものにすることにより、反復のサイクルを促すことになると考えられよう。

 以上の実験結果を踏まえて、Rittle氏らは先の反復的なモデルが妥当であること、したがって子どもたちの知識を調べるときに概念的知識と手続き的知識を一緒に捉えることが重要であることを述べている。また、想定される背後のメカニズムとして、概念的知識←→適当な問題表象←→手続き的知識の向上という双方向の流れを提示するとともに、概念的知識と手続き的知識が互いに影響し合う、他のメカニズムの可能性についても言及している。

 なお、実験2においては生徒の基本技能の達成度や動機付けについても調べているが、基本技能が事前テストの成績と関わっていた一方で、この二つの指標は、学習時、事後テスト、転移テストの成功を予測するものとはならなかったされている(p. 356)。本題とはずれるが、これも興味ある結果と言えよう。

 実験に見られた概念的知識と問題表象との区別が必ずしも明確ではないという疑問も残ったが、ともあれ、概念的知識と手続き的知識が互いに影響しあいながら向上していくという知見は重要なものと感じられた。ここから派生的に導かれる、手続き的知識が概念的知識の向上を促す流れもあるという指摘、また、知識は初期の段階では十分なものである必要はないという指摘なども含め、本論文の知見は、現在の日本の算数教育の議論にも有用なものと言えるであろう。

(註1)図書館にあった"Addison-Wesley Mathematics"の1991年版を見てみたら、4〜6年生の小数に関わる単元では、タイル図(正方形を10×10に分割し、一つを0.01、10個の列を0.1とみなす)を中心とし、除法などでは貨幣(1ドル札、10セント硬貨、1セント硬貨)を併用して説明してあった。小数に関わり数直線が用いられていたのは、0.45を0.5に近いと見積もる課題(4年1題、5年1題)、0.719が数直線の上のどの点に当たるかを問う課題(5年1題、6年3題)であり、説明の部分には見あたらないようであった。(本文に戻る)


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