Repairing School Mathematics in the US
これはWWW上で見つけた、NCTM の元会長である F. B. Allen による記事であるが、これを短くしたものが 1998年4月3日付けの Investors Business Daily 紙にも載ったとのことである。基本的には、1989年から NCTM により発表されてきた三つのスタンダードの方針を非難するものとなっている。
記事はまず 1998年の4月2〜4日に行われた NCTM の年会の数週間前に発表された、TIMSS の高等学校についての結果から始まる。この結果は、「数学教育研究情報交換」誌 No. 6-1 (1998年4月) で長崎栄三先生により報告されているが、米国は21カ国中19位という結果であり、3月9日付けの US News and World Report の中では、上位の常連であるアジア諸国が参加していたら41カ国中の39位を争っていただろうとも報じられていた。Allen は「この結果が NCTM により全国の教室に広められた方針のせいではないか」と NCTM のリーダー達に問うべきだとし、その際に、効果が現れるだけの時間がなかったとか、誤って解釈されきた、といった言い訳は受け入れられないと手厳しい。
次に、スタンダードが十分に議論されたり理解される前に、また適切な調査によりその効果が確認される前にその実施を急ぎすぎたのではないか、そして今になってすべての学校がそのテストの実験場になっているのではないか、と指摘する。そして彼の考える問題点の例を5点挙げている。
- 低学年の時期の非常に保持力のある記憶力は、これまで数の事実や演算の学習に用いられてきたのに、これが電卓の利用により押しのけられている。そしてこのことが、概念の理解の基礎を破壊している。
- 構成主義の普及により、子どもがグループ学習を通して自分達で概念を構成するといったやり方が奨励され、教師は促進者の役割に留められている。これは知識の累積的な性格を冒すものであり、教育プロセスのハートに抵触する。しかも TIMSS の結果を見ると、このやり方はうまく機能していない。
- 本物の (authentic) 評価が奨励されるが、これは「正しい答え」をできるだけ重視せず、曖昧な問いから成ることが多く、主観的で信頼性を欠く。さらに悪いことにグループごとに評価が行われる。これは個人の達成を隠し、適切な治療を割り当てにくくしている。
- 平面幾何の証明がほとんどなくなりつつあるが、一方で、「推論としての数学」や「高次思考技能」といったことが提唱されており、ここに提案とプログラムの現実の不一致が見られる。
- 生徒の態度や自尊心といったものについての誤った考えが入り込んでいる。すべての生徒に高いレベルの数学をという精神の下で、結果的には基礎の準備ができていないような代数や幾何の生徒を持つことになった。これは生徒に誤ったメッセージを伝え、また指導を傷つけるものである。適切に教授や動機づけがされたときに、自尊心は獲得されるものである。
これらを受け、NCTM のスタンダードに基づくプログラム (記事の中では fuzzy math programs とも呼ばれる) は、生徒が学ぶことを期待されている我々の数学の質と内容を害するものだとされる。
記事の最後は、1998年2月に発表されたカリフォルニア州の新しいスタンダードを、適切な動きとして評価することで締めくくられている。こちらのスタンダードは、大学の数学者のかなりの協力を得て作られたもので、各学年あるいは各分野で生徒が学ぶことが期待される数学が明確に記述してあるとのことである。Fordham Foundation のレポートでは、州のスタンダードの中では第一のものであり、日本の指導要領にも勝ると報告された。そして、他州でも、地元の数学者の協力を得ながら、関心を持つ保護者がカリフォルニアの真似をすることは可能であり、そうした動きにより、他の先進国の同年齢の生徒と競えるような生徒を育てることができるとしている。
これらの批判がすべて正鵠を得ているかは疑問であり、また数学教育の成功がTIMSSの得点により測ることができるという前提に立っている。しかし仮にこの批判を受け入れないにしても、どのように反論をするのかは大切であろうし、またその反論を丁寧に考える中で、従来提唱されてきたことに不足していたものがより明確になるのではないだろうか。なお、カリフォルニア州のスタンダードはhttp://www.cde.ca.gov/board/k12math_standards.htmlで見ることができるので、参考にして頂きたい。
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