On Mathematics and War: An Essay on the Implications, Past and Present, of the Military Involvement of the Mathematical Sciences for Their Development and Potentials

(In Jens Hφyrup, In Measure, Number, and Weight: Studies in Mathematics and Culture. State University of New York Press, 1994, pp.226-278.)


この論文は、数学と戦争との関わりについて過去の状態を振り返るとともに、特に大学の数学の教官が今後の平和のためにできることは何かを考えたものである。著者のJens HφyrupはデンマークのRoskilde大学の教授であり、哲学や社会学にも興味を持つ数学史の研究者のようであるが、本稿はもともとは数学者であるBernhelm Boob-Bavnbekとの共著であった。1984年にドイツ語による最初のバージョンがBund demokratischer Wisenschaftlerにより出版された。その後1988年の第6回のICMEのために、Hφyrupにより英語に翻訳され、さらに今回のHφyrupの本の最後の章として納められたものである。ただし、統計上のデータについては、特にはupdateしなかったと述べられている。
本論文の前半では、過去の戦争から第二次世界大戦までをとりあげ、戦争が数学の進歩を促したとする、よくある考えを検討している。その結果として、戦争時においては既存の数学が使われることは多いが、新しい数学がそこから誕生することはほとんどないこと、また軍を経由して配分された資金が、直接 (戦争ための研究という制約なしに) 与えられた方が効率がよかったであろうことなどが、述べられている。つまり、よくいわれるような戦争が数学の研究を促進した、という事実はないと云うのである。そして、研究の国際協力をよりすすめ、教育においては学生の能動性を育成して、学生本人が戦争と科学との微妙な関係を正しく判断できるようにすることで、平和を積極的に押し進めていくことが提案されている。また、数学の中での論理性、合理性にのみ固執するのではなく、道徳や政治には他の合理性の形態がありうることを認め、数学者としての資質を生かしながらも一市民として社会に関与することの重要さも述べられている。 なお、この本の他の章は以下の通り。Hφyrup自身は自分のアプローチを「数学の人類学」と呼んでいる。しかし、例えばギリシアの中等学校の数学教師を対象とした集まりで発表された第1章は、数学的ディスコースの性格と数学教授の制度的設定の間の関係を扱っており、本書は数学教育学にも無関係とは言えないものとなっている。