The Development of Mathematical Thinking in School: A Compariosn of the Action-Psychological and Information-Processing Approaches. Bert van Oers

(International Journal of Educational Research,vol.14,no.1(1990),pp.51-66)


 この論文では、カリキュラムの背後には何らかの心理学の理論があるという前提にたち、information-processingとaction-psychologyという二つのアプローチを比較している。数学に対する見方、数学的な行動に対する見方、そして数学における発達に対する見方という三つの観点を選び、それぞれについて二つのアプローチにおいて、どのような見方がされているかを、代表的な研究をもとにして検討している。information-processing側としてはResnickとMayerが、action-psychology側はVygotskyやGal'perin等が扱われている。

 結果的には以下のようにまとめられている。information-processingでは、数学者が適当と考える内容を心理学の理論に沿って配列することが目指され、行動としては個人の内部の認知的なメカニズムに焦点が当てられる; そして発達は、メカニズムを蓄積的に習得していくことと見なされていると、Oersは述べる。一方action-psychologyでは、数学は、数学者が発達させた規則に従う文化的に発達した人間の活動とされ、学習において行為のレパートリーの質的向上が目指される; 学習では、当面する問題について言えることやできることの全てを、教師や友達と一緒に探していく。両者をこのようにまとめた後で、教育の目標が「生徒を文化的活動へと導くことにより人間を向上させること」だと述べ、これに合うのはaction-psychologyのアプローチであると結論していくのである。

 Oers自身が認めているように、本稿では二つのアプローチのそれぞれが極めて単純化されて捉えられている。特に、Oersがaction-psychology寄りであることもあり、information -processingに対するまとめかたは乱暴のようにも思う。したがってOersの二分法をそのまま受け入れる必要はないであろう。ただ、単純化されているが故にそれぞれの見方や前提が明確になっている。そして、その見方や前提に対して、我々自身がどのように答えていくのかと考えていくと、自分の研究上の立場を見直す一つの契機となるように思う。例えば、information-processingでは思考過程を流れ図により表してきたことをOersは指摘するが、自分はこの表現法をとるのか、もしとらないならどのような表現をするのか。action-psychologyでは教育を受けた他者との相互作用やそこからの模倣を重視するが、自分はそうした相互作用のあり方をどこまで受け入れるのか等々。Vygotsky理論が注目されつつある今日、こうした問いを自問することも、あながち無意味なことではないであろう。

 なおこの号は、"Mathematics Education as a Proving-Ground for Information-Processing Theories" という特集になっていて、編者のGreer とVerschaffelによる導入に続き以下のような論文が掲載されている。
McLeod,D.B. "Information-Processing Theories and Mathematics Learning: The Role of Affect."
Fischbein,E. "Intuition and Information Processing in Mathematical Activity."
Cobb,P. "A Constructivist Perspective on Information-Processing Theories of Mathematical Activity."
Davis,R. "How Computers Help Us Understand People."

さらに、vol.14, no.2 の方も、"Perspectives on Research in Mathematics Education" と題する特集になっており、G.C.Lederらが論文を寄せている。


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