Schemas in Problem Solving

by Sandra P. Marshall

Cambridge University Press, 1995, 424pp.


 S. P. Marshall はサンディエゴ州立大学の心理学の教授であり、また数学および科学教育研究センターの所長でもある。彼女は、NCTMのResearch Agendaシリーズの1冊 The Teaching and Assessing of Mathematical Problem Solving の中にも "Assessing Problem Solving: A Short-Term Remedy and Long-Term Solution" を寄せており、また80年代後半にスキーマ理論に基づいた文章題研究のレポートをいくつか発表しているので、名前をご存知の方も多いと思う。その Marshall によるこの本は、タイトルからしてもまたその厚さからしても彼女によるスキーマ研究の集大成的なものと考えられる。タイトルは単に「問題解決におけるスキーマ」となっているが、実際の具体的な場面として設定されているのは算数の文章題解決である。

ここではスキーマは「類似の経験を同化し、迅速かつ容易に想起できるような仕方で集める手段」(p. vii) と考えられており、また理論的な観点からは、思考や知識の組織化についての二つの大きな学派−すなわち symbolic processing と connectionist learning−を結びつけるものであるが故に、大きな価値を持っているとされる。しかし、本書では単にスキーマ自体について語るだけではなく、スキーマを視点とした指導や学習の評価までが視野に入れられている。彼女の関心は、「学習を促進するためにスキーマについて知っていることをどのように使うことができるか?スキーマは学習の評価をどのように方向付けるか?スキーマの理解は記憶のよりよい理解をどのようにもたらすか?学習やパフォーマンスのより満足のいくモデルを作るためにこの理解をどのように生かすことができるか?」(p. viii) という点に至っている。この背景には、スキーマ理論が、指導と評価を見るために必要とされる理論的構造を与える、理想的な手段である、という考えがあり、したがって、教育の再構造化という国家的な目標にとっても、スキーマ理論は重要かつ本質的な役割を果たしうるものだとしている。

このように、スキーマという1つのアイデアを扱いながら、そこから指導、学習、評価そして教育改革までを語ろうとする本書は、ともかくも自分の信ずるある視点から教育に関わる事象を見通そうとするという点では、研究に携わる者の一つの姿勢を示してくれているようにも思われる。ちなみに彼女自身は既に、スキーマ理論を有理数の学習の評価や意思決定のモデルへも応用しているようである。

本書は以下のような5つの章からなっている。