Learning the Algebraic Method of Solving Problems

By Kaye Stacey & Mollie MacGregor
(Journal of Mathematical Behavior, 18 (2), 149-167. 2000年)


 この論文で著者らは、生徒が文字式(algebra)を用いて問題を解くことに困難を感ずる主要な原因として、彼らが、文字式を用いて問題を解くことの基本的な論理 (the basic logic) を理解していないことを提案している。算術(arithmetic)での問題解決の経験から、計算をするという強迫観念が生まれ、これが次のようなことの中に現れてくる:(1)「未知数」に与える意味、(2)方程式とは何かについての解釈、(3)方程式を解く際に選ぶ方法。彼らはデータを分析することで、文字式で問題を解く過程の各段階で、文字式を用いる方法から算術に根差した思考に逆戻りすること、その結果として単純な問題を解く場合でも、多くの異なるルートが見られることを示している。

 第1節では、算術と代数の違いを扱った先行研究が概観されている。第1のグループはHerscovics & Linchevski の「認知的ギャップ」などの先行研究。第2のグループはSfardの「操作的」と「構造的」の区別を算術と代数の差に関連させる先行研究。第3のものとして、Charbonneau(1996年のBednarzらの本の中の論文)によって注目されたもので、算術は既知の数について計算して、答えに向かって進めていくのに対し、代数では既知と未知の両方を用いて関係を記述し、そこから同値な関係を導いていく。いわば、最初に問題が解けたと仮定して考えを進めていく、「解析法」として特徴づけられることになる。著者らは、この第3の考えが彼らの知見に直接関係しているとしている。

 彼女らの調査ではオーストラリアの12の中等学校が扱われ、13歳から16歳までの生徒が参加し、彼らの多くは文字式の学習の3年目ないしは4年目にあたる。記述された解答についてはおよそ900人分が集められ、また30名に対して1対1のインタビューが行われた。使われた問題では、先行研究に見られる難度を高める特徴を持たないように配慮している。例としてあげられている問題のうちの2つは以下のようなものである。

記述された解答の量的分析から、まず以下のようなことが見出されている。

 第3節では、解決の多様なルートについて論じられている。その多様さは彼らの示す流れ図(p.155)によく示されており、「文字式を試す」というとこからでも4つの矢印があり、その下の「方程式を書く」からも4つの矢印が出ている。著者らによると、文字式のルートを完全に通る生徒は非常に少ない。その後、5つのよく見られるルートが、事例を交えながら説明されている。
  1. 算術的推論:場面を論理的に分析し、分かっている数から求めるものを計算する。上の「バスの問題」であれば、二日目と三日目に余分に走った距離を85+125=210と求め、これを全体の走行距離1410から引いて3で割る。問題文中の演算を逆向きに考えていくことも含まれる。この考え方は、未知数が両辺に現れるような問題(例えば上の「数の問題」)ではうまく使うことができない。
  2. 試行錯誤:このやり方は、方程式を書くといった文字式のルートをとった生徒によっても用いられた。代入して両辺を等しく数を探すこととなり、問題場面に沿った「前向きの演算」が用いられる。運用上は、(1)ランダムに代入、(2)順序良く代入、(3)前の試行結果を考慮して次に代入するものを選ぶ、といった3通りが述べられている。小数まで考慮しないと上の「数の問題」は解けないことになる。
  3. 公式を書く(表面的な文字式のルート):例えば上の「バスの問題」についてx=[1410−(85−125)]/3あるいはx=[c-(a+b)]/3のように、求めるものxを求める公式を書くやり方。結局は文字式的な考えは使われていない。ax+b=cといった方程式を書いてもその「道具のような特性」(DeCorteら)が生徒に見えにくいのに対し、公式であれば使い方がわかりやすい、という生徒の傾向を示すものとされている。これをうけStacey氏らは、同等性に関する陳述としての方程式という捉え方が、文字式的な方法の利用にとって決定的であると述べている。
  4. 文字式の利用・方程式を書く:文字を未知量を示すために用いる生徒もいる反面、実行されるべき計算の結果を示すために文字を用いる生徒もいる。また未知量をxとおいてそこで止まってしまう生徒もいる。方程式が書けても、解の求め方は多様であるし(例えば試行錯誤)、方程式を放棄して問題自体に戻り、算術的な考えや試行錯誤で解くものも多い。
  5. 文字式の利用・方程式を解く:上でも触れられているように、多様な解く方法が見られた。フローチャート上で演算を逆向きに考えたり、試行錯誤にしたりする方法は、解くべき直接的な問題が文字式の記号で表わされているという意味においてのみ、文字式で考えている。完全に文字式のやり方で解いた生徒は少数であるが、そうした集団では正答率は高くなっている。
なお完全に文字式のやり方を用いるには、両辺の同等性を構造的に理解することや、文字式による問題解決の背後にある論理的原理を理解することが必要だとされる。方程式を操作の系列と見ている生徒は、上の「数の問題」で現れる方程式をどのように扱っていいのかわからなかった。

 第4節では、インタビューの結果をもとに、算術的な思考が方程式の定式化に干渉する2つの仕方について述べられている。これらの背景には、計算をしなければという強迫観念がある。

 第1の仕方は、なぜ方程式を書くのか、についての捉え方である。生徒の多くに、答えを求めることと文字式で考えることとが分離している様子が見え、答を求める前に方程式を書くよう求めると、「答えを見つけなくていいの?」「答えを見つけないと方程式は書けない」といった困惑が見られた。インタビュアーが方程式を作って、与えられた情報を表現することを説明すると、「それは問題を書き換えてるだけだ」と不満をもらす生徒もいた。方程式がこのように捉えられている限り、問題解決のための方法としては利用されにくいと、Stacey氏らは考えているようである。

 第2の仕方は、文字の指し示すものが多義的であったり、解決の途中で変化していく、ということであるが、Stacey氏らは「今計算しようとしているもの」をxとおいたり、算術的に考えたものをxを用いて無理に表現しようとすることから、こうした文字の使い方が起こっていると考えているようである。こうした文字の使い方として、彼らは三つの様式をあげている。

xの指すものが明確になっていないと、数に適用されるルールを用いてxに操作を加えることが意味をなさなくなると、著者らは指摘している。

 第4節の最後に算術からの影響をまとめているが、一つは今述べた文字や未知量に対する見方であり、計算で求められるであろうものとしてそれを見ることで、xの指すものが変化したり、いくつかの未知量を合わせたものになったりする。もう一つは方程式に対する見方であり、これについては3つのものが区別されている;(a)答えを計算するための公式;(b)結果を導く演算を記述する物語(narrative);(c)本質的な関係の記述。2番目に関して、例えば(8n-3)/3=2nと書いた生徒が成功率が高いのに対し、n×8-3÷3=n×2と書いた生徒では「見慣れた視覚的刺激」が与えられないために、方程式を操作できなかったとされている。後者の式を書いた生徒は3分の1以上いたが、式はそれぞれの行為が表現されている物語と捉えられているようである。こうしたことから、方程式が同等性についての陳述であるという捉え方が、問題を解くために代数的な方法を用いることにとって、決定的に重要であると著者らは述べている(p.164)。

 最後の節では教授への示唆が述べられている。第1の点は、生徒のニーズに応えることを強調するあまり、文字式を使わないインフォーマルなやり方を許すことに危険性を述べており、彼らが調査を行った学校のいくつかではこうしたアプローチが行われていた。第2の点は、文字式の有用性が感じられる問題を利用しなければならないということである。算術的な推論や試行錯誤で解ける問題を用いつづけるとすると、文字式を余計な負担と生徒が感じても仕方のないことである。文字式なしでは簡単に解けない問題へと徐々に移行することが、問題解決のツールとしての文字式の価値を感得するには必要なことであると指摘している。

 生徒が直面する困難の原因を以前の学習の中に見出そうとするともに、問題解決のツールという文字式の目標を大切にしようとする立場が、本稿からは一貫して感じられる。


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