記録編 ワシントンD.C
国立アメリカ歴史博物館
NATIONAL MUSEUM OF AMERICAN HISTORY
上越教育大学学校教育学部附属小学校教諭 佐山 幸太郎
 
 全館の展示を見て印象に残ったことをあげてみたい。
 まずは、400年に満たない歴史の中で、技術や科学に力を入れ、人々の生活を進歩させてきたエネルギーを具体的な「物・道具」を通して実感できるということである。
 このような「物」中心の在り方はプラグマティズムを重んじる国柄というだけでないだろう。
 やはり広大なフロンティアの存在によって最も必要とされたのが、通信や交通機関の開発や改良であったこと、さらにそれに関連して、電気、土木技術など関連技術が発達していく「物をつくり出す」歴史的背景があったのだと考える。
鉄道交通コーナー
鉄道交通コーナー
 そして、きわめてオリジナルな発想や発明を生み出すことにも国民のパイオニア精神の影響があったことを感じずにはいられない。
 さらに展示品を見ていると、次第にアメリカ合衆国の歴史というより、むしろ人類が近現代に創り出した様々な「物・道具」が歴史上の証拠品としてここに収集、展示されている側面を感じていく。実際に日本人の私たちの日常生活にも溶け込み、役立っている多くの「物・道具」の歴史がこの博物館で見ることができる。
もう一つ、合衆国が、多民族・多文化によって成り立つ国家だということを改めて感じさせる博物館であった。ヨーロッパからの移住白人、先住民、アフリカ系アメリカ人など、多くの民族の対立や差別の歴史を乗り越えて、現在の国家が成り立っていることを、幾つかの社会問題のコーナーを設置していることから実感した。
「A More Perfect Union」のコーナー
「A More Perfect Union」のコーナー
 なかでも「A More Perfect Union」のコーナーは、私たち日本人にとって注目したいコーナーである。この中で、日系アメリカ人12万人中、3分の2の人々が、強制移住を強いられたこと、そしてそれは人権蹂躙(じゅうりん)であったことが明確に展示されている。
   3 教材化の視点
 中・高の公民分野「差別と人権問題にかかわる学習」で扱えるコーナーが多いと考える。  また「物・道具」に着目すると、「巨大な農業機械」の提示は、中・高の地理的分野「合衆国の農業の学習」での大規模農業についての理解の一助となろう。大量生産に成功したT型フォードをはじめ、バス、トラックなどの「自動車」や、パシフィック型1401蒸気機関車などの「鉄道交通」は、高校世界史「20世紀の世界・アメリカ合衆国の台頭と資本主義経済の変容の学習」の具体的事例として採り上げることができる。生徒の興味・関心を大いに高めるであろう。