★ ケチケチ定義

形の本質をずばっと捉えている性質を使って
形の仕組みを説明したものが 定義だとしました。

この時、定義に含める仕組みは最小限のものにしている、
ということです。定義にもりこむものをできるだけケチって、
出発点にする仕組みをできるだけシンプルにしておくのです。

数学では定義を考える際に、2つのしかたでケチっていますが、
その2つのしかたに共通しているのは、ある仕組みからルールに
したがって ストーリーを展開する ことを、大切にするという点です。

第1のケチり方は、ある仕組みからストーリーを展開して
見出せる情報は定義に含めない、ということです。

例えば、平行四辺形では向かい合う辺は同じ長さになって
いたり、向かう合う角は大きさが等しくなっています。しかし、
そうした性質は「向かい合う辺が2組とも平行になっている」
という定義に含めた仕組みから導くことができるので、
できるだけケチるという点から、定義には含めていません。

このケチり方のメリットは、チェックの際に手間が最小限ですむ
ことです。この形が本当に平行四辺形かを確認するのに、2つ、
3つの条件を確認するよりも、「向かい合う辺が2組とも平行に
なっているかな」と1つの条件を確認するだけですむ方がらくです。
定義をできるだけケチってシンプルにしておくことは、こうした
チェックを楽にします。

第2のケチり方は、できるだけ多くの形の話を1つの定義で
すませてしまおうということです。例えば「向かい合う辺が2組とも
平行になっている」という仕組みを持っている形のことは、すべて
1つの定義ですませてしてしまうのです。それにより、1つの仕組みから
展開したストーリーが、定義に含めた全ての形に当てはまることになります。

例えば、みなさんが「平行四辺形」ときいて思い浮かべるイメージ
では、隣り合う角の大きさは違っているのではありませんか。
そこで、平行四辺形の定義の中にこの「隣り合う角の大きさは異なる」
という条件を含めたら、どうなるでしょう。この場合、隣り合う角が
どちらも90°である 長方形や正方形は平行四辺形ではないことに
なってしまいます。

でも、長方形や正方形でも「向かい合う辺が2組とも平行になって
いる」ので、この仕組みから導くことのできる性質は、当然、
長方形や正方形も持っているはずです。このとき、わざわざ
「その性質を、平行四辺形と長方形と正方形は持っている」
と説明するのは手間がかかります。
ここで「向かい合う辺が2組とも平行になっている」という仕組みを
持っている形のことは、すべて1つの定義ですませるようにしておけば、
長方形や正方形も平行四辺形の一種ということになりますから、
「その性質を、平行四辺形は持っている」と説明すればよいことに
なります。

実は上の説明で「長方形や正方形」と書いていますが、長方形の
本質を示す仕組みを「4つの角が等しいこと」だとして、これで
長方形を定義すると、正方形も4つの角が等しいので、正方形は
長方形の一種だということになり、上の「長方形や正方形」の部分は
実は「長方形」だけでよくなります。説明の文字数が節約できて、
ケチケチの精神にぴったりです。