Introduction to Mathematics Standards

by California State Board of Education
http://www.cde.ca.gov/board/intro.html


(補足の部分は気づいた内容が追加される可能性があります。また補足に加えるべきお気づきの点をnunokawa@juen.ac.jpまでお知らせください。)

 これは、Allen氏の記事で適切な動きと評されていたカリフォルニア州のスタンダードのイントロダクションである。スタンダードは "Prepublication Edition, February 2, 1998" および「カリフォルニア州教育委員会採用」と表紙にある。イントロダクションでは、前半で今回のスタンダードの方針を述べ、後半でスタンダードの各学年や各科目の最初に付されている「焦点の説明 (Focus Statements)」がまとめられている。
 イントロダクションはまず数が日常生活で重要な役割を果たすこと、数学は美、エレガントさ、一貫性などを持つものであること、それは分析的精神を育てるものでもあることを述べるところから始まる。そして全ての人が数学についての広く、深く、有用な知識を持つ必要があり、新しいスタンダードは数学の学習に特別な才能が必要だという神話を崩し、日本やシンガポールなどのスタンダードとも比肩できるものだとする。盛り込まれた内容が現在のものよりかなり高いことを認めつつも、熱心な取り組みと早い学年での健全な準備があれば、全ての生徒が達成できると信じているようである。
 次に、抽象的、分析的思考方法を身につけ、変数や方程式を効果的に扱うことを学び、数学的表記を用いて場面をモデル化することが、全ての生徒に求められているとした後、次のような5つの目標が掲げられている。

今回のスタンダードは、全ての生徒が知るべきことが何か、またそれがどの学年で可能かを特定しているとしている。一方では、あるトピックが習得されるまでに、1つあるいは2つの学年でそれらが導入されたり教えられるといった、柔軟性も維持されていると述べている。また、スタンダードは教授法を特定するものではなく、直接的教授や明示的教授でも、発見学習や探求によるものでもよいとしている。また8年生以降の部分は、伝統的な系列にそって順にやってもよいし、統合的プログラムにしてもよいとされる。
 スタンダードは生徒を数学的アプレンティスシップに参加させるもので、そこでは技能の練習、日常ベースでの問題の解決、現実世界への数学の応用、抽象的思考の能力の発達、数や方程式を含む問いを立てることなどが行われる。数学がどのように機能するのかに加え、なぜ機能するのかについても考えるべきであり、また数学的思考とともに数学的結果も強調されるべきとされる。
 事実 (facts)、技能、手続き的知識、概念的理解、問題解決、応用、推論、全プロセスのコミュニケーションは数学を織り成すものであり、これらが適切なバランスで強く織り合わさったとき、数学は強さを獲得するしている。
 後半ではスタンダードの構成についての注釈がある。幼稚園から7年生まではナンバー・センス、代数と関数、測定と幾何、統計・データと確率、数学的推論という5つの項目に沿って記述される (幼稚園と言えども例外ではない)。8年生から12年生までの分は、代数、幾何学といった科目ごとに記述される (以下の「焦点の説明」参照)。
 最後に数学的推論に言及している。数学的推論は全ての部分にわたっているとともに、また内容から分離しているものではない。むしろ応用し学校の内外の問題を解くために、概念や技能を学ぶのである。数学の全ての領域や全てのレベルで生ずる問題の解決で用いられるような、根本的なテクニックが存在するので、問題解決の基本的要素は、学年にわたって一貫している。
 生徒の解く問題は重要な数学に向けられている必要があるとし、学年があがるにつれ次のようなことを生徒に要求すべきだとしている。
  1. 数学のより進んだ知識や理解を用いる。
  2. より複雑な問題 (応用、純粋に数学的な探求) を扱う。
  3. 徐々に帰納的推論、演繹的推論、証明を統合していく。
  4. 科目内、あるいは領域間の数学的アイデアのつながりを徐々につける。
また各学年で生徒は全ての項目からの問題を解く必要があり、そこでは学年に適切な技能や概念的理解が利用される。

 全体のトーンとして気づくことは、まず技能について明確に言及し、多くの個所で技能という用語を用いている。また学年があがるにつれ着実にレベルアップ (例えば抽象性、分野間の統合、技能の定着) を意識しているように見える。イントロダクション自体で言及される特徴としては、数学的内容を明確に特定している点と、教授法は特定せず「直接教授」でも良いと言い切っている点がある。内容を特定し、またスタンダード全体がコンパクトになっている点は、その賛同者が褒める点でもある。ちなみにスタンダード本文を見渡したときに感ずることとしては、早い時期での数体系 (負の数、その演算を含めた) の完成、統計・確率分野の非常な強化、また8年生以降の分野での大学数学との接点の意識といった点がある。
 このスタンダードに対する各分野からの賛辞は教育委員会のページのhttp://www.cde.ca.gov/board/statements.htmlで見ることができるが、当然のことながら反対意見は掲載されていない (反対意見の掲載されたページをご存知の方はお知らせください)。なお以前カリフォルニア州にいた人の話では、カリフォルニア州は非常に政治的な州で、勢力同士が衝突しており、今回のスタンダードも州全体のコンセンサスを必ずしも反映するものではないとのことである。まだ多くの議論が行われているようでもあり、このスタンダードの評価は難しいようであるが、ともかく、こうしたスタンダードが州教育委員会に採用されたこと、またそれ以前に従来の線に近い案が却下されているという事情を考えると、一つの動きとして無視はできないのではないか。また、第三者としてはこうした動きの行方が今後どこに行くのか、興味あるところでもある。

 参考までに各学年と各分野の「焦点の説明」を載せておく。上でも述べたように7年生までは学年ごと、それ以降は科目ごとの記述である (補足説明へ)。

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幼稚園
幼稚園終了までに、生徒は彼らのすべての環境における小さい数、量、簡単な形の一貫性 (consistency) を理解する。彼らは対象を数え、比べ、記述し、分類したり、性質やパタンについてのセンスを発達させる。

第一学年
第一学年終了までに、生徒は位取り記数法における「1」と「10」の概念を理解し用いる。小さい数を足したり引いたりが容易にできる。簡単な単位を用いて測定したり、対象を空間に配置する。データを記述し、簡単な問題場面を分析したり解決する。

第二学年
第二学年終了までに、生徒は加減を行う際に位取り記数法と数の関係を理解し、乗法の簡単な概念を用いる。適切な単位を用いて量を測定する。構成要素に注意を払って形を分類したり、その間の関係を関係を見ることができる。データを集め分析し、答えを立証する。

第三学年
第三学年終了までに、位取り記数法の理解、および全数についての加減乗除の理解と技能を深める。空間の対象を見積もり、測定し、記述する。問題を解くのにパタンを用いる。数の関係を表現し、また簡単な確率の実験を行う。

第四学年
第四学年終了までに、生徒は大きな数、および全数の加減乗除を理解する。簡単な分数と小数を記述し比較する。平面図形の性質や図形間の関係を理解する。質問に答えるためにデータを集め、表現し、分析する。

第五学年
第五学年終了までに、生徒は正負の数、分数、小数に適用される基本的四則演算についての容易さ (facility) を伸ばす。通常の測定単位を知り、それを用いて長さや面積を決定する。簡単な幾何図形の体積を決定するための公式を知り、それを用いる。角の大きさの概念を知り、問題を解く際に分度器やコンパスを用いる。グリッド、表、グラフ、チャートを用いデータを記録したり分析する。

第六学年
第六学年終了までに、生徒は正負の数、全数、分数、小数の四則演算の習得を完了する (have mastered)。正確に計算し問題を解く。統計や確率についての自分の知識を適用する。データ・セットの範囲、平均、メジアン、モードの概念を理解し、またその計算の仕方を理解する。データやサンプリングのプロセスを分析し、考えられるバイアスや誤って導かれる帰結を考える。また分数の加法と乗法をルーチンに用いて複合事象 (compound events) に対する確率の計算を行う。比や割合について概念的に理解し、それについて作業をする。百分率 (例えば税金、チップ、利子) を計算する。円周率および円周や円の面積の公式について知る。幾何図形を含む公式や、比の未知の部分を表す際に、数に対する文字 (letters for numbers) の利用を知る。1段階の一次方程式を解く。

第七学年
第七学年終了までに、生徒は数や方程式の操作 (manipulating) に熟達し、一般的諸原理が働くことを理解する。分子・分母の因数分解や指数の諸性質について理解し利用する。ピタゴラスの定理を知り、未知の辺の長さを計算するような問題を解く。基本的な立体の表面積や体積の計算の仕方を知り、それらがスケールの変化によりどのように変化するかを理解する。異なる測定単位の間の変換をする。半端の数の異なる表現 (分数、小数、百分率) を知りこれを用い、一方から他方への変更に習熟する。比や割合に対する容易さを伸ばし、増加や現象、簡単な複利の計算をする。一次関数をグラフに表し、傾きのアイデアやその比との関係を理解する。

代数1
シンボル的推論やシンボルについての計算が代数の中心である。代数の学習では、数学や科学のシンボル的言語の理解を発達させる。加えて、代数的な技能や概念を発達させ、多様な問題解決場面にそれを用いる。

幾何学
この科目で発達させる幾何学の技能と概念は、すべての生徒に有用である。これらの技能と概念のほかに、生徒は幾何学的設定や問題におけるフォーマルな論理的議論や証明を構成する能力を発達させるであろう。

代数2
この科目では代数1と幾何学の内容と概念を補い拡張する。代数2を習得した生徒は、連立2次方程式の解法、対数関数や指数関数、二項定理、複素数システムを含む様々な内容領域の問題について、代数的解法の経験を得ることになろう。

三角法
三角法は、生徒がそれまでに学習した代数と幾何学双方のテクニックを利用する分野である。学ばれる三角関数は代数方程式の言葉ではなく、幾何学的に定義される。こうした関数を使うことや、それらに関する基本的恒等式を証明できることは、大学で解析学、高等数学、物理学、諸科学、工学などを学ぼうとする生徒には、特に重要である。

数学的解析
この科目では、「解析学」 (以下に述べる科目名;註) の学習の準備に必要な、三角法、幾何学、代数のテクニックの多くを結びつけ、問題を解く際の概念的理解や数学的推論を強化する。このスタンダードではこの話題に対して関数的な視点を採用している。最も重要な新しい概念は極限である。この数学的解析は、三角法やおそらくは線形代数とともに、1年間のプレ解析学のコースを成すことが多くなろう。

線形代数
この科目の一般的な目標は、行列の演算のテクニックを学習し、任意の個数の変数を持つ連立方程式を解けるようになることである。線形代数は他の科目、例えば三角法、数学的解析、プレ解析学などと結びつくことが多い。

確率と統計
この科目は、確率、データの解釈、基本的な統計の問題解決への導入である。この内容の習得は生徒に、確率についての基礎と、統計的情報を処理する能力を提供するであろう。

確率と統計:上級
この科目は、確率と統計のテクニカルで、さらなる拡張である。特に、advanced placement の内容の習得は、この分野の Advanced Placement 試験での成功のための背景を、生徒に与える。

解析学
ハイスクールで教えられる際に、解析学は大学の解析学のコースと同等の深さと厳密さのレベルで提示されるべきである。このスタンダードでは、一変数の解析学の大学での完全なカリキュラムを概説する。多くのハイスクールのプログラムでは、一年間で以下の全ての内容をカバーするだけの時間はないであろう。例えばある地区では、微分方程式を軽く扱い、無限数列や無限級数に時間をかけてもよい。あるいはその逆でもよい。カリキュラムの決定の際に、AB や BC の Advanced Placement 試験に対する大学委員会のシラバスの考えが参考になろう。解析学は広く応用される数学の領域であり、また美しい固有の理論を含んでいる。この内容を習得した生徒は、この分野のこれら二つの重要な側面を見ることができよう。
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補足説明
 上の記述で、興味あるいくつかの点について、スタンダード本文で確認してみた。

 また、上記の「焦点の説明」はスタンダード本文の各学年・各領域の前書きそのものを集めたものだが、スタンダードの細かい内容全てを包括するものではないようである。いくつかの例を挙げてみる。


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