記録編 ピッツバーグ 3/4
ペンシルバニア州立大学インディアナ校
(埼玉県春日部市立武里中学校) 大島 薫
3 「地理ナショナル・スタンダード」と学校教育現場
 (1) ペンシルバニア州の事例
 では「地理ナショナル・スタンダード」はどのようにして現場の地理教育とつながっているのだろうか。  今回ペンシルバニア州の事例を紹介してくださったマーク・ウィルソン(Mark Wilson)氏は、自らも高等学校の社会科教員である。おおらかな人柄をからだ全体で表現しているような印象を受けた。
 「地理ナショナル・スタンダード」を受けて各州で独自のスタンダードを作成する。作成委員会では、学校関係者のみならず地域の有識者も加わって「今のペンシルバニア州の子どもたちに必要な教育内容は何か」を徹底的に討議し、共通理解を図り、具体的なスタンダードを作成し、さらに評価テストを実施する。気の遠くなりそうなプロジェクトである。特にペンシルバニア州は全米でも最高水準の教育を目指しているところから、丁寧に地域の要望を調査・分析した様子が氏の話の端々に感じられた。民主主義の実際を垣間見るような話である。 ウィルソン氏
ペンシルバニアの教育事情を熱く語る
ウィルソン氏
 興味深い話が数々登場する中、特に参加者の関心が高かった話題のひとつとして、その評価方法が挙げられる。Goals2000に定める評価テストは4年生、8年生、12年生修了時に実施される。ペンシルバニア州の実践によると、地理の場合、評価テストは3つの方法で実施されている。1つは選択肢または短い記述式によるペーパーテスト、あとの2つは課題解決型のテスト、すなわち、ある状況設定がなされ、それに対して自分なりの解決の方法を提示するというテストである。
 ペンシルバニア州のスタンダードを受けて、教育現場はどのように自らのカリキュラムを編成しているのであろうか。
 (2) 小学校での実践報告
 高学年の児童を対象に社会科の授業実践をされているナンシー・クロス(Nancy Cross)氏は、地理を「総合的な学習」に近い形で扱った事例を紹介して下さった。知識・理解に偏らず、地理学習にとって重要な技能面も重視していたことが印象に残る。日本の小学校段階の地理学習で十分取り扱われていない側面を含んでおり、示唆に富んだ実践報告であった。
 (3) 中学校での実践報告
 スコット・モスグローブ(Scott Mosgrove)氏は、学習者のレベルに応じて3つのコースに分けて指導している教育課程を紹介してくださった。大半の生徒は「一般コース」だが、地理にすぐれた能力を持つ生徒たちのためのコースや、地理学習に困難を覚える生徒対象のコースを開設、それぞれの能力に応じた学習活動が可能であることの具体例を示した。特にこの中学校は全米規模の地理のコンテストで優秀な成績をおさめたとのことで、担当教員の熱意と努力が感じられる発表であった。