テーマ別編 高等学校 4/6
ピッツバーグの産業構造変化と都市再開発
新潟県立新潟西高等学校 志村 喬
4.ピッツバーグの都市再開発
(1) ピッツバーグにおける都市問題
 鉄鋼業で繁栄したピッツバーグであるが、都市問題も鉄鋼業から由来した。一つ目は製鉄所から吐き出される煤煙が、街中を覆う大気汚染問題である。ダウンタウンにおいてさえ、昼間にもかかわらず点灯しなければいけない実態から、ピッツバーグには「煙の町(smoky city)」とのあだ名もつけられた。二つ目は大量の労働者の住宅確保の問題であり、良質な居住地区を形成する必要性である。三つ目は、移民労働者に対する教育・社会環境整備の問題であった。これらは第二次世界大戦前から存在した都市問題であったが、ピッツバーグ発祥の地であり、古くから栄えたダウンタウンの地区の建物の老朽化もその後都市問題化していった。そして第二次世界大戦後、ダウンタウン地区の衰退がみられるようになり、都市再開発が実施されることとなったのである。
製鉄所の廃炉に関する歴史センターの展示
写真4 製鉄所の廃炉に関する歴史センターの展示
(2) ゴールデン・トライアングル地区の再開発
 1950年代半ばより進められたピッツバーグの再開発は「ルネッサンス T」と題されたもので、全米で最初の本格的な再開発プロジェクトであった。この計画の中心は、三つの河川に囲まれたダウンタウン地区(ゴールデン・トライアングル地区)の再開発であり、この期間にゲートウエイ・センターやUSXなどのビル群、シビック・アリーナなどが建設された。さらに1980年代には「ルネッサンス U」と題された再開発が進められ、地下鉄も導入された。その結果、現在この地区には、メロン銀行本社をはじめとした大企業のオフィスビル、ホテル、デパートが林立し、ビジネス地区としてだけではなく、観光地区としても活性化している。日本の地理教育において、成功した再開発の例としてしばしば掲載される写真も、この地区のものである。ここで注意したいのは、ピッツバーグの鉄鋼業の衰退とともに扱われることが多いため、ゴールデン・トライアングル地区が昔の製鉄工場地区であり、「製鉄所に代わってオフィイスビルが建築された」と想像されがちである点である。現地での聞き取りによれば、見本市会場などはあったものの当地区は再開発以前から都心的土地利用がされていたのであり、工業地区が再開発されて、現代的な都心地区として再生したものではない。そして、ピッツバーグを広がりを持った面的な地域として再認識して図1を眺めたとき、現在衰退してしまったモノガンヒラ川沿いの鉄鋼業地区は、ゴールデン・トライアングル地区とは異なる場所にあるといった事を知ることができる。
再開発に関する歴史センターの展示
写真5 再開発に関する歴史センターの展示