中学校2年生社会科地理的分野
生活や環境に配慮した公共交通のあり方
〜 アメリカと日本の路線バス事業から地域について考える学習〜
上越教育大学・院 社会系M2
(埼玉県比企郡小川町立東中学校)栗田 秀人

1.はじめに

(1)新学習指導要領との関係

 本実践は、アメリカの公共交通、特に路線バスに対する考え方に着目し、日本のそれと比較する中で、これからの地域の交通のあり方を見直すとともに、地域の実態について把握することをねらいとする。
 新学習指導要領では、「身近な地域」について、内容の取扱いに「身近な地域における諸事象を取り上げ、観察や調査などの活動を行い、生徒が生活している土地に対する理解と関心を深めさせるとともに、市町村規模の地域的特色をとらえさせる視点や方法、地理的なまとめ方や発表の方法の基礎を身に付けさせる。」と記されている。ここでの地域とは「直接経験地域」を指し、説明には、次のように記されている。 「地理的事象を学習対象とし、そこでの観察や調査などを通して事象間の発見過程を体験し、地理的な追及の面白さを実感させる体験的・作業的学習を通して、生徒が生活している地域に対する理解と関心を深めさせ、その発展に努力する態度を育てることと、地理的な見方や考え方の基礎を培うことの2点がねらいとされている。さらに、生涯学習の観点から、日本や世界の各地を訪れた際に、地域に広がる景観などに着目して地域的特色を見出そうとする意欲や見いだす能力を育成することも期待されている。」(「 」内、学習指導要領、下線部は筆者による)
 このように、身近な地域の学習においては、「直接経験地域」の体験的・作業的学習を通した理解や地理的見方・考え方の育成に当たって、他地域との比較の中から地域的特色を見出す能力の育成も期待されているのである。

(2)教材化の意義や教師の教材観
 近年、交通事情の改善などの環境的な視点や、福祉的な視点から公共交通が見直されつつある。特に、バス交通は、生活に最も密着した公共交通として、近年注目を集めるようになってきている。
 モータリゼーションの進行は、バス事業を縮小の方向に向かわせることになった。生徒の住む埼玉県比企郡小川町には東武鉄道が鉄道・バス事業を展開しているが、同社の資料によれば、1日あたりのバス利用者数は、昭和45年をピークに、現在では半分以下にまで落ち込んでいるとのことである。小川町周辺を統括している熊谷営業所管内でも、昭和45年の18,794千人/年に対し、平成11年度は、9,298千人/年となっている。バス交通がこのような状況になった原因としては、自家用車の全国的な普及に加え、道路交通環境の悪化などがあげられる。また、いわゆる平成大不況や平成13年に予定されるバス事業の認可制から届出制への移行は、企業として事業縮小の方向へ向かわせている。
 しかし、近年、バス事業に対する見方が大きく変化してきている。モータリゼーションの進行は、都市部への自家用車の集中を招き交通渋滞の原因をつくっている。排気ガスによる環境汚染は、生活者にとっての環境問題はもとより、ひいては温暖化などによる地球規模の環境問題としても深刻な問題とされている。そんな中、公共交通を使って自動車を減らす努力が始まっている。特にバス交通は、家から最寄の駅までの通勤・通学用として、また、商店街までの日常生活に密着した、いわゆる「足」としての最も身近な交通手段として見直されてきている。特に、高齢者や障害者のためのバリアフリー化が重視されるこれからの社会では、機動力確保の視点からバス交通が見直されてきている。具体的な取り組みとしては、福祉面の対策としてのノンステップバスやリフト付きバス、停留所の掲示板表示の工夫(バス接近表示システム:バスの接近をランプやチャイム、音声などで知らせる)などがあげられる。環境面では、低公害バスの導入やアイドリング・ストップ&スタートシステムの採用などがある。行政主体の市内循環型のバスの導入なども広くは環境問題に対する取り組みと言える。
 バス交通に対する復権の動きは、欧米で先進的な取り組みが見られる。ツインシティー(ミネアポリス・セントポール)でも、直接的なバス利用に関わるパークアンドライド、休日の利用者の低減を見越した思い切った運行ダイヤの編成、インターネットによるバス事業全般に関する詳しい案内、HOV(High Occupant Vacancy:バス専用レーン)の設置など、大変充実したバス事業の様子がうかがえる。特にミネアポリス市に1967年にオープンした「ニコレットモール(Nicollet Mall)」は、バスとタクシーのみの乗り入れを認めた「トランジットモール(Transit Mall)」の試みとして注目されている。これは、環境や福祉的な問題に加え、ダウンタウンの活性化としても注目されている取り組みである。
 このように、路線バス事業の特徴を比較すると、日本とアメリカの取り組みにおける姿勢に相違点が見られる。単に「公共交通の見直し」という視点から両国を比較することは、どちらかというと積極的な施策にかけている日本の様子を浮き彫りにするとともに、地域に根ざしたこれからの公共交通のあり方を認識させられると考えた。更に、公共交通から地域を見る視点を養うことで、地域における多様な問題について追求する方向付けが出来、それが地域的特色をとらえさせる視点の基礎を身に付けさせることにつながると考えた。

(3)生徒の実態(地域性)
 小川町は埼玉県のほぼ中央部に位置する人口3万人弱の町である。江戸時代から和紙(細川紙)の産地として知られている。盆地上の地形であることから市街の再開発が難しく、交通事情は決して良い環境ではない。鉄道は東武東上線、JR八高線があり、東上線を使った東京方面への通勤・通学者が多い。バス路線では、町が近隣町村の中心であったため、昭和40年代まで小川町駅を中心とした路線が多数見られたが、近年では、赤字路線の廃止や行政バスへの移行などが見られ、4路線が残るのみである。しかし、一方では、平成13年を目処に東上線の複線化が図れる予定があったり、郊外を通る関越自動車道に「嵐山・小川インターチェンジ(仮称)」の計画があり、交通事情の改善とともに観光客の誘致などによる町の活性化が期待されている。また、古い町並みの残る、道路の狭い中心街の様子やバリアフリー化などの居住環境を意識したとき、公共交通に対する意識も見直される時期にあるといえる。
 生徒は、大変のびのびとしており素直で真面目な雰囲気がある。恵まれた自然環境の中で、全体として大変落ち着いた雰囲気を持っている。一方で、盆地状の地形と旧秩父往還の街道沿いに発達した町であることから古い商家などが多い。古い市街を中心に発達してきた町なので、旧商店街は衰退の方向にあり、町全体の活気が以前よりは失われている。このような状況の中で、生徒に町の活性化に向けた取り組みの一つとして公共交通に目を向けさせることは重要だろう。

(4)ねらい
公共交通(特に路線バス)のあり方に興味・関心、問題意識をもち、追求しつづけようとする。
大宮市やツインシティーの路線バス交通に対する取り組みを学ぶことで、背景となる意識の違いに着目し、地域(及び直接経験地域)の路線バスの果たす役割について話し合い、自分の考えを持とうとする。
追求に必要な情報を的確に収集・整理し、分かりやすい発表を心がける。
これからの路線バスの果たす役割と意義について理解し、地域の交通やこれらを含めた地域全般に関わる考えを巡らせることが出来る。



2.授業構想

(1)「ねらい」との関係
 「身近な地域」の学習では、「観察や調査」によって「生活している土地に対する理解と関心を深める」ことと、「地域的特色をとらえる視点や方法、地理的なまとめ方や発表の方法を身に付けさせる」ことがねらいとされる。この点を十分考慮し、実際の授業では、生徒一人一人が主体的に観察・調査活動を行えるよう「追及の視点」を明確にしながら展開できるようにすることを第一に考え授業を構想する。
 まず、日本のバス交通全般が衰退から復権の傾向にある状況を提示し、その背景にある問題について考察させ、居住地域のバス交通について想起させる。次に「ツインシティーのバス交通事情」等を教材として提示することにより、公共交通について住民意識、交通と街づくりなどについての先進的な考え方を学ぶ。その上で、生活地域についての交通を比較しながら調査・観察することで視点を明確化する。また、本単元は、埼玉県比企郡小川町の生徒を対象として単元を構成するが、町の規模に違いがあり比較対象とはしがたい。そこで、埼玉県の交通や経済の中心である大宮市の現状を参考事例として提示することで生徒の中の都市の規模に関する適正化を図る。大宮市は、東北、上信越方面の各新幹線をはじめ、東京都心部と郊外住宅地を結ぶ鉄道が集中している。バス交通に関しても3社が競合し充実している。しかし、近年では、大宮市でも自家用車に傾倒した住民の考え方があり、他地域と共通するバス路線の問題点を抱えている。一方で、生活環境に配慮した公共交通の見直しという視点では、県内では早い段階でノンステップバスや小型バス、低公害バスなどが導入されたり、バス停留所の音声表示システムである「バスロケーションシステム」が設置されたりと、交通環境改善に向けた動きも見られる。
 このように、生徒たちに馴染みの深い県の公共交通の中心都市としての大宮市を比較対象とすることで、公共交通を通して地域の様子を把握させるとともに、将来的な公共交通のあり方や街づくりの方向性について、深化させて考えさせることが出来るだろう。
 さらに、地図、統計などの読み取り、それらの取捨選択、発表を通した課題追求の過程の明確化、まとめ方や表現の工夫などを通して、いわゆる、地理的な見方や考え方、地理的な技能の育成についても十分考慮して進めることが出来る。

(2)単元構想〈例〉
主な学習活動(時間数)
主な教師の支援
[1] 単元の導入(1時間)
埼玉県大宮市の資料を参考に、バス事業の現状や復権の動きについて知るとともに、本単元の課題追求の視点(公共交通から地域を考える)を明確化する。
路線バス衰退の原因について把握する。
公共交通全般の現状を把握させる
埼玉県大宮市の路線バス事業に関する資料を提示し客観的に把握させる
路線バスの衰退の原因について、多面的に原因が追求できるよう助言する
[2] 比較の視点の明確化(1時間)
ツインシティーのバス交通事情や街づくりの様子を知る。
写真やその他の資料から様々な工夫を読み取る。
ツインシティーの路線バスの紹介
調査で収集した写真やその他の資料を提示し、バス交通に対する考え方が明確になる用に支援する。
[3] 課題の設定・明確化(1時間)
大宮市・ツインシティーの学習や、小川町のバス事業の概要に関する資料をもとに、地域の公共交通の抱える問題点を話し合い、自らの課題を設定する。
大宮市・ツインシティーの学習や、小川町のバス事業の概要に関する資料をもとに、地域の公共交通の抱える問題点を話し合い、自らの課題を設定する。
[4] 課題の追求(3時間)
調査・観察、資料収集、発表用資料を作成する。
前時までの学習を踏まえ、常に比較・検討する視点を持つよう助言する。
地図、統計資料等について適宜指導する。
[5] 追求結果の発表・今後の課題の確認(2時間)
地域と路線バスの関係や地域社会のあり方について今後の課題意識をもたせる。
 [1]では、「路線バス事業の現状や復権の動き」を探る場を設定する。まず、生徒の路線バスに対する意識を確認する。次に大宮市を例に路線バス全般の衰退の状況(路線の縮小と、旅客数の減少等)の資料を提示し、その原因について考えさせる。さらに路線バス事業の新たな取り組みについて生徒の予備知識を確認したり追加の資料を提示する中から、バス交通をめぐる役割や利用者、行政、企業などの意識に変化があることに気付かせる。
 [2]では、「ツインシティーの路線バス事情」を探る場を設定する。収集した資料や写真から路線バスに関する交通事情や様々な工夫を読み取らせる。それらの工夫が、環境問題に関する視点や、障害者・高齢者等を対象とした福祉的な視点によるもの、街づくりの一環としての視点から取り組まれていることなどに類型化させ、調和の取れた利用が為されていることを理解させる。(本時・下線は筆者)
 [3]では、「小川町の公共交通」について自らの課題を明確化する時間とする。前時までの学習を参考に小川町のバス交通の現状と課題、街づくりに関する話題などから個々の生徒に合わせた課題を設定させる。特に、将来的な公共交通や街づくりに関わる新たな提言を念頭において課題を設定できるように指導したい。
 [4]では、[3]で立てた「課題の追求」の時間とする。地図、統計資料等を適宜活用するとともに、フィールドワークも取り入れ生徒の視点で調査する。それらの活動の中から路線バス事業やそれを通した街づくりについて生徒個々の意見を決定させる。その際、既存の学習を参考にし、常に比較・検討する視点を持ちつづけるよう助言する。
 [5]では、「追求結果の発表・今後の課題の追求」を行う。調査した内容のプレゼンテーションを行い、意見交換、討論などから小川町の公共交通や地域社会としてのあり方を客観的に把握させ、最後に今後にむけて生徒個々の更なる課題を想起させ、まとめとする。
 以上のような単元構成を組むことで、単にアメリカ合衆国の理解、都市交通の理解など小さな枠に執われる事無く様々な視点から授業が構成できると考え、このような流れを提示した。

(3)本時の展開(指導案)
主な生徒の活動 時間 主な教師の支援
○対象地域の概要確認と内容の推測
・ツインシティーの概要に関する資料を読み取る
5分 ・ツインシティー、公共路線バスの写真提示
・合衆国全図などからツインシティーの位置等の概要について客観的な把握を行わせる。
課題:ツインシティーの路線バス事業にはどんな特徴や工夫があるか
○ツインシティーのバス事業に関する様々な資料からどんな工夫や特徴があるのか読み取る(パークアンドライド、バイクライド、リフト付バス、ニコレットモールのバス専用レーンなど) 10分 ・メトロの写真、ホームページ等を提示し、それぞれから読み取れることを考えさせる。
・日本の様子と比較しながら考えさせる。
○課題の答えを発表する
・答えを導いた資料、理由などを示す。

20分
・生徒が読み取った工夫の背景や理由を確認する。特に観点を明確にするよう助言する。
・3つの観点を類型化し板書する。
○発表内容を類型化する
・環境・福祉・街づくりのどの観点に当てはまるか考える。

10分
 
・路線バス事業に対する日本とツインシティーの差異について考える。   ・バス事業に対する意識の違いに十分に着目させる。
○ツインシティーの路線バス事情について整理する
・ワークシートの記入で学習内容を整理する。
5分 ・本時の学習内容を整理するとともに、日本の様子や直接経験地域である小川町と比較させることでさらなる意欲付けとする。


3.授業の実際
(実施場所 埼玉県比企郡小川町立東中学校 2年3組 実施日 平成12年10月16日)

(1)主な活動
写真1 HOVレーン
写真2   パーク・アンド・ライド専用駐車場
(バス停)
写真3   パーク・アンド・ライド専用駐車場
(全景)
写真4   リフト付バス(古いバスにもリフト
をつける。普及率は100%に近い。)
 本時の学習フィールド(ミネアポリス・セントポール)の概要について説明した後、学習課題(ツインシティーの路線バス事業にはどんな特徴や工夫があるか) を教師側から提示。日本の路線バス事情について確認 の後、数枚の写真を班毎に配布し、バス事業の工夫について検討させる。数分の後、実物投影機で写真を提示しながら各班で考察した内容を発表。内容を確認した写真は、黒板に掲示した。  環境に配慮した取り組みとして以下の写真を提示した。
写真1   HOVレーン
 (バス及び複数乗車の乗用車専用レーン(下)とそれを示す道路標識(上))
写真2・3 パーク・アンド・ライド専用駐車場
 まず、写真1(下)を提示。当初、的確な回答が出なかったので、1の内容を示す道路標識の写真(写真1上)を補助資料として提示した。その結果、ダウンタウンへの通勤用にHOVレーンが存在すること、その使用の方法について確認できた。写真2.3については活発な討論が行われた。バス、停留所、周囲の大型駐車場の存在などからパーク・アンド・ライドの内容について生徒自らが導き出せたようである。生徒は写真の細部にも注目し、障害者用駐車場やHOVレーンの存在と組み合わせて発表できた。写真1・2・3 を総合した環境面の配慮について回答を求めたところ、排気ガスの問題や渋滞の軽減など、環境面の配慮事項について、総合的に判断できていた。
 福祉面に配慮した取り組みは以下の写真を提示した。
写真4 リフト付バス
写真5 低床バス及びスロープ
写真6 車椅子固定用ベルト
写真7 降車合図用ロープ
(ボタンではなく車内に張り巡らされているロープを引くことで運転手に降車を知らせる。座席を立たなくても手の届く範囲にあり便利)   写真8 自転車用リフト
 写真4・5・6は生徒にも直ぐ理解できた。写真7は、補助発問から誘導的に答えを導き出したが日本の降車用ボタンと比較して有意義であることにも気付いたようである。写真8からは、バス事業の福祉的な配慮事項が単に障害者や高齢者を対象としたものではなく、広く利用者全般を対象としているとの指摘も得られた。
 最後に写真9としてニコレットモール(本報告書第2集資料)のバス専用レーンから、街づくりにもバス交通が活かされていることを提示し、本時の内容を「まとめ」としてワークシートに整理させた。その際、日本の路線バス事情と比較する視点も盛り込むよう指示した。
写真5 低床バスのスロープ
写真6 車椅子固定用ベルト
写真7 降車合図用のロープ
写真8 自転車用リフト

(2)生徒の感想

 以下は、生徒の「まとめ」から抜粋したものである。概ね、紹介した内容を好意的に把握している。路線バス事業の様子を総合的に捉えられている点や、環境面を始めとして日本の実状を踏まえた問題意識も表現されていることに着目したい。
「幅広い視野で、誰にも喜ばれるサービスになっている。大規模にしていこうとする向上心が立派。」
「日本と比較すると、取り組みの規模が大きく、環境面でも福祉面でも積極的に取り組んでいるように見えた。日本でも、お金のかけ方を考えたほうが良いと思った。」
「環境面も福祉面も日本よりも考え方が先に進んでいる。」
「アメリカは大きな国だけど、細かい点に配慮していることがすごい。アメリカの良いところを真似したい。」(下線は生徒による)
「「障害者」「健常者」「高齢者」など、みんなにとって良い場所、乗り物、状況をつくっている。」
「パーク・アンド・ライドの考え方は素晴らしい。ただ、バス移動だと時間の制限があり、決まった時間に行動しなければならないのは嫌だ。」
「バスの中の仕組みが工夫してあり、一部の人ではなくみんなを対象にしている点がすごい。しかし、パーク・アンド・ライドの駐車場建設は自然環境の破壊にはならないのか。」
「パーク・アンド・ライドの取り組みは素晴らしい。しかし、バス停まで自動車でないといけない点がアメリカ的だと思った。」
「アメリカに比べ日本は環境面が疎か。福祉ばかり優先しているように見える。」
「環境を意識して、自動車の数を減らそうと考える点がスケールの大きいアメリカらしい。」
「(取り組みの方法によっては)不便を感じるだろうが、将来を考えると日本も実行するべきだ。」
「環境や福祉に良いバスをもっと使うべき。ただ、お金がかかりそう。」
「(ニコレットモールについて)町の中心がバス専用道路になって成り立つのか。」
「HOVレーンは、日本の様子を考えると実際にできるのか疑問。」
「日本も高速道路整備をもっと行うべきだ。」
「実際の効果がどれほどあがっているのか知りたい。」
「日本とアメリカの工夫の違いが印象的だった。」
写真9 授業1・説明を聞く生徒
写真10   授業2・写真を見て考える生徒



4.授業の評価

 生徒は短い時間のなかでも、写真から多くのことを読み取り、多様な視点から判断することが出来た。特に、[1]「環境」「福祉」と分けて考えるのではなく総合的な視点から数々の取り組みを結びつけて考えることができた点や、[2]日本とアメリカの生活環境の違いを意識して考えられた生徒が存在した点は特質に値する。このように学習を構成・深化させていく過程で、一枚の写真から生徒は教師側が意図した以上の情報を読み取り、判断し、自分なりの評価を加えることができていた。生徒自身の発想を活かす上で、このような授業形態は有効であり積極的に取り入れていくべきであろう。事後の課題としては、授業内容から生徒が挙げた問題点の扱いがあげられる。今回の授業でも発展的に取り扱うことで更にアメリカ理解につなげられる問題点が挙げられていた。様々な制約から、それら一つ一つを取り上げることは出来なかったが、このような学習形態を基に生徒の意識を教材化していくことも十分可能であると考える。尚、今回の調査で各施策の効果に関わる統計資料を入手できなかった。生徒に具体的な数値による効果を示せなかったことが残念である。



5.参考文献

文部省(1999):『中学校学習指導要領解説 社会編』大阪書籍
秋山哲男・中村文彦(2000):『バスはよみがえる』日本評論社
「地球の歩き方」編集室(1999):『地球の歩き方1999〜2000版(2)アメリカ』ダイヤモンド社
東武鉄道株式会社(1999):『東武会社要覧'99』東武鉄道株式会社総務部広報センター
大宮市(1999):『大宮市都市計画マスタープラン(都市計画に関する基本的な方針)』大宮市建設局都市計画部都市政策課
Metro Transitホームページ:http://www.metrotransit.org/