Teaching Mathematics in Seven Countries: Results From the TIMSS 1999 Video Study
By James Hiebert, Ronald Gallimore, Helen Garnier, Karen Bogard Givvin, Hilary Hollingsworth, Jennifer Jacobs, Angel Miu-Ying Chui, Diana Wearne, Margaret Smith, Nicole Kersting, Alfred Manaster, Ellen Tseng, Wallace Etterbeek, Carl Manaster, Patrick Gonzales, and James Stigler
(http://nces.ed.gov/pubs2003/quarterly/spring/q2_1.asp)
このHPは、同名のレポートの要約である。1995年に行われたビデオ研究の続きとして行われた1999年のビデオ研究からの知見がコンパクトにまとめられている。全体は大きく次の二つの部分に分かれている。
- 様々な文化における教授の様子をビデオで調べることで、何を学ぶことができるのか?
- 8年生の数学の教授についてのTIMSS1999年ビデオ研究からの主要な知見は何か?
1995年のビデオ研究から参加国を3ヶ国から7ヶ国に増やしている。具体的には、オーストラリア、チェコ、香港、日本、オランダ、スイス、アメリカ合衆国である。ただし日本は1995年のデータが用いられている用である。米国以外の国は、米国よりTIMSSの成績が高い国として選ばれている。これら7ヶ国における8年生の数学の授業がビデオに記録され、その総数は638と記されている。
様々な文化における教授の様子をビデオで調べることで、何を学ぶことができるのか?
授業をビデオで分析することは、次のような前提に基づいている。すなわち、それが実践される様子に即してより深く教授について学ぶならば、生徒の学習の機会を高めるような要因を見出しやすくなるであろう。そしてまず、いくつかの国の教授を比較することは、以下のような利点を持つとしている。
- 念頭における可能性を広げることにより、自分たちの教授実践をフレッシュな視点から吟味することができる。
- 新たな選択肢を明らかにし、一つの国においてなされる選択についての議論に刺激を与える。
しかもビデオを用いているので以下のような利点もあるわけである。
- 異なる専門の多くの人々が何度も見ることができ、複雑な活動を詳細に記述したり吟味することができる。
- その国から無作為にサンプルを選ぶことで、様々な条件下で生徒が経験することの情報を与え、また政策的な議論をする際に、平均的に多くの生徒が経験することに焦点を当てることができる。
8年生の数学の教授についてのTIMSS1999年ビデオ研究からの主要な知見は何か?
彼らはまずいくつかの共通の特徴が見られたことも大切だとして、以下の点を述べている。
- 問題を解くことを通して数学を教えることがしばしば行われている。平均すると授業時間の80%は問題を解くことに当てられている。
- パブリックな作業(クラス全体)とプライベートな作業(個人あるいは小グループ)を含む形で組織されている。プライベートな作業で7ヶ国を通して最も共通に見られるパタンは、ペアやグループよりも個人で作業することである。
- 新しい内容に注意を向けることに加え、以前の内容を振り返ることが含まれている。
- 90%の授業で、教科書や何らかのワークシートの利用が行われている。
- 生徒よりも教師の方が多く話をしており、その比は8:1程度である。
次に、各国において違いの見られたこととして以下のようなことを挙げている。その際、いくつかの知見については、データが棒グラフの形で示され、大変わかりやすくなっている。
- チェコでは以前学習した内容を振り返ることに、米国を除く他の国々より重点が置かれている。日本では他の国々より新しい内容の導入に重点が置かれている。香港では、チェコ、日本、スイスに比べて、新しい内容の練習に重点が置かれている。(ちなみに日本のデータでは、授業時間のうち24%が振り返り、60%が新しい内容の導入、16%が新しい内容の練習となっている。)
- 7ヶ国の8年生の数学の授業を見ると、扱っている内容には幅あり、全数や分数から1次方程式、三角法に及んでいる。1時間あたり平均すると82%の問題は数、幾何、文字式・関数の3つのトピックに焦点を当てたものになっている。
- 日本の授業では扱われる問題の複雑さが他の国々とは違っている。他の国々では平均して63%の問題が低い複雑さであり、12%の問題が高い複雑さであるに過ぎない。日本では高い複雑さの問題が39%であり、低い複雑さの問題は17%に過ぎない。(ここで低い複雑さの問題とは標準的な手続きで4ステップ以下しか必要とならないもの、中程度の複雑さは5ステップp以上必要で1つの下位問題を含むもの、高い複雑さは5ステップ以上必要で少なくとも2つの下位問題を含むもの。)
- ある問題と次の問題との関係が、日本では他の国々と異なっている。数学的に関連した問題が1時間あたり平均42%用いられており、他の国々より高くなっており、単なる前の繰り返しの問題は40%であり他の国より低くなっている(他の国では1時間あたり平均で65%)。(ここで数学的に関連した問題とは、前の問題の解決を利用して解くような問題、付加的な操作を要求することで前のものを拡張するような問題、簡単な例を考えることで前の問題のある操作を際だたせる問題、類似の問題を他の方法で解決して前のものを精緻化するような問題を指しいてる。)
- 香港と日本の教師は、他の国の教師に比べ異なるタイプの問題を提示している。香港では1時間あたりの問題の84%が手続きを用いるだけの問題であり、チェコを除く他の国々より高くなっている(他のは41%(日本)から69%)。日本の教師は、数学的な事実や手続き、概念の間の結びつきを付けるような問題を54%提示しており、オランダを除く他の国より高くなっている(オランダ以外は10%台)。日本以外では手続きを用いる問題が概念に関わる問題より多くなっている。
- オーストラリアと米国の授業では、結びつきを付ける問題がクラスでの議論において実際に数学的事実や手続き、概念の間のつながりを付けるように扱われる比率が、他の国に比べて低い。米国の授業では、手続きを用いる問題が実際に手続きを用いるだけの形で扱われることが、チェコや日本の授業より頻繁に行われている。
- 日本とチェコの授業では、授業や数学的問題のポイントをまとめるために、他の国とは異なる方法が採られている。扱われる数学的なトピックについて目標を述べることが、チェコでは91%の授業で行われており、日本を除く他の国より多くなっている。授業の最後のまとめは日本、チェコ、香港では21%以上認められるのに対し、他の国では10%以下となっている。個々の問題を解いた後にその問題が示すポイントをまとめることを、日本では27%の問題について行っており他の国より高いとされる。
- オランダは数学と現実の生活場面との関係を他の国より高い程度で強調している。オランダではこうした問題が1時間あたり平均42%用いられているのに対し、日本では9%に留まっている。
- オーストラリア、オランダ、スイスの8年生は、他の国の生徒に比べて多くの時間をプライベートな作業に費やしている。そうした国々では問題が公の場で議論されることが他の国より少ない。またオランダでは1時間あたり平均10問の宿題が出ており、オーストラリアを除く他の国より多くなっている。
- オランダでは91%の授業で電卓が使われており、他の国(31%〜56%)より多くなっている(ちなみに日本はそうした事例が少なすぎてデータから除外されているようである)。グラフ電卓は米国の6%の授業で用いられている以外は、他の国ではほとんど観察されなかった。コンピュータが提示だけでなく実際に使われていることも比較的少なく、日本の授業の9%、香港の授業の5%、オーストラリアの授業の4%、スイスの授業の2%で組み込まれていた。
こうした結果を受けて、この要約は、「相対的に高い成績の国々においても、数学の教授に対する単一の共有されたアプローチというよりも、多様な教授方法が採られている」とまとめている。なお、Data Sourceのページからは、ビデオクリップを含むバージョンやもとのフルペーパーへのリンクがはられている。
比較研究を通して日本の授業の特徴も浮き彫りにされているが、こうした側面については安易に放棄することなく、慎重に扱っていく必要があろう。
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