上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

上越市におけるキャリア教育実践力の向上

取組実績と課題

上越市立飯小学校における移行支援授業取組

はじめに

 ここでは、教員養成GP夜授業実践として上越市立飯小学校における移行不安軽減授業を上げる。小学校から中学校への「移行不安」をキャリア教育の視点から取り組んだ授業例である。

小学校の紹介

 授業を行った上越市飯小学校は、校外からやや山間部に入った小学校であり、学年2クラスの中規模の小学校である。卒業者のほとんどは学区にある上越市立城北中学校に入っていく。同校を含め他2小学校が上越市立城北中学校に進学する。飯小学校での移行支援授業は、6年生2クラスの担任及び、上越市立城北中学校の1年生の協力を得て実施が可能となった。中学校生活への移行不安は小学6年生ならば誰にも多少は抱え、その不安への対応は小学校教育における重要な課題である。事前準備の内容は図表1に示す。

図表1 上越市立飯小学校移行支援授業の目的と事前準備

  1. 授業目的
    ・小学生の多くが抱える中学校生活への移行不安について、他者とのコミュニケーション活動や情報収集を通し、その対応方法を学び、中学校生活に積極的に取り組む姿勢を養う。
  2. 手順
    (1)事前準備
    [1]授業予定学級(上越市立飯小学校6年1組、2組)の児童にJ立上越市立城北中学校に進級するに当たって、楽しみなこと、心配なことを自由記述で書いてもらう。(1月13日放課後)
    [2]1で得たデータをもとに、中学校進級時の児童のもつ期待と不安を類型化する。
    [3]類型化されたものについて、現在の中学校1年生に対し、5つの項目に対してどのように対応したかを調査し、対応した生徒の現在の気持ちをもとにビデオレターを作成する。(1月20日)
    (2)授業前後の予定
    [1]第1回授業打ち合わせ(2月7日)→第1回授業(6年1組)(2月8日)→担任を交えた反省会
    [2]第2回授業打ち合わせ(2月23日)→第2回授業(6年2組)(2月24日)→担任を交えた反省会

移行支援授業の事前準備について

 1の[1]で示した移行不安の項目調査は「中学校生活について楽しみや心配なことを書いて下さい」の表現で児童に自由記述を求めた。記述法にした理由は、事前に不安項目を示す選択法では、不安を価値付ける可能性があったからである。児童が自由に書いた記述を数量化、類型化すると、心配を示す項目として、勉強、友達、部活、先生、先輩の5つが量的に極めて多いことが判明した。(1の[2])
 1の[3]では、上越市立城北中学校の1年生に対して以下の文面の依頼文を配布した。
 「上越市立城北中学校1年生のみなさんへ:4月に城北中に入る小学校6年生は、中学生活に次の不安をもっています。勉強、友達、部活、先生、先輩の5項目です。昨年同じような不安があったけれど、今は元気にやっている人、メッセージをください。」
 依頼文に5項目を示し、さらに、それぞれの項目について、「現在の友達と別れてしまうことが心配」、「別の小学校からきた人たちと友達関係をつくれるのでしょうか。」、「いじめられないか」といった調査で得られた記述を掲載することで、中学生が1年前の心境を思い起こし、同様の不安を抱えた小学生への支援の気持ちの醸成を図った。同様の経験をした1年生の小学6年生への働きかけは、先月号に示したピア・サポートの機能をもつ。つまり、同様の経験をもつ人間による妥当な対応と、こうした対応に専門家である教師やカウンセラーには求めることのできない助言や示唆が可能になるからである。
 呼びかけに13名の生徒が応じた。人選の際、飯小学校の卒業者に限定することなく他の2つの小学校の卒業者も含むことにした。他の小学校卒業者も同様の不安を抱えているとの共感性を高めるためである。
 13人にはビデオレターによるメッセージの撮影日、時間を提示し以下の内容で、1〜2分で話を準備してもらった。

  1. 名前
  2. 出身小学校
  3. 自分が入学前に持っていた不安
  4. 今の自分…以下の内容も含め、楽しく中学生活を送っている様子を伝えてください。たとえば、「こんな感じで自然に心配が減っていった。」、「今は楽しく……の生活を送っている。」など
  5. ひとこと 

 ビデオ撮影に当たっては、自然な様子を優先させるためリハーサル、撮り直しなどは行わなかった。生徒が意欲的に参加してくれたため、思いのほか撮影は順調に進んだ。こうして撮影したビデオをもとに移行支援授業を実施した。

移行支援授業の実際

 支援授業の指導案は図表2の通りである。授業には「全体目標」と下位目標の「めあて」が設定されている。「めあて」は各活動にあてられ、その都度提示する。導入段階では、楽しみなこと心配なことの事前調査に触れ、さらに「シート1」(資料1)の記入で活動へのレディネス形成を行う。
 キャリア教育で育成したい4能力領域で表現すると、導入およびまとめで行う楽しみと不安への評価、および授業を通して見えた課題の設定は「意思決定能力」に類型化される。展開1【ビデオレターの視聴】では「情報活用能力」の育成、展開2【楽しみ、不安のランキング】は「人間関係形成能力」を育成することになる。ここでのランキンググッズは授業者の工夫による準備が必要。展開3の【発表】によるシェアリングを通し「人間関係形成能力」及び「将来設計能力」の育成が図られることになる。
 まとめで「不安があって当然」と教示し、移行場面での課題解決能力を各自の発達段階に応じて育成できるようにする。こうして身についた能力は、次の移行場面で有効に作用するのである。

図表2 J市立I小学校移行支援授業授業案

  教示 提示 活動([  ]は資料)
導入(5分) 事前アンケートについての振り返り。授業についてのガイダンス及び全体目標提示。
全体目標:中学校生活を思いえがき、やってみたいことを見つけよう。 ・中学校生活で楽しみに思うもの、心配に思うものを自己評価。[シート1−1](勉強、友達、部活、先生、先輩を五件法で評価)
展開1(15分) 【ビデオレター視聴】
ビデオレターを見る際のめあて[1]を提示。
めあて[1]:ビデオレターをみて、先輩たちの中学校生活を知ろう。 ビデオレター視聴。(12分)(教材:ビデオ)
展開2(12分) 【楽しみ:不安のランキング】
めあて[2]を提示し、話し合いについてガイダンス。楽しみ、心配で5項目をランキングする。楽しみと心配のボーダーは班で決める。中学校生活で「やってみたいこと」を各自発表。
めあて[2]:話し合いに参加し、自分とちがう意見にも耳をかたむけよう 班ごとに勉強、友達、部活、先生、先輩をランキング。[ランキンググッズ]
それぞれの意見を出し合う、話し合いでランキングをきめる、発表準備。
展開3(8分) 【発表】
発表順はカードで決定。各班ランキング、及び話し合いで出された「やってみたいこと」を発表。
めあて[3]:中学校生活でやってみたいことを考えよう。 各班その場で発表。ランキング結果、ボーダーの位置、どうしてこうなったか、「やってみたいこと」などの発表方法は各班自由。班の数により発表時間の調整を行う。
まとめ(5分) 不安があって当然と伝える。時間のない場合は、シート2は帰りの学級活動で記入。 授業で感じたことを何でも書いてみよう。 再度自己評価[シート1−2]、振り返り[シート2−3,4]

資料1:中学校生活アンケート「楽しみvs心配」・振り返りシート 1(概要)

  1. 中学校生活について、今の自分の気持ちに○をつけよう。
      大変楽しみ やや楽しみ どちらともいえない やや不安 大変不安
    勉強 5 4 3 2 1
    友だち 5 4 3 2 1
    部かつ 5 4 3 2 1
    先生 5 4 3 2 1
    せんぱい 5 4 3 2 1
  2. ランキングで話し合ったあとの、今の自分の気持ちに○をつけよう。
      大変楽しみ やや楽しみ どちらともいえない やや不安 大変不安
    勉強 5 4 3 2 1
    友だち 5 4 3 2 1
    部かつ 5 4 3 2 1
    先生 5 4 3 2 1
    せんぱい 5 4 3 2 1
    ☆1と2をくらべ、変わった人はどうして変わったか、書いてください。
  3. 目標やめあてにとりくめましたか。
    じゅぎょうの目標:中学校生活を思いえがき、やってみたいことを見つけよう。(○をつけてください)
    とりくめた どちらともいえない とりくめなかった
    ☆やってみたいことが見つかった人はかいてください。

    めあて[1]:ビデオをみて、先輩たちの中学校生活を知ろう。
    とりくめた どちらともいえない とりくめなかった
    めあて[2]:話し合いに参加し、自分とちがう意見にも耳をかたむけよう。
    とりくめた どちらともいえない とりくめなかった
    めあて[3]:中学校生活でやってみたいことを考えよう。
    とりくめた どちらともいえない とりくめなかった
  4. じゅぎょうの感想

事後指導

 授業終了後、担任を交えた合評会を行い、今後の学級経営に活かしてもらう。さらに、「シート2」(資料2)の記述を通し、支援の必要な児童がいる場合、キャリアカウンセリングなどを担任に依頼する。

まとめ

 上越市立城北中学校が本年度1年生に対して4月に実施した「生活アンケート」の回答項目を分析した。その結果、前年度比で本授業を受けた飯小学校出身者のみが他2小学校卒業者と比較し有意に上昇している項目の中に「将来の目標がある」、「自分の人生に希望を持っている」があった。即断は出来ないが、移行支援授業との関連を今後明らかにしていく必要がある。