上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

上越市におけるキャリア教育実践力の向上

取組実績と課題

「キャリア・スタート・ウィーク」事業における上越教育大学と城北中学校との連携

1.城北中学校の取り組み

  1. 目的
    ア これまでの学習と実際の職業体験を通して、望ましい勤労観、職業観を育む。
     ・地域社会と連携した組織的、系統的なキャリア教育を通して、将来の職業について、自分の考えを深める。
     ・働くことを通して、人や社会の役に立つことの意義や職業の大切さに気づくことができるようにする。
    イ 平日(授業日)に5日間実施することで、生徒や保護者、地域にとって、職場体験学習やキャリア教育の意義について、一層の理解を図る。
  2. 平日(授業日)5日間のねらい
    ア 生徒や保護者、事業所が、職場体験学習を「授業」としてとらえ協働できるようにする。
    イ 5日間の体験後、翌日からの学校生活における生徒の変容を見とれるようにする。
  3. 期日
    平成18年9月19日(火)〜9月25日(月)(土、日は除く)
  4. 参加生徒数
    上越市立城北中学校  第2学年  148名
  5. 体験事業所数
    約60事業所
  6. 「キャリア・スタート・ウィーク」における指導計画
事前指導 4月 ○職場体験学習ガイダンス
  5月 ○職業レディネストの実施と分析
    ○身近な職業調べと働くことの意義、学ぶことの意義
  6月 ○職業講話「職業人から学ぼう」
    ○受入事業所の決定
  7月 ○自己PRカードの作成
    ○事前訪問準備
    ○事業所事前訪問
  9月 ○職場体験事前指導
    ○進路自己効力事前アンケート
職場体験 9月19日〜9月25日 ○キャリア・スタート・ウィーク(5日間の職場体験学習)
事後指導 9月 ○進路自己効力事後アンケート
    ○お礼状の作成
    ○職場体験日誌のまとめ
  10月 ○職場体験のまとめ
    ○職場体験学習発表会

2.支援体制

  1. 組織
    「上越市キャリア・スタート・ウィーク実行委員会」
    商工会議所、青年会議所、公共職業安定所、若者しごと館、事業所、市PTA連絡協議会、
    上越教育大学、中学校長会、地域学校教育支援センター、上越市など
  2. 活動内容
    ○学校・関係事業所・関係機関等との連絡調整
    ○受入事業所等の開拓と啓発
    ○職場体験の指導プログラムの開発
    ○職場体験実施中の巡回指導

3.上越教育大学の協力

 上越教育大学三村隆男助教授が上越市キャリア・スタート・ウィーク実行委員長として、また三村研究室の院生が実行委員会の協力員として、準備・運営に携わった。内容としては次のようなものである。

  1. 事業所開拓において、各学校や事務局の要請により、院生が同行して補助にあたる。
  2. キャリア・スタート・ウィーク職場体験受入授業所説明会(7月6日実施)において、三村隆男助教授が、本事業の趣旨の説明を行い、協力を要請する。
  3. 事業所と参加生徒とのマッチングが決定した段階で希望する事業所に対して、依頼により職場体験プログラムを作成する。
  4. 職場体験中に院生が事業所に訪問し、事業所の方の意見・要望を聞くとともに、生徒の活動を観察する。
  5. 職場体験の効果測定のために、「中学生用進路決定自己効力アンケート」を実施し、その分析を行う。

4.受入事業所への聞き取り調査

  • 基本的に職場体験には賛成である。しかし、中学生のうちは遊ばせてあげたいと考えている。まだ、中学生に職場体験は早いと考えている。
  • 職場体験を通して、何か一つでもいいから得るものがあればそれでいいと思う。あまり要求をするのはかわいそうである。目的を持たせて、職場体験をやらせたい。
  • 職場体験における学校の意図を十分に図ろうとしている。事前の企業説明会に参加し、できる限りのことはやろうとした。その説明会で、プログラムの必要性を認識し、プログラムも作成した。
  • 職場体験は生徒の成長が第一である。これが受入企業側の一番のメリットであると考えている。その生徒にとってよい形で還元できればと考える。デメリットは特にないと思うが、利用者が多くなった日は、相手をしてあげられない程度。しかし、負担感をもってしまうのも確かである。また、プライバシーの問題も絡んでくるので、どう捉えたらよいのかわからない。
  • 福祉関係、特に介護関係はプライバシーの問題でどうだろうと疑問を感じている。また、中学生にはショックを受ける可能性がある(排泄や入浴)。
  • 体験学習と実習とは全然違う。だから、この職場体験にあまり生徒の目的(何を学びたいのか、何をやりたいのかなど)を追求したり、その働きに期待しすぎてはいけないと介護士に言われた。
  • 受け身で終わるのではなく、何を体験したいのか具体的に意思表示してほしい。そうしてもらえれば、その要求に少しでも近づけようと対応することもできる。
  • この5日間の職場体験を将来思い出してくれさえすれば、それだけでうれしい。この体験が将来どこかで生きてくるはずだと信じている。
  • 事前に行われた受入事業所向けの説明会は、非常に素晴らしいと思った。職場体験の目的や重要性を感じた。説明会で使われたビデオに感銘し、本社でもあのビデオを入手するようにお願いした。社員教育においても非常に意義あるものである。
  • 何を教えてやるかということを特に意識せず、当たり前のように社内でのルールを教えていく考えでいる。基本的なこと、当然なことを教えていきたい。
  • 事業所にとってメリットはあまりないと考えている。すべて本人にとって還元してもらえればと思っている。本人のためになれば、それが利益(メリット)になる。将来の人材確保につながるかもと考えている。デメリットとしては、客商売、そして生ものを扱っているので、与えられる仕事が限られてくる。お店も商売としてやっている以上、不利益を被らないように意識している。
  • 5日間通して生徒を観察していると、家庭でどういうしつけをしているのか、はっきりとわかる。(靴をそろえる、食後自分の皿を片付けるなど)これは会社で教える以前の問題で、そこまでは言わなかった。
  • 職場体験を通して、社会で生きていくために、最低限必要なことを伝えていきたい。
  • 学校から送られてくるプロフィールであるが、まだ中学生なので、生徒の将来の夢はあまり参考にならない。それよりもどのような性格なのかということを知りたい。
  • やはり中学生にとっては、職場体験は非常に意義ある取り組みであると考える。
  • 事前に行われた受入事業所向けの説明会に参加し、プログラムの重要性を感じ、作成することにした。それを見ることによって、仕事の見通しを持ってくれればと思う。
  • 職場にとっても中学生を受け入れることによって、職員に意識の改善を促したり、気持ちにメリハリを持たせるという意味でも、効果はあるのではないかと考える。職場内に緊張感を持たせてくれる。その意味では、職員と同じ勤務形態での職場体験であればさらによいと考える。デメリットとしては、やはり多少の負担感をもっているのではないかと考える。しかし、この職場体験も単発的な行事ではなく、毎年のように継続的に固定化さえすれば、その負担感は軽減していくだろう。
  • 職場体験の期間がどうしても偏った時期になってしまうので、これから生徒の受入を増やしていくためには、1年間という長いスパンで対応できるようになるとだいぶ楽になってくると思う。
  • 昔は当然であった地域全体で子どもを育てていくという環境に戻りつつあることは、すごくいいことである。
  • 事業所で知りたい情報は、生徒の性格である。どういう性格で、何が好きで、どんな目的を持っているのかを知りたい。個人情報のことも絡んでくるので難しい面があるが、生徒だけの自己紹介だけではなく、教師からの客観的な視点からの記述もあれば非常に助かる。(例えば、人志向や物志向など)
  • 生徒の受け入れに関しては、数年前からも実施していたので、特に抵抗感はなかったが、今年になってその職場体験が5日間に長くなったのは、やはり日数的に長すぎるという印象を受けている。今回のCSWを受け入れるにあたって感じたことは、[1]5日間連続では、非常に負担感がある。[2]生徒を受け入れることによって、通常の業務ができなくなる。[3]生徒の安全面が気がかりである。この3点であった。
  • 現在の経済状況では、なかなか受入先の事業所を探すのは大変だと感じている。特に個人経営企業では、人手も少なく、与えてあげられる仕事の量も少なすぎる。どのような仕事を与えてあげればよいかで、頭を悩ましてしまうことも正直なところである。
  • 今後の課題となってくるのは、やはり受入先の確保になってくると感じているが、一番大事なのは、教師がいかに外への窓口となった存在でいれるかであろう。教師自身が、人と人とのつながり、周りとのコミュニケーション、地域におけるネットワークづくりができているかどうかで、大きく左右されるだろう。実際に、学校とのつながり、先生とのつながりがあるため、受入を引き受けようかということが一番の理由であると思う。
  • この職場体験を一時的なものではなく、これからもずっと継続していくためには、ある程度の予算化は絶対に必要になってくると考えている。やはり、今後も今以上に実施する学校が増えてくれば、ただのボランティアだけでは続くわけがない。
  • 8月に春日中の生徒を受け入れたが、最初、5日間は長いなと思っていたが、実際にやってみるとあっという間であった。最初はネックに感じていた5日間だったが、1日、2日では見えなかったところも見えてきて、5日経って、初めて気づけることもあった。このような経験をすると、5日間という期間は、事業所にとっても新たな発見であり、意義あることかもしれないと感じた。
  • 企業としてのメリットや利益はまったく期待していない。それよりも、この職場体験を「人間教育」として捉え、仕事を経験することによって、仕事をすることによって、どう成長していってくれるかを期待している。長いスパンでの成長を見ていきたい。やはり、人と人のつながりが感じられるようなものにしてあげたい。
  • 学校から事前に送られてくる質問事項であるが、その内容が仕事一辺倒のものばかりだったので、もっとその以前の問題である勤労観のようなものに関した質問があればと感じた。仕事の内容は、5日間もあるので、経験していくうちに覚えていくはず。それよりももっと基本的なことを問われたいし、生徒たちにも考えさせてあげたい。
  • 学校と受入事業所との連携は、お互いに職場体験に対する意義や目的を共有して初めて成り立つものであると思っている。そして、それを生徒にも知らせるべきである。ただ、体験して終わりではなく、そのような学校側の考えをしっかり事業所側に伝えることができれば、事業所もある程度の工夫をしてくるはずである。
  • 生徒が送ってくれる礼状であるが、毎回決まり文句で、うれしいことはうれしいが、あまり気持ちが伝わってこない。実際の生徒の本音を知りたい。職業についての感想ではなく、働くことを通して、その生徒が人間としてどう成長したかしりたい。職業についての感想ではなく、その生徒自身の感想を聞きたい。
  • 職場体験が終わったから、学校との関係がそのまま終わるのではなく、その後、受入れた生徒が学校生活や部活動でどう変わっていったのか、成長してくれたのか、長いスパンでの成長を知りたい。職場体験が終わっても学校とのつながりをもっていたい。何らかの形でちょっとしたものでもいいので、学校側から情報を発信してもらえるとうれしい。
  • 実際5日間生徒を受入れたことによって、5日間の職場体験にはある程度の意義や良さ、そして5日間だから気づくこと、できることがあることは理解できる。しかし、それはわかっていても、実際には5日間という時間は受入事業所にとって、非常に大変であることも学校にわかってもらいたい。
  • 職場体験に関しては、以前から受け入れていたので、5日間は長いと感じるが、今までのこともあるので、受け入れることにした。しかし、仕事自体の流れをつかめる意味でも、この5日間連続という実施には意味があると感じている。

5.中学生用進路決定自己効力アンケートの分析結果

  1. 「中学生用進路決定自己効力尺度」
     25問あり、進路学習レディネス(進路学習への準備ができているか)、進路選択への柔軟な姿勢、主体的進路実現の3つの項目の因子に類型化される。4件法によるアンケートで自己評価を行う。職場体験の前後に実施して、職場体験の効果を評価した。
  2. 分析結果
    1 調査協力者
     上越市立城北中学校2年生の4学級150名
    2 調査時期
     質問紙による調査で、プリテストとポストテストを実施
     プリテスト:平成18年9月15日(金)
     ポストテスト:平成18年9月26日(火)
    3 調査材料
     効果測定に使用した尺度は、キャリア発達の効果測定の代替尺度として、中学生用進路決定自己効力尺度(三村隆男・白石紳一,2003)を使用
    4 分析方法
     Java Script-STAR(version4.2.7j)統計プログラム(田中・中野,2006)を用いた分散分析を実施
    5 調査結果
     プリテスト−ポストテストにおける得点の変化
      進路学習レディネス 進路選択への柔軟な姿勢 主体的進路実現
    プリ ポスト プリ ポスト プリ ポスト
    N 1862 1862 798 798 798 665
    M 2.8045 3.1214 2.6980 2.9574 2.7865 3.1218
    S.D. 0.8222 0.7511 0.8166 0.7613 0.8788 0.7688
     3×2の分散分析の結果、3因子群の主効果( F(2,3322)=11.36,P<.01)、およびテスト群の主効果( F(2,3322=361.16,p<.01)が共に1%水準で有意であった。
     LSD法を用いた多重比較の結果(MSe=0.9183,p<.05)、進路学習レディネス因子群と主体的進路実現因子群の平均が進路選択への柔軟な姿勢因子群の平均よりも有意に大きかった。
  3. 考察
     職場体験活動を通して、生徒たちがどのようにキャリア発達が促進されたかを測る尺度は、現在のところ、開発されていないため、その代替尺度として、今回は「中学生用進路決定自己効力尺度」を使用した。
     この自己効力尺度は、全部で25問の設問があり、職場体験の直前にプレテスト、職場体験終了後にポストテストというように、計2回アンケートを取ることにより、職場体験を通して、どのように自己効力が上昇しているのか生徒たちに自己評価させて測定するものである。
     この自己効力尺度は、3つの因子に分かれていて、第1因子「進路学習レディネス(進路学習への準備ができているか)」、第2因子「進路選択への柔軟な姿勢」、第3因子「主体的進路実現」の3因子から構成されている。
     調査の結果、すべての3因子において、上昇していることがわかり、このことから職場体験を通して、自己効力(自分はやればできるんだという気持ち)や進路に向けた意識付けが、職場体験前よりも養われたということが判断される。
     また、グラフを見てもらっても分かるように、特に「進路学習レディネス」と「主体的進路実現」の2因子が上昇していることがわかる。このことから、進路や将来、または職業に対する意識が強くなり、それに向けて頑張っていこうとする意欲が大きくなっているということが考えられる。