1.入学時における「人間教育学セミナー」

ポートフォリオ評価による学生の意識の変容

◎ 教職キャリア教育を貫くポートフォリオ評価

 1年次必修科目「人間教育学セミナー」などでスタートするポートフォリオ評価は,地域と連携した体系的な教育実習と特色あるカリキュラムをつなぐ役目をしています。このポートフォリオ評価は,「教職キャリア教育」の根幹を,「教職キャリアファイル」というかたちで4年間貫いていくことになります。このように,「人間教育学セミナー」では,1年次から「書くこと」によるロゴス化のプロセスを取り込んだプログラム構成になっています。なぜなら,学生の教職に対する認識変容を促す転換の契機として,ポートフォリオ評価を位置づけているからです。
 学生は,「人間教育学セミナー」で出会った多様な教師像を仲間同士で共有し合い,既有の教師像と関係づけながら,ポートフォリオ評価により,教職に対するイメージを更新し続けます。この継続により,カリキュラムを貫くかたちで,学生は教職に関する知識や経験のみでなく,メタ認知的に教職に対する自己の適性と課題を自覚し続けていくことになります。

◎ 教職に対する学生の意識の変容

 評価カードを書き貯め,「人間教育学セミナー」最終日に書いた「入学前と今の『私』」と題したカードをもとに,教職に対する学生の意識の変容を省察しました。
 すると,漠然とした教職に対するイメージが,入学時から半年間にわたる自己の学びに基づいたものへと,次の4点において変容していることが見えました。

【今の「教職と私」】

    ■ 教員としての使命感や教育的愛情にかかわること
  • 子どもの可能性を伸ばす責任は大きい。
  • 外側からでなく,目の前の子どもと共に内側から教師像を考えるようになり,子どもの可能性を育てることの重要性に気付いた。
  • 教師は,子どもの成長にかかわり,共に学び,共に成長していくところにこそ魅力があるのだと分かった。
  • 教師の多様な仕事内容を知り,今の自分に必要なことが具体的に見えてきた。
  • 子どもの命を守ることが一番重要な任務だと気付いた。子どもの幸せにつながっていくことを考えていきたい。
  • 体罰やいじめの問題を考える中で,言葉だけでなく,体まるごとで自分の思いを子どもに伝えたいと感じた。
  • 教師とは,信頼され,子どもを支える存在である。どんなに忙しくても子どもと共に感動できることは,教師でしか味わえない喜びである。
  • 多様な教育問題と向き合っている現在の教師の姿を知り,以前より責任の重さを実感している。
    ■ 教員としての社会性や対人関係にかかわること
  • 多様な教育問題の解決には,一人ではなく,同僚・管理職・保護者・地域の人など様々な人との連携が必要なのだと分かった。
  • 目の前の子どもと共に問題を解決していくとき,親や地域との関係づくりに取り組むことも大切なのだと思うようになった。
    ■ 子ども理解や学級経営にかかわること
  • 子どもの思いに気付く力,一人一人の本質を見抜く力を身に付けるために,子どもと対応することが必要である。
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  • いじめ・非行・学級崩壊などの問題を,もっと身近なところで日頃から意識することが大切だと思った。
  • 子どもの成長の土台を築くような学校生活をつくっていくことが,一番大切なのではないか。
  • いじめ問題に対する取組を知り,子どもの変化の発見や対応力が大切なのだと思った。
  • 子どもの笑顔に触れたことで,子どもの個性を生かしながら指導できる表現力のある教師になりたいと考えている。
    ■ 授業づくりにかかわること
  • 子どもを楽しませることより,分からない子どもへの指導ができることが本物だと考えるようになった。
  • 子どもの可能性を考え,成長させるための授業の在り方を考えていきたい。
  • 子どもの豊かな発想を生かし,共に体験しながら学んでいくような活動をつくることが大切だと思うようになった。
  • 教えることだけでなく,子どもと共に授業をつくっていくことが教師の喜びなのだろうと思う。
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  • 教師は自ら学ぶ姿勢が大切だから,授業研究を続け,よりよい授業を求め続ける教師でありたい。
  • 授業の中で子どもに考える力を育むには,自分自身に専門的な知識や技能が求められる。
 

 このように,主観性から主体性が芽ばえた要因として,大きく次の4点が上げられます。

【入学して4ヶ月の間,私の教育観に影響を与えたこと】
指定図書による理想の教師像の変化や,教職に関する知識の獲得
多様な講義で出会った現場教師などの教育観,子ども観や生き方からの刺激
クラスセミナーで協議・討論した,教職に対する異なる仲間の考えからの学び
「人間教育学セミナー」での問題意識をもとに,体験学習や学びクラブ,表現の授業など
  様々なカリキュラムでの学びが関係付いた

 ポートフォリオ評価では,教師像に対する理想と現実との「ギャップ」や「異なる」仲間の考え,「予想外」の子どもの反応,「新たな」知識など,変容を促す契機を節目として,自ら書き続けることが大切です。なぜなら,書くことで教職に対して考える習慣をつけ,教師を目指す自分は何をすべきかを意識することができるようになるからです。
 ポートフォリオ評価をするようになって,自分のすべきことを意識する1年次学生が多数出てきました。その多くは,次のように,今後自分がすべき「方法」と,獲得したい「内容」の両者が伴う意識でした。

【「今の私」をさらに高めるために,今後取り組んでみたいこと】
読書から多様なものの見方や考え方を知り,教職に対する自分の考えの核を明確にする
  こと。
現場教師や院生と接し学校の現状や教育の本質を学ぶこと。
たくさんの授業で学んだことを,理想の教師像と関係づけながら整理すること。
新聞など多様な情報から,現在の教育情勢を知り,今日的な教育問題に関心をもつこと。
学びクラブで,子どもと積極的にかかわり,子どもに対応する力を身に付けること。
教育実習を通して,子どもと触れ合い,個性を生かすことを考え続けること。
ボランティア活動に幅広く参加して多様な人と交流することで,自分自身の幅を広げること。
何事にも進んで挑戦し,子どもに語ることができるものを蓄積していくこと。
興味のある学問に取り組み専門性を身に付けていくとともに,よりよい授業をつくっていく
  感覚を豊かにしていくこと。