『学習心理学特論』レポートへのコメント

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■ 4年ぶりに復活!

  しばらく休んでいたこのページを,久々に書くことにしました。その動機については,いちばん最後に書くことにして,まずは今年のレポートについての講評を。(事例編の復活はありません)

  今回は,いくつか例年とちがう傾向が見られました。ひとつは,達成動機に関するレポートが多く,そのぶん,例年の定番となっているいくつかの領域についてのレポートが,相対的に少なかったことがあげられます。達成動機についてはこれまで,それ以降の理論が出てくるための「前置き」的にとらえられていたのでしょう,これをレポートにとりあげる人はあまりいなかったのですが,今年は珍しく多くてびっくりしました。ま,中には別の理論を使って説明した方が無理なく説明できそうなのに…,と思えるものもありましたが,それはそれとして,レポートの評価は,みなさんが選んだ理論の当てはまりの良さ,という観点のみから見ています。

  事例の領域に関していえば,例年より幅広い領域がとりあげられていたと思います。こんな領域にも適用可能なのか,こんな事例もあるのかと,私自身読みながら何度もうなずいていました。その幅広さについて,ここで概観できるといいのですが,やはりそういう極端な例を扱ったレポートは「非公開」希望が多く,残念ながらここでは,どんな領域かも含めて伏せておきたいと思います。ひとつだけ,意欲が高まらずダメダメな自分の状態を描写したあるレポートなどは,まんま私にも当てはまっており,ドキリとさせられました,ということだけはここに報告しておきましょう。

  例年にない傾向といえば,今年ひとつ気になったのは,事実としての事例の記述と,その分析の記述とがきちんと分かれていないレポートが,少々目立ったことです。

  ごく一般的な傾向としていえば,事例とその分析とは別の段落として書き分けられているレポートがほとんどです。それぞれきちんとタイトルをつけてはっきり区別しているものも珍しくありません。

  それに対して今年は,1つの段落の中に事例の記述とその分析とが入り込んでいるレポートが複数見られました。もちろん,だからといってすぐに問題,というわけではありませんし,こちらから分けて書けと特別指示しているわけでもないのですが,やはり実際に読んでみると,こういうごちゃ混ぜレポートは,いろいろと問題が浮かびあがってきます。ですので,レポートを書く際には,事例の記述とその分析とを,形式の上でもきちんと分けて書くことをオススメしたいと思います。


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■ 今年のB評価

  さて,せっかく真面目に授業に出て,レポートも時間をかけて書いたのに,評価が低くてがっかりされた人も少なくないと思いますので,今年のB評価について,まとめておきます。今年Bをつけたレポートは,次の基準によっています。

・事例に対して複数の理論を適用している
 ひとつの事例を,部分的にこの特徴はこの理論に当てはまる,こちらの特徴はこの理論に当てはまる,とバラバラに書いてあるレポートです。これは,レポートの説明の時にもいいましたが,理論の適用とはいえません。それはたとえば医者が,この症状は風邪の典型的な症状だし,こっちの症状は心臓病の特徴だし…,とズラズラ説明してみせるのと同じです。

 患者が知りたいのは,自分の病気がいったい何なのかであり,個々の症状が別々の病気で説明できたとしても,ちっとも安心できません。多少当てはまりが悪い部分があったとしても,この理論なら全体としてもっとも事例にフィットしやすい,ということを示すことが大事なのです。
・理論に対する理解がちがっている,他と混同している
 これについては,心理以外の受講生が多いので,私としては寛大に評価しているつもりなのですが,今回はちょっと,たぶんたったひとつの誤解があちこちの記述に影響してしまったのでしょう,記述のズレが目立つものが見られました。
 たとえば,失敗回避傾向の強い人があえて困難な課題を選ぶことを,彼らがその課題を「楽しんでいるか,意欲的か」(これは内発的動機づけの特徴)という視点から分析するのは,明らかにヘンなのです。Atkinsonモデルでの彼らは,けっして進んで課題に取り組んでいるわけではないのですから。

 また,たんなる主観的成功確率の問題(成功確率は「主観的」な話なので,はたからみて中程度かやさしいか難しいかというのとは,当然ズレるのです)を,無理に失敗回避優位型の人の課題選択の特徴として分析しているレポートもありました。これはちょっと評価が厳しすぎたかもしれません。が,それが分析のメインだったこともあり,ちょっと辛い評価となりました。もう一度落ち着いて考えてみてください。主観的成功確率が人によって場合によって変わることを前提にすれば,われわれみんな,大なり小なり同じような行動をとると思いますよ。
・事実どうしの対応がとれていない
 事例の説明は基本,教師(やその他のおとなの人)からの働きかけと,それによって子どもが受けた影響という2つの部分から成り立っていますが,この2つがうまく対応していない,あるいは話が進むうちに少しずつ変化してしまっているものが見られました。

 たとえば,自分はこんな影響を受けたが,それは教師のこんな働きかけが原因だ,とする記述の中に,他の人たちはもっとひどい働きかけを受けたのだという記述があちこちに入っているケース。他の人たちがもっと強い働きかけを受けていたのだとすれば,その人にどんな影響が見られたかをターゲットに分析すべきですし,逆に自分の方は「まだましだった」わけですから,「まだまし」な働きかけによる影響性のちがいをしっかり考慮して書かないとおかしいと思います。

 働きかけの内容は,おそらくは最も強調できる働きかけを受けたのであろう他者のケースを記述して,受けた影響に関しては,おそらくは最も強調したい自分のケースを書く,というのでは,ちょっと科学的な分析とはいえません。

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■ ページ復活のわけ

  と,ひととおり今年のレポートへの講評が終わりましたので,最後に,なぜ4年も間を空けているこのページを再起動することにしたか,ということについてふれておきましょう。

  じつは今回,うちのコース内のトピックを事例として扱い,しかもそれを批判的にとりあげたレポートがあったのですが,私はそれにB評価をつけました。これがどうも後味が悪い。小心者の私としては,“自分が批判されたからBにしたのではないか” などと妙に勘ぐられたらやだな,というヘンな妄想が頭の中を駆け巡ります。認知的妨害思考ですね。

  レポートでの指摘は,共感できるところもあり,教員として誤解を解きたい部分もありましたが,もちろん,というかそういう事情があったからこそよけいに,それとは切り離して,レポートの評価は,できるだけ冷静に判断したつもりです。そのことを,きちんと書き留めておきたかったのです。言い換えれば,このレポートも上記のいずれかの基準でBと判断しました。それ以上でも,それ以下でもありません,ということです。…あまり力説するとかえってアヤシイのでこれくらいでやめますが。

  それとまあ,特に頑張って書いたのにB評価になってしまった人たちのために,ちゃんと基準を書いておく必要があるのじゃないかとは,以前から思っていたので,それと今回の件とが結びついたわけですね。

  このまま来年も続けるかどうかは未定ですが,ともあれ今年は,そんなわけで4年ぶりの復活となったのでした。