記録編 ピッツバーグ 1/4
ペンシルバニア州立大学インディアナ校
(埼玉県春日部市立武里中学校) 大島 薫
1 はじめに-「ナショナル・スタンダード」と現場の社会科教育-
 8月11日(火)、私たちはピッツバーグ市内からペンシルバニア州立大学インディアナ校へとバスを走らせた。全米地理教育協議会(The National Council for Geographic Education通称NCGE)の事務局長で教育現場にも明るいシェリー先生が、小中高の現職教員の方々と一緒に私たちの来訪を待っていて下さる。地理教育に関心の高いメンバーにとってこの日は特に待ちこがれた日。バスの車窓から見える河川や地層に歓声をあげながら、昼食もそこそこに私たちは現地へ向かった。
(1) アメリカの学校教育制度の特徴
 本題に入る前に、アメリカの学校教育の現状について言及しておこう。
 日本の学校教育の場合、文部省の「学習指導要領」によって教育内容が細かく規定されている。各教科ごとに学年別の学習内容や授業時数等が定められ、それに基づいた検定教科書が作成される。そのため、全国どこの学校でもある一定水準の学習内容が保証され、子どもたちは一様に学習を進めていく。
 均質な教育内容や教育効果を保証する日本の学校教育と対照的なのが、アメリカの教育制度である。学習内容は国(連邦政府)よりも州や自治体、直接的には「学区(school district)」がかなり強い裁量権を持っている。ここでいう「学区」は日本の学区/校区と全く異なる。教職員の採用、学校の教育内容、教育環境の整備等あらゆることに地域住民が発言権を有する。その地域の固定資産税が学校教育の多くに回されることから、自分たちの子どもが相応の教育(サービス)を受けるのが当然である、という発想なのであろう。地域住民(の子どもたち)の個々人の能力を最大限に伸ばすための教育内容、教育環境の整備と考えると、それぞれの「学区」ごとでサービスの内容が全く異なってくる。それこそが「教育の自由」なのだ、というとらえかたなのである。
(2) アメリカの教育改革Goals2000
 一方で、初等中等教育段階の学力が総体としてなかなか上がっていかない現実が指摘されて久しい。ヘッドスタートなどの施策も十分な効果が見られない中、アメリカの教育改革が行われるようになる。それが1994年に連邦議会で可決された教育改革法「2000年の目標:アメリカ教育法(Goals2000:Educate America Act)」である。これを受けて、各教科ごとに「ナショナル・スタンダード」をもうけ、各州、自治体、「学区」が具体的な教育改革を推し進め始めた。地理教育も「ナショナル・スタンダード」(Geography for Life National Geography Standards 1994)が作成された。ただしこれは連邦政府が独自に作成したものではなく、学術研究者の連携の中で作成されたものであることを付記しておく。
 徹底した「教育の自由」の理念と「ナショナル・スタンダード」。一見矛盾するかと思う2つの流れは、逼迫したアメリカの教育事情の中で、学校現場においていったいどのように統合されているのであろうか。今回のインディアナ校でのレクチャーは、アメリカの教育改革の具体的な事例を地理教育の側面から知る絶好の機会であった。