上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

特別支援学級の小集団指導において児童の主体的な課題遂行を高める手だての検討

結果とまとめ(詳細)

結果

1)児童の課題遂行機会
音楽の授業において、誰が(指導者、児童A〜D)どのような課題項目を遂行したのかについて学期毎に取りまとめたのが図1である。図1より、児童の課題遂行機会は、2学期では1学期よりも増加し、3学期では挨拶の号令や準備や片付けも含めて4名の児童が全ての課題項目を遂行した。

2)児童の課題遂行反応の生起
 図2-1は、児童Aの手遊び歌における動作模倣反応の生起数を累積データにまとめたものである。動作模倣反応を「5秒以上正しい(ビデオ教材と同じ)動作模倣をする」と定義し、それぞれの手遊び歌においてその反応が生じたか否かを記録した。図2-2は児童B、図2-3は児童C、図2-4は児童Dの動作模倣反応の生起数である。
 図2-1からも明らかなように、児童Aは全ての手遊び歌で、毎回、動作模倣反応の生起が認められた。図2-2より、児童Bは、グーチョキパーの歌と山賊の歌では、セッション7以降、糸まきまきの歌ではセッション10以降、動作模倣反応の生起が毎回認められるようになった。ひげじいさんの歌では、セッション1より動作模倣反応の生起が認められた。図2-3より、児童Cは、糸まきまきの歌ではセッション19以降、山賊の歌ではセッション14以降から動作模倣反応の生起が認められるようになった。グーチョキパーの歌はセッション17~19で、動作模倣反応の生起が認められたが、それ以降は認められなかった。ひげじいさんの歌はセッション14以降、動作模倣反応の生起が認められた。図2-4より、児童Dは、糸まきまきの歌、グーチョキパーの歌、山賊の歌で、セッション1から動作模倣反応の生起は一度も認められなかった。ひげじいさん歌では、セッション13以降から、動作模倣反応の生起が認められた。

図2-1 児童Aの動作模倣反応の生起

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図2-2 児童Bの動作模倣反応の生起

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図2-3 児童Cの動作模倣反応の生起

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図2-4 児童Dの動作模倣反応の生起

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3)物理的環境設定と指導者の教示との関連
 立ち位置マットと指導者の教示との関連について、[1]児童の開始の号令のときに自分の色マットに立つ、[2]手遊び歌の発表を聞くときに自分の色マットに立つ反応の生起結果を述べる。
[1]開始の号令のときに自分の色マットに立つ反応では、4名の児童ともほとんどのセッションで生起が認められた。指導者の教示を見ると、号令の前に「(マットの上に)並んでください」と「気を付け」の言語指示を行い、児童全員が色マットに立って号令をかけることがほとんどであった。
[2]図3は、児童AのA手遊び歌の発表を聞くときに自分の色マットに立つ反応の生起を累積グラフにまとめたものである。セッション3〜11では、指導者は、赤マットの上で号令をかける、手遊び歌を発表する児童の反応に応じて任意に言語指示や動作モデルを示す手続きであった。セッション12〜23でも、指導者用の椅子を赤マットの側に置き、定位置を設定したが、教示は特に定めていなかった。セッション24〜36では、赤マットの上で号令をかける、手遊び歌を発表する児童に対して、号令や発表をする前に「(マットの上に)並んでください」と「気を付け」の言語教示を行った。
 図3のように、色マットの配置に関わる指導者の手続きを定めていなかったセッション3〜11では、児童Aの反応は安定して生起しなかった。セッション12〜23では、指導者は赤マットの側に置いた椅子に着席したが、児童Aの反応は生起しなかった。しかし、赤マットの上で手遊び歌を発表する児童に対して、発表をする前に「並んでください」と「気を付け」の言語指示を行ったセッション24以降、児童Aの反応は安定して生起するようになった。同様の傾向は、児童CとDでも顕著に認められた。

図3 児童A 自分の立ち位置マットに立ち、他児童が選んだ手遊び歌の発表を聞く行動の生起

まとめ

 立ち位置マットの配置、テレビデオやホワイトボードの位置といった物理的環境設定は、児童の主体的な課題遂行の手がかりとなることが示唆された。授業環境における教材・教具の物理的環境設定が、指導者と児童の課題遂行に影響を及ぼし、小集団指導において児童が主体的に授業目標に即した活動を促進する上で重要な要因となると考えられる。また、立ち位置マットの物理的環境設定が課題遂行の手がかりとして機能するためには、指導者の付加的な教示が必要であることが示唆された。
 上記の物理的環境設定の整備によって、児童と指導者の動きの単純化と洗練化が実現し、児童が主体的に動けることで、当初は指導者が行っていた挨拶や準備・片付け等の活動を児童に移行し、新たな活動機会の設定と機会の増加が可能になった。また、ホワイトボードを中心に歌カードの選択やご褒美となるドラゴンボールシールの添付等の新たな選択学習や評価学習の機会を設定することが可能となった。
 音楽の授業で中心的活動となる手遊び課題でも、全ての児童で動作模倣反応の生起の促進が認められた。これらの反応の促進が可能になったのも、物理的環境設定の改善によってテレビデオや指導者、仲間となる児童の動作モデル効果が高められ、また、児童個々の課題遂行機会の明確化と課題遂行に対する適切なフィードバックや評価機会の設定によるものと考えられる。

授業改善では、まず、授業展開を明確化し、児童と指導者の動きを明確化する物理的環境設定を分析し見直すことが重要であろう。これらの改善による児童の課題遂行の変容が新たな課題遂行機会の設定や増加を導き、授業展開が可能となるという指導の順序性が示唆された。児童の主体的な課題遂行を確実なものとするためには、教材手がかりの設置が有効で、特に位置手がかりの配置がポイントであった。今後の課題は、今回の授業実践で示唆された改善手順とそれによる改善結果との関係を検討し、授業改善の手順化を進めることであろう。