上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

図画工作科・美術科を授業の中心に据えた学びの成り立ちや支援の在り方の研究

取組実績と課題

3.平成18年度共同研究授業に関する記録

共同研究授業の活動案

2006.12.12

平成18年度 造形表現カリキュラム開発特論

図画工作科活動案

学習題材名: 「トンギコトンギコ楽しい時間」
日時: 平成18年12月12日(火) 5,6限目(14:05〜15:40)
場所: 上越市立春日小学校 図工室
対象: 4年3組 (34名) (担任:野澤先生)
スタッフ  
 授業者: 柳澤雄介 (T1) 日永一徹(T2)(上越教育大学 大学院生)
 観察者: 上越教育大学・造形表現カリキュラム開発特論受講者
(佐々木・飯田・野澤・天野・岩垣・土合・四つ目)
 研究協力者: 野澤 悦子先生 (春日小学校) 
西村・高石・松尾・松本 上越教育大学教員
学習テーマ: 廃材に意味を与えることで生まれるかたちを楽しむ (造形遊び)

1 この学習の意図と可能性

 ものを目の前にしたとき、人はその「もの」が何であるかを認識して、そのものの名前を「石」「木」のようにして呼ぶ。それは「木(もの)」に対するその人の経験である「こと」が、言葉により固定された「もの」となる瞬間であると言えよう。また、反対に、「木」という固定した意味を持つものに対して、においを嗅いだり、削ったり、接合したり、水に浮かべたりなどして働きかけることによって、「もの」としての「木」は、動物、のりもの、家等、自分のかかわり合いにより生まれた「こと(経験、関係、意味、志向)」へ変わっていく。私たちは、「もの」が自分にとってどのような経験をもたらしているか、また、自分がその「もの」に対してどのような働きかけをしているかという「こと」を通して「もの」とかかわり合い、自分や自分たちにとってよりはっきりとした意味をもつ「もの」としている。複数の人が「もの」とかかわり合う場合にも、その「もの」との個々人のかかわり合いを互いにやり取りしたり、他者のかかわり方に関わり合う「こと」を相互にやりとりしながら、その「もの」の自分たちにとっての意味を、厚みのある「こと」としてつくり出し、名づけているといえる。このように、その「もの」の意味の変化には、個人の「もの」とのかかわり合いだけではなく、他者との関係やコミュニケーションも重要な役割を果たしているといえる。
 今回、子どもたちは作業現場から出される木っ端である「廃材」を前にして、自分からそれらに手を伸ばし、手を加え、切り分け、形を変え、つなぐことにより、「廃材」の意味をつくり変え、自分の働きかけ(かかわり方、表し方)のあり方をつくり変えながら、何をどのようにして作りあげていくのであろうか。仲間が作り上げているものや姿にどのように触発され、仲間の作業にどのようにかかわり合い、協力したりして、新たなる意味を生成し続けるのであろうか。
 本活動では、大人により廃材という「もの」として名づけられたさまざまな形、大きさ、材質の「木っ端」が、子どもたちの表現活動にとってもつ可能性に着目して取り上げ、子どもたちによって「もの(木っ端)」から「こと(かたち−意味)」へ変容されていくさまざまな過程が生まれてくることを期待している。また同時に、感じ方、考え方、かかわり方、表し方などの「子どもたちの活動の可能性」が、木っ端や道具、友達や教師とのかかわり合いを通して生み出されていくことを期待している。
 子どもたちは学習題材名である「トンギコトンギコ」というフレーズから一人ひとりが感じるままに、木っ端に向きあい、木っ端をつくり変え、そして木っ端にかかわる自分のかかわり方、表し方の意味をつくることになる。さまざまな、形、大きさ、材質の木っ端を手にしたり、組み合わせたとき、ひも、くぎ、針金などの他の材料を目にしたとき、きり、金づち、くぎ抜き、ドリルなどの道具と出合うこと等により、子どもたちはどのようなかかわりをつくり出して行い、表していくのか。そこに、子どもたちの造形表現の学習の過程を見ることができる。
 しかし、廃材である「木っ端」は、4年生の児童にとって抵抗感の強い材料であり、ある子どもはイメージが先立ち、造形行為が立ち行かなくなることであろう。他の子どもは、金づちやのこぎりの扱いに抵抗感を持ち、思いを造形できにくい場合もあると予想される。におい、形、大きさ、材質感等の材料との出会いや、のこぎりや金づちの使い方の指導を通して、「木っ端」という素材と出合い、かかわりや思いも相互的に作り出されていくよう支援する。
 特に、「造形遊び」という本授業の特性と、友達との関係が緊密となる4年生という児童の発達的特性より、以下の点を重視したい。

 (1) あらかじめ目的やつくり方が決まっているのではなく、材料の形、大きさ、材質感等の出会いから、自分の思いや表したいことに気づき、つくり方や表し方を工夫してつくる。
 (2) 木っ端や他の材料、道具等に対して自分が行っている、感じ方、考え方、表し方のよさに気づき味わう。
 (3) 木っ端や他の材料、道具等に対して友達が行っている、感じ方、考え方、表し方のよさに気づき味わったり、自分のかかわりに生かしたりする。

 本授業では、上記の(1)(2)(3)について、児童が本時の造形活動の場や状況に実際に参加した際に、材料、用具、道具、友達、先生とかかわり合い、どのような「かたち−意味」を、そして、どのような過程(関係)を作り出していくのであろうか。多様に生まれる場や状況を教材としてつくり、児童が、材料、用具、道具、友達、先生とかかわり合って「かたち−意味」を、そして、つくる過程(関係)を改めて捉えなおし、今後活動案の改善によるカリキュラム化と活動過程での支援の改善(指導の改善)に活かすことも目的としている。そのため、「学習指導案」ではなく「学習活動案」としている。「学習活動案」という視点においては、授業者の想定内の子どもの変容のみにより子どもを「みとる」のではなく、授業者の想定を乗り越える姿(教師がこの子だったら、このような行為や活動をするのではないか、という予想を超えた子どもの行為や活動)を子どもが見せたとき、場にいる全ての者が「指導する者・される者」という関係を超えてともに学び成長する、心の底から「楽しい(充実した深みのある)時間」が実現されることであろう。学ぶことを通して、学級の子どもたちの間には親密で緊密な社会的関係がつくられていくことであろう。そして、このような活動によって、記憶や訓練を中心とする学習活動や、学校で学ぶことが日常生活に活かされないという生活と学習との乖離を改善し、子どもたちの学びを全人的な学びとして実現することも期待される。

2 活動の内容と目標

 (1) 廃材との出会いから、手触りや質感、重さや形を自分の身体を通じて感じ、ものづくりや表現への意欲をもつ。
 (2) 材料と工具とかかわり合いつくりだす過程での偶然性や、仲間とのかかわりを通じて、発想を広げながらつくりだすよろこびを感じる。
 (3) 自分や仲間のつくりだしたものに関心をもち、それぞれのよさに気づきあじわい合う。
 (4) (3)の共有により、仲間からの思いや感想をうけて、自分の作品の新たな意味やよさを見出し、自分の感じ方、表し方のよさに気づく。

3 子どもの活動への支援

 (1) ものや工具との出会い
授業者は、材料と子どもとが素直で新鮮な出会いが生まれるようにするため、授業者の側から進んで材料を価値づけたり、技術指導を優先させたりしないようにする。
 (2) 個々の子どもへの働きかけ
授業者は基本的に子どもの活動に対して、自分から積極的には働きかけない。危険な行為に対しての指導や監督を除き、見守る態度をとる。あくまでも子どもの自発性の発露を待つ。工具についても、必要とする子どもに対して提供する。
 (3) かかわり合いの促進
材料や道具が置いてある場には子どもが集まる。集まる場には、お互いのかかわり合いを通じたコミュニケーションが生じる。その意味で、材料や工具の配置に配慮を行う。

4 評価

 「2 活動の内容と目標」がどのように達成されたか、あるいは目標以上の活動を見出すか、以下の点を中心に評価を行う。ただしこれらの項目は、個々の子どもの活動の中に統合的にわきおこるものである。したがって評価者も、観察や記録を多角的に用いて総合的な観点から目標に迫れたかを判断する。観察は直接法とビデオ、記録は活動シート(観察者)とワークシート(子ども)による。
 さらに日常の様子との違いにより、個々の場面での活動の裏づけや解釈を得るために学級担任の意見を得て、協働で妥当性を高める話し合いの場を設定する。

 (1) 表情や表現する行為の様子
  材料との出会いの場面
  一人でつくる場面
  かかわり合ったり協力したりする場面
  完成した場面
  自他のつくったものを味わう場面
 (2) 発言
  独り言
  仲間との会話
  授業者へのは働きかけや質問
 (3) かかわり合い
  材料、道具とのかかわり合いにより発想がふくらんでいるか。
  材料や道具にかかわる造形行為に変化が起き続けるか、または継続するか。
  自分や仲間の作品のよさや可能性を感じたり、考えたり、あじわったり、取り入れたりしているか。
  自分が使用したものの片付けをしたり、友達と協力して片付けを行っているか。

5 片付け

 重要な造形遊びの活動の一部という位置づけである。活動終了後に活動全体を振り返り、本時の活動がその子どもにとってどのような時間であったと子どもが感じ取っているのかが現れている時間と位置づけている。

  • のこくずや木っ端など、学級全体と授業者たちで協力して最後まで行う。
  • 使った道具を元の場所に片付ける。
  • つくったもの以外の散らかった廃材をもとの場所に片付ける。
  • 子どもがつくったものを「持って帰りたい」という場合は持って帰ってもらう。ただし、大きなものをつくった場合、一人で持って帰ることができない場合は、子どもと相談して決める。
  • 子どもたちがつくったもので、図工室に置いていったものは大学に持ち帰り、一時保管する。

7 準備

(1)大学側

  • 廃材(木っ端)、金づち、のこぎり、きり、くぎ、くぎ抜き、ひも、ドリル(電動・ドリル刃)、針金、はさみ、ドラムコード、ペンチ、木工やすり、サンドペーパー、ブルーシート・コンパネ
  • 授業者は、名札をつける。

(2)春日小学校側

  • 子ども 体操服
    注)準備は当日の授業前に行う。
  • 廃材と道具を全て図工室に運ぶ。
  • 図工室の中にある机・いす・教卓を全て教室の外に出す。
  • 机1、いす12を黒板の反対側に置く。机の上には、金づち・くぎ・ひもを置き、いすの周りにはのこぎりを置く。その他の道具は、後ろのほうに固めて置き、ブルーシートをかけておく。
  • 廃材は黒板の前に置き、ブルーシートをかけて隠す。

8 係分担

 準備や片付けも造形遊びの活動の大切な一部です。係といってもあくまでも中心になって動く人であり、参加者全員による積極的な協働が不可欠です。

(1)当日まで

  • 活動シート作成係:天野
  • ワークシート作成係:天野
  • 廃材調達係:高石・飯田・岩垣
  • 工具類調達係:西村・松尾
  • 活動案確定版作成係:柳澤・日永・野澤
  • 春日小学校への説明係:高石・天野・野澤
  • 協議会計画・依頼係:飯田

(2)当日授業まで

  • 搬入係:飯田・岩垣
    (使用自動車台数、分乗案)
  • 図工室の設定係:柳澤

(3)記録

  • 活動シート記入班:観察者を2人チーム3班に分ける。学級担任から聞いた子どもの様子をもとに子どもを1人選び、その子を中心とした活動の様子(友達との関係や道具・素材との関係など)を記録に残す。活動シート・デジタルカメラ・ビデオカメラを用いて記録する。ビデオカメラは、選んだ子どもを中心とした活動や発話、視線、素材、友達との関わりを記録する。デジタルカメラは、活動シートと関連させながらその都度変化する特徴的な場面を撮影し記録する。

9 活動の展開

時間 子どもの活動 支援 備考
14:05〜14:15(10分) 1説明を聞く
・これからすること
・ルールやきまり
・場や雰囲気を大切にして話す。
・危険な行為が何であるか具体的に説明する。けがをしたときの対応にもふれる。
・休憩、トイレについても伝える。
・最小限に質問も受ける。
・授業者は発話の計画を練っておく。
・授業者は学校のトイレと保健室の位置を事前に確認しておく。
・4年生に合うようにゆっくり、落ち着いて話す。
14:15〜15:15(60分) 2活動を開始する
・材料に触れる
・工具に触れる
・仲間とかかわり合う
・材料の変化と向き合う
・できあがったものを見せあう
・子どもからの質問には答える。
・危険行為はその都度注意をする。
・活動の終了の間を見計らう(担任、教員と相談)。
・記録の中心部分
15:15〜15:30(15分) 3片付けをする
・分担する
・協力する
・活動を止めさせ、片付けの具体的な方法を説明する。
・時間を確認し、終了後の指示も与える。
・一緒に行う。
・必要に応じて掃除道具
15:30〜15:40(10分) 4ワークシートの記入を行う ・掃除のできばえを見てほめる。
・先にあいさつをして記入させる。
・ワークシート配布