2.実習を支える授業基礎研究「教育実地研究」

視聴覚教材「授業を創る−授業技術編」の活用

1 趣旨

 本学特色GP事業の一環として,学生が授業技術を学習できる視聴覚教材を製作しました。この視聴覚教材は,主に本学教育実習の事前指導における教材として学生や教員が活用し,また本学の広報活動の一つとしてホームページに掲載するなど,今後の本学の教育,広報活動に役立てます。

2 タイトル

 上越教育大学 平成19年 特色GP 「授業を創る−授業技術編−」

3 内容構成

1 トップページ(目次)
2 「特別支援教育」の基礎基本
3 「国語」音読・朗読で楽しく
4 「算数」教具・教材を活用する
5 「音楽」楽しい発声練習とリズム遊び
6 「体育」運動量を確保する
7 「学級活動」男女仲良く百人一首
8 「英語活動」What color is it ?
9 授業で学級をつくる
10 高学年「国語」詩で想像を広げる
11 中学年「算数」“0”のかけ算
12 「いじめ」問題への対応
13 解説

(1) 各映像は10分程度で,内容は模擬授業や講話です。各内容の最後はトップページ(目次)に戻り,活用しやすくなっています。全体で100分程度です。
(2) 平成19年4月に本学学校教育総合研究センターで行われたセミナーの様子を録画,編集しました。登壇者は,本学教員,元本学附属小学校教員,本学大学院生(現職教員)等で,児童役はセミナー参加者です。
(3) 教科,領域,そして対象学年を多様に設定しました。学生が教育実習で担当する内容が多岐にわたるため,それらに対応できるようにしました。
(4) 「子どもの方を見る」「フラッシュカードはリズムよくめくる」など授業技術を字幕で示した映像と,字幕のない映像とで構成しました。学生が字幕の授業技術を参照しつつ学習したり,また映像から授業技術を発見したりすることができるように配慮しました。
(5) DVDを10本,VHSを1本,制作しました。
(6) 本教材の制作,活用に当たり,肖像権等の個人情報の提供について,各位より承諾書をご提出いただきました。記して感謝申し上げます。

4 活用方法

(1) カリキュラム上の位置付け
 初等教育実習を支える授業基礎研究の場であり,実習の事前指導ともいえる2・3年次必修科目「教育実地研究U」で,各内容を抽出して学生に視聴させます。特に事前指導が行き届きにくい「音楽」「体育」「英語活動」などを有効に活用します。時間が掛かり,多岐にわたるため,全体を通して視聴させる活動は,想定していません。
(2) 学生主体の授業づくりへ
 「教育実地研究U」では,「子どもの方を見る」など字幕で授業技術を示した映像と,字幕のない映像とを組み合わせて視聴させ,学生に教えて考えさせる授業を仕組みます。
(3) データベースとして
 希望する学生には,本教材を貸し出して視聴させます。本学学校教育総合研究センターには,各社の教科書,教師用指導書,さらには過去の教育実習における研究授業の学習指導案やビデオテープなどを保管しています。希望すれば,学生はそれらを借りることができるようになっています。
(4) その他
 1年次選択必修科目「臨床教育課程論」など,本学教員と実務家特任教員とによる「ジョイント授業」でも活用できないか検討します。

視聴覚教材「授業を創る−授業技術編」の評価(1)

1 活用した科目

 初等教育実習の事前指導ともいえる2年次「教育実地研究U(授業基礎研究T)」において,活用しました。この科目は,学生を15人程度の少人数に分けて,ローテーション方式で運営しています。
 平成19年度,視聴したのは,次の4本です。いずれも,ほかの授業科目では指導が行き届きにくい内容です。

1 「特別支援教育」の基礎基本・・・
 10分程度の講話です。教室に6%は在籍すると言われる発達障害児(ADHD,LDやアスペルガー症候群)への対応の仕方を解説しています。
2 授業で学級をつくる・・・
 10分程度の模擬授業と講話です。国語科授業の導入場面で2本の授業例を示し,どちらがよいか問い掛けています。
3 「音楽」楽しい発声練習とリズム遊び・・・
 10分程度の模擬授業です。「テンションを高く」「子どもを明るく褒める」などの字幕が付いています。
4 「英語活動」What color is it ?・・・
 10分程度の模擬授業です。「ゲームを通して発話させる」「フラッシュカードはリズムよくめくる」などの字幕が付いています。

2 学生の声

 視聴覚教材は,学生にとって3点の意義があったようです。

    (1) 知識,技能の伝達が効果的に
  • ビデオの中で行われていた授業は,どれも教師が一方的に教えるという感じではなく,児童生徒も発言したり,活動したりして,双方向的で,とてもよいと思った。児童生徒は,やはりただ座って話を聞いているだけではつまらないし,楽しめる方が勉強する気になると思う。また,授業を進めるテンポというのは,とても重要だと感じた。テンポが悪いと,授業全体がしまりのない感じになるので,そういうところもちゃんと考えないといけないと思った。(A子)
  • 授業はただ教えるもの。と,そう考えていた私であったが,今日のVTRを見せてもらって,特に英語や音楽の授業に魅力を感じた。あのテンポの良さ,子どもを引き付けるような分かりやすい進め方など,いつの間にか身についている,という状況になると感じた。さらに「模擬授業」というものにも興味を持った。あの少ない時間の中でも,どの授業を受けたくなるのかがはっきりしてしまう。様々な授業形態を学びたいと思った。(B子)
  • 学年やクラス,様々な環境に合わせて授業をしなければいけないということがよく分かった。自分のイメージとして,授業は説明が第一だと考えていたが,必ずしもそうでないことも,よく分かった。児童生徒をあきさせない,引き付ける授業が大事である。(C男)
  • 授業は学校生活の大部分を占める時間。そこで,できる子,できない子の差を出さないようにすべき,ということを聞いて納得した。国語の授業案を比べた時,情報が入っていて順序だてて作られている授業Aがよいと思ったが,それは大学生の視点だと分かった。いろいろな児童生徒がいるクラスでは,授業Bの方が誰でも参加できると思った。(D男)
    (2) 学びをつなぐことができる
  • 幼稚園実習のときの担当の先生を思い出しても,「許せない行動→止める」,「減らしたい行動→無視」だったと思います。実習のときは自分の中で違いを言葉にすることができず,もやもやしていましたが,すっきりしました。実習中は私が減らしたい行動の方に手をかけてしまっていたので,全体に迷惑だったかなと思います。(E子)
  • 特別支援の基本の話を聞けてよかったです。9月に教育実習で幼稚園に行ったときに発達障害の子がいて,いろいろとかかわろうとしたのですが,あまり良い接し方ができませんでした。そのため,今回学んだ「叱らずに」「具体的に」などの支援の仕方を頭に入れて,子どもと接することができるようにしたいです。(F子)
    (3) 自分を見詰め直す
  • やはり自分が実際に授業を行うという意識があると,こういった授業の吸収も違う。テンションを上げて授業を行うというのは,ある意味基本であって,でも自分に合った上げ方をしなければ逆効果になってしまうのではないかと思う。そういう意味で,自分を知らなければいけないと思った。(G男)
  • やはり実際の授業(形式)を見るのは,とても勉強になると思いました。ただ授業の指導案を書きなさいと言われても,どのようにしたらよいか分からないけれど,このように授業を見ることで,自分が授業を作るとき,とても参考になると思います。しかし,それと同時に,今の自分にはとてもビデオのような授業はできない,自分なんかが授業しても大丈夫なのか,どうしたらあのような授業ができるのか……など,とても不安になりました。(H子)
  • 非常に興味深い授業だった。しかし,こんなふうに2年後,あるいは実習の時にできるようになるのかという不安も生まれた。実際の教育現場では,このようなことを考えることができるのか。やはり経験が大切なのであろう。(I子)
  • 上手に授業をするということは,本当に難しいことであると思った。教える内容や技術のことで精一杯であるのに,授業によってクラスを作っていけ,などと求められると,もうわけが分からなくなってしまうと思った。教えるということに対して,不安がいっぱいである。(J男)

3 評価

(1) 学生の気付きから
 2年次学生は,翌年度に「初等教育実習」を控えているため,切実感を持って視聴したようです。これまでの現場経験は期間の短い「観察・参加」であったためか,授業は大学のように教師の説明が中心になると思っていたり,演技めいたパフォーマンスをするなどとは思ってもいなかったりしたようです。
 そうした学生にとっては,教室場面を模した設定の映像は,教師としての知識や技能を伝えるのに効果的でした。教師の醸し出す明るい雰囲気,子どもに活動や作業を促す働き掛けなどに,学生は気が付きました。
 ただし,視聴覚教材に出演する授業者は,現職教員です。授業が巧みです。そのため,中には自分はあのようにできるのかという不安な気持ちを持つ学生もいました。幸い「教育実地研究U(授業基礎研究T)」では,教師としての話し方や物語教材の朗読などの学習活動も仕組んでいます。こうした演習を通して,学生の不安を自信に変えたいものです。

    (2) 映像の限界を補って
     次のような意見もいくつかありました。
  • 実際の授業の感じの中で,今日は得ることが多かった。でも,対象が大人だったので,実際,子どもと対面するのではどうなるかを見たかった。特に国語の授業A案,B案の違いがなんとなく見えにくかったように思えたので,子どもの反応を基に比べてみたら分かりやすそうだった。(K男)
  • 映像を見て,テンションに圧倒された。正直,毎回あのテンションでは,子どもが疲れるんじゃないかと思った。また,今回のは中学年用であったが,高学年ではどういった授業を展開していくのか,気になった。小学生で,教科に対する意識(好き,嫌い)がほぼ決まってしまうと思うので,子どもに苦手でできないし,みんなよりヘタだと思ってしまわないような授業が大事だと思う。(K子)
  • 今日の英語の授業は,ちょっと難しいのではないかと思う。やはり,急にあれだけの英語を使われても,何が何だか分からないと思う。だから,もっと基礎を取り入れ,日本語も使っていってもよいのではないかと思った。(L男)

 視聴覚教材の場面が模擬授業であって実際に子どもが登場するわけでないこと,限られた時間の中で教科や領域,対象を絞って行っていることなどにより,すべての学生の要望に映像だけで応えるのは難しいことです。模擬授業に対応した学習指導案を配布したり,口頭の説明で補ったりしましたが,十分に伝え切れたとは言えません。視聴覚教材を活用するとはいえ,映像に頼り過ぎることがないよう,授業の持ち方を見直していきます。