上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

子どもの学びの深化を促すカリキュラム構成と支援のあり方−河川をテーマとした総合的学習のアクションリサーチを通して−

取組実績と課題

4.アクションリサーチから見えてきたこと−学びとは−

 授業とかかわり、児童の発話や行為を観察したり、振り返りシートを分析したりする中で、総合的な学習の時間で使用される「学び」という言葉の抽象性が問題となった。単に「カニがいた」というような事象のとらえも、帰校後図鑑を調べて「クロベンケイガニといって、河口付近に生活するカニである」との表記もすべて「学び」という言葉で包括されていることに疑問をもった。それは振り返りシートや作文を分析するには、「学び」とは何かを定義し、その「学び」にもグレードがあり、一定のカテゴリーをもって分析していかなければ「学び」の深化が捉えられないという壁にぶちあたった。当然、それは担任自身が、児童において学びが果たして成立しているのか、また、学びはどう深化していっているのかをみとる上での物差しでもあろう。そこで、児童の振り返りシートや作文から、筆者等は総合的学習における「学び」を定義し、それに基づき「学び」をいくつかのカテゴリーに分類した。そのカテゴリーに基づいて、児童の学習記録を色マーカ−で区分していくことで、学習の進展に伴って「学び」のカテゴリーも多様化し、よりグレードの高いものへと深化していくことを明らかにすることができた。しかし、これらは河川をテーマとした総合的学習から導きだされたもので、テーマが違っても包括できるものかは現時点では明らかでない。

「学びとは、学習者自身が体験活動や調べ活動を通して、事象に対して能動的な意味づけや、関係づけなどを行う意志活動である。」

そして、その「学び」は、次のようなカテゴリーに分けられ、学習の進展に伴ってより段階的にグレードが高まり、深化していくとまとめることができた。

児童に生起する学びのカテゴリーとそのグレード

  1. 事象のかかわりを通して、既有経験をこえる新たな事実を発見したり、再認識したりすること。
    例:
    • ドジョウって、口の周りに10本のヒゲもあるんだ。ひれも魚と同じにみんなあるんだ。そうだよね。魚だもんね。
    • ばかでかいあのオタマジャクシは、ウシガエルのオタマジャクシだったんだ。
  2. 調べ活動を通して、事象に意味づけをすること。
    例:
    • ヨシノボリって、吸盤で滝も上るからヨシノボリの名が付けられたんだって。
    • このカニはアカテガニで河口付近に生活するカニだって。
  3. 事象と事象の関係性を見いだす学び。
    例:
    • 下流は臭くて濁って生温かい水なのに、上流はすごいよね。澄んでいて夏でも冷たくて2分も入っていられない。
    • 下流ではフナやドジョウなど様々な魚がいたのに、上流にはカジカやヨシノボリなどの魚しかいないよ。
  4. 事象とのかかわりを通して、自分なりに概念化していくこと。
    例:
    • 戸野目川で海の魚と川の魚のどっちも釣れるのは、きっと海水が入ってきているからだと思うよ。
    • 魚は深みや隠れる水草がないと生活できないんだ。
    • 水生昆虫が石の裏に貼り付いて生活してるのは、流されないことと食べられないように身を守るためだと思うよ。
  5. 体験したこと、聞いたこと、調べたことを統合して、自分の考えとして再構成すること。
    例:
    • 海水は川の水より重いんだ。だから戸野目川の底に入っていて、クロダイやハゼが釣れたんだ。
    • 青田川を魚いっぱいにするには、大瀬川や正善寺川のように魚が隠れる深みや水草が必要なんだと思う。
  6. 繰り返し事象とかかわることで、自分事として事実を再構成すること。
    例:
    • 護岸はベンチや桜があって美しいが、いつでも魚の姿が見れる川になってほしいと思います。それが自然に優しい川だと思います。
    • サケが命をかけて産卵に上ってきているのに、堰があって遡上できないなんてほんとうにかわいそう。
  7. 学習活動を通して、自らの思いや願いを具現化していこうとすること
    例:
    • やっとサケが関川に戻ってきました。少しずつですが、川がきれいになってきたからです。もっと川の生き物がいっぱいになるために、ぼくたちも川を汚さないと宣言しましょう。
    • 青田川、未来プランをつくって、「青田川を守る会」や「国土交通省」の人たちにお願いしたらいいと思います。