上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

子どもの学びの深化を促すカリキュラム構成と支援のあり方−河川をテーマとした総合的学習のアクションリサーチを通して−

取組実績と課題

5.学びを深化させる支援とは

 アクションリサーチを通して、筆者等は体験活動場面における教師の支援の重要性を再認識するに至った。それは、例えばサケの死骸の腹を裂いて産卵できなかった卵を見せた時、児童は「4年間かかって大きくなって上ってきたのに、産卵できなくてかわいそう。」と誰もがつぶやいた。あの場面で、なぜ、卵の数を協力して調べさせ、成魚となってもどってくる回帰率を話し、もっと、死んでいったサケの哀れさに心を寄せなかったのかという後悔が筆者等には強く残っている。また、川の土手でクロベンケイガニを捕獲した児童に、「これはすごい、このカニは河口の近くにしか住まない貴重なカニなんだよ。」との一言が、帰校後、図鑑を調べ、水槽に説明を貼り付けて飼育し続ける意欲に繋がった事例、室内でのまとめ学習の場において、「海の水は人も浮きやすいから、真水より軽いんだ。」、「違うよ。海水は重いんじゃない。」との児童の議論を検証させずにやりすごしてしまった事例、青田川探険では3か所で農業用水を引き込む水門を発見し、児童はハンドルを回し開閉を確かめもした。しかし、担任は「この水門は何のためにあるの?」、「どうやって水を引き込むの?」と支援していれば、利水へと関心が向けられたものと反省させられる。
 かつて、筆者のゼミ生であった山川(2001)は、ブナ林で児童と落ち葉すべりを十分楽しみ、その後に「森の不思議を発見しよう」を課題に活動させ、児童相互の会話や発話を手分けして集録した。そこでは「ブナ林のふわふわ絨毯のような土」や「細く枯れそうな幼木の姿」、「ブナの幹の斑模様(地衣類)」等々の26個の気付きが集録できた。しかし、帰校後に気づいたブナ林の不思議を書かせたら9項目しかなく、多くが児童の脳裏からは消え去っていた。児童は観察を通して事象から様々な気付きをもつが、それがどのような意味をもつのかが分からないため、やがては脳裏で捨象されていく。児童の気付きや疑問、こだわりをみとり、そこに共感や意味づけ、価値づける教師の一言があるだけで、児童は更なる観察へと意欲を高めていく。その意味で総合的な学習では、教師の支援は大きな意味をもっている。支援と言う言葉も一人歩きをしている感があるが、この河川学習からは次のようなカテゴリーに分類することができた。しかし、何を支援するかは、テーマのねらいと展開構想に極めて左右され、その思惑がなければ支援は支援として機能しない。

学びの深化を支える教師の支援

  1. かかわる事象や事象とのかかわらせ方という支援
    例:
    • 上流の清流でたっぷりと水遊びさせ、その後に下流の臭い流れに出会わせ、問題意識を醸成したい。
    • 児童は直接河川と触れ合った経験を有さない。川に入っての雑魚捕りを体験させ、感動を味あわせたい。
  2. 共感的な支援
    例:
    • 「すごい!ほらみんな来てみて!Aさんがこんな発見をしたよ」
    • 「すごいこのカニ、先生もはじめて見るよ!持ち帰って絶対に調べようね。」
  3. 再観察や追究を促す切り返しの支援
    例:
    • 「水門があった。」の児童の反応に対して、「取入れ口が水より上にあるよ。これどうやって水を取り入れるの?」
    • 「先生、ほら鳥がいるよ」という反応に対して、「特徴をよく観察してメモして!何鳥か図鑑で調べるんだよ!」
  4. 方法的な思考を促す支援
    例:
    • 「みんなは上流と下流の水は違うと言ったけれど、どんなことを調べて比べたらよいかな?」
    • 「サケの受精卵をもらってきたけど、飼育の仕方をどうやって調べたらよいかなあ?」
  5. 課題を意識させる支援
    例:
    • 「水生昆虫ってどうして石の裏側に生活しているのかねえ?」
    • 「青田川の護岸って、おおよそ何種類くらいに分けられた?」
  6. 思考や判断を促す支援
    例:
    • 「サケの稚魚が成長したけど、さて、どこの川に放流するの?」
    • 「昔は川が人々の生活と深く関係してたんだねえ。でも、今はどうして川は遠くなってしまったんだろうかねえ?」