上越教育大学 教員養成GPプロジェクト

確率概念の活動的・体験的理解を図る教授単元の臨床的開発研究

取組実績と課題

6.確率指導略案(アイディア)

題材

赤青カードの問題:親と子を決めて、2人1組でカードの色当てゲームを行う。封筒の中に3枚のカードが入っている。これら3枚のカードの表と裏の色はそれぞれ赤-赤、青-青、赤-青である。親はこの封筒から中を見ずに1枚を抜き取り、このカードの裏の色が見えないようにしてテーブルの上に置く。子はこのカードの裏の色を当てなければならない。(表のカードの色は見えている)

この題材の面白さ

カードの色の対称性から一見すると裏のカードの色が赤であるか青であるかの確率は同じであるように思われる。ところが表のカードの色が何色であるかという情報に目をむけると、子は有利にゲームを進めることができる。つまり、表の色という情報が加わることで確率が変化する。ここにこの題材の面白さがある。
  しばらくこのゲームを続けてみると、ある規則性に気づく。それは、表が青の場合は青色、表が赤の場合は赤色の方が出やすいということである。この規則性を確率のアイディアによって論理的・分析的に解明していくことがこの実践授業における活動の目標を形成することとなる。

この授業の教育(達成)目標

(1)この題材が有している「情報が加わることで確率が変化すること」の不思議さを実験を通して体験することを通して確率的現象それ自体への興味・関心を覚醒させること。
(2)この確率的現象の不思議さを論理的・分析的に探究することを通して、確率という数学的アイディアの必要性とその「よさ」を実感として理解させること。
(3)その際、生徒たちの数学的確率のアイディアを確率的現象を論理的に分析する生徒たちの表現方法とともに発展させること。
(4)特に、生徒たちの表現方法である樹形図に順序対(を要素とする集合)による表現方法を加えて、起こりうる全ての場合を記述する[標本空間のアイディア]。これらのどれが起こることも同じ程度に期待できる場合(同様に確からしい場合)、起こりうる全ての場合の数に対する(その中で)ある事柄の起こる場合の数との割合によって、ある事柄の起こる確率が定義されることを理解させること。(この部分は事前調査において多くの生徒たちが躓いている部分である。中学校数学における確率の考え方のまさに根幹部分である。この考え方の確実な理解を図ることは本実践授業の最も重要な目標の1つである。)

指導上の留意点

生徒たちの最初の確率のアイディアは、実験結果と整合しないというだけでは修正されない。標本空間に基づく考え方が理解できたところで、今一度生徒たちの最初の確率のアイディアがどのような考えであったかを標本空間の考え方に基づいて考えさせる機会を提供する。
確率のアイディアを標本空間のアイディアから明確にする。特に、全ての場合を尽くすという考え方とそれらの場合が「同様に確からしいかどうか」に目を向けさせる機会を提供する。
授業の展開:

●ゲームの説明

●子が勝つ確率を予想する。
(ここでは、生徒たちの最初の確率のアイディア:「表が何であろうと裏の出る場合は6通りあって、そのうちの半分は赤半分は青だからその確率は1/3である」を引き出しておく。)
・ここで、「確率って何?」と問い、確率の定義を引き出し、数学的確率の定義が次のようであったことを確認する。(共有の合意事項としておく。)

・「起こりうる全ての場合」って一体なんだ?と問いながら、生徒たちから提出された予想をこの観点で見直してみる。そして、起こりうる全ての場合を特定していくことが問題を論理的に分析する(数学的に解く)鍵であることを生徒たちに意識させる。
・もしも仮に、この時点で、(おそらくは、授業の終わりの方になると予想される)色が同じカードが2枚、色の異なるカードが1枚だから、同色にかける方が有利であるというアイディアが提出された場合、確かに説得力はあるが、なぜ最初の確率のアイディアのどこがおかしいのかの説明にはならないであろう。

●次に、3人1組(親、子、審判[記録係])になって、このゲームを10回行い、表に結果を記録する。状況が再現できるように記録するように注意を促す。記録の仕方は生徒たちに工夫させる。[何回目か、表の色、子が言った色、裏の色、勝敗○×が含まれていることが望ましい。]表の混沌とした中から規則性を見いだす活動も重要な数学的活動である。
  *この時の生徒たちへの具体的な支援をどうするか?どのような用紙を準備するか?

●結果をまとめると同時に何か気が付いたことはないか問いかける。
  *この時、具体的にどのように板書していくか?
・表が青の時は裏が青の場合が多い。
・表が赤の時は裏が赤の場合が多い。
帰納的活動:暗示的接触
・いくつかのデータを取り出して検証してみる。=>なるほど!確かにそうなっている!

・実際にやって確かめてみよう。(帰納的活動:支持的接触
=>本当だ!!確かにそういえそうだ。なぜだ?

●起こりうる全ての場合を記述して調べてみよう。(演繹的活動:論理的分析
・どうすればいい?
・例えば、表が青の時は裏が青の場合が多いというのはどうしてか考えてみよう。
・表が青の時、裏が青の確率と裏が赤の確率を求めればいい。

[樹形図による探究]
   

●全ての場合を尽くすという考えを導入し、全員で確かめを行う(相互作用的に)

[標本空間のアイディアとその表現方法(順序対)の導入]

・樹形図を作成する要領で左側の図を生徒たちの声と同時に描いていく。
・次に、それぞれの場合を確認しながら、それぞれに対応する順序対書かれた長方形の画用紙を貼っていく。(下図参照)

●これまでの考え方についてもう一度考えてみよう。

・この中で表が青色の場合ってどれだ?表が青色の順序対を取り出しながら、3つの要素からなる部分集合を起こりうる全ての場合の集合(標本空間)の中に作り、ベン図として表現する。

・表の色が青の場合は全部で3通りでそのうち裏が赤となる場合が1通り、青となる場合が2通りだ。確かにこれであっている。表に青が出ている場合、裏が青の確率は2/3だ。
・裏が赤の確率は1/3だ。
・最初に考えた確率は、裏の色だけを考えていたんだね。
(順序対を要素とした集合をベン図に表現したものを補う)

練習問題

(1)表が赤の場合、その裏が赤である確率を求めなさい。
(2)裏が赤である確率を求めなさい。
(3)表が赤でかつその裏が赤である確率を求めなさい。[(1)との違いを議論する]

起こりうる全ての場合の集合が問題(考える対象)によって異なることに気づかせる。

●発展:赤-青のカードを1枚増やして、4枚のカードにすると、上での問題はどうなるか?