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上越教育大学大学院学位記授与式 学長告辞(大学院) (令和7年3月)

 寒さ厳しき冬の季節も過ぎゆき、キャンパスの木々も芽吹き始め、高田公園の桜のつぼみも膨らみ始めた今日この良き日に、学位記を授与される208名(専門職学位課程194名、修士課程14名)の皆様、ご修了まことにおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

 また、本日、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様、ご出席いただき、ありがとうございます。そして保護者の皆様、ご子息ご息女の修了まことにおめでとうございます。

 先月、ある出版社の企画で、教員就職に関するシンポジウムが東京で開催されました。私もシンポジストのひとりとして参加しました。文部科学省の教育人材政策課長の立場にある方が、国の基本政策などお話をされました。もちろん、話題になったのは、教員希望者が少なくなっており、教員の必要数を確保できていないということや、教員採用試験をいつ行うかというようなことです。

 そのやり取りの中で、課長は、国立の教育大学の中にも、学部の卒業生の教員就職率が60%台のところがあるということに批判的に言及されました。そのとき隣に私が座っていたせいか、「上越はそんなことはないが」と付け加えておられました。皆さんもよくご存じのように、本学の学部の教員就職率は、大学院への進学者や保育士への就職者を除いた数値が常に80%を超え、非常に高いものになっています。

 しかし、教育人材政策課長の指摘は難しい問題だと思います。18歳で教師になろうと決心し、教育大学に進学したとして、途中で進路を変えることがあっても、やむを得ないのではないかと思うからです。教育大学は、そうした学生に対しても十分な支援ができるということが大切だと思うのです。とはいっても、教員養成という目的を担わされた教育大学を卒業あるいは修了した人々が、教職に就かないというのでは、組織として目的を達成していないと批判されても仕方ありません。

 ここにいる皆さんは、大学院の修了生ですから、学部とはまた少し事情が違っているように思います。教育学部以外の学部を卒業したけれども、教師という職業もいいなと思って入学された方々も大勢いらっしゃいますし、また、別な職に就いて社会人となったけれども、やはり教師になりたいと考え直して、入学した方もいらっしゃいます。他にもストレートマスターと言われている学部から進学した方々、現職教員の身分のままで研修を受ける形で入学された方もいらっしゃいます。本学の教職大学院の教員就職率も、現職派遣教員を除いて、80%から90%台で推移していますが、しかし、教職大学院の就職率は100%を達成している大学も複数あるので、トップレベルとは言いにくい状態にあります。これは、本学の教職大学院の定員が190名という日本で2番目に大きな教職大学院であるということにも影響されていると言えるように思います。

 さて、教員養成は、現在では、大学で行われています。教育学部以外の学部であっても、教職課程が設置されている大学では教員免許状を取得できます。私も、大学生のときに、文学部の哲学・倫理学専攻の学生でありながら、中高の社会科の免許をとりました。当時はまだ、高校の免許状も社会科の免許状でした。

 こうした教職課程は、国による課程認定というものを受けなければならないことになっていて、どこの大学でも一定の質が担保されるようになっています。しかし、私は、同じ免許状を持っていても、その中身は相当異なるのではないかと思っています。

 私は大学院生のときから、私立高校で社会科の非常勤講師を11年間務めました。大規模な高校でしたので、社会科の非常勤講師室には大勢の教員がいましたが、それぞれの教員が得意な分野を持っていて、私には、社会科の免許は持っていても、地理や歴史を教えることはとても無理だなと強く感じました。そうしたこともあって、高校社会科は、現在のように、地歴科と公民科に分けられたのだと思いますが、たとえば、「倫理」という一つの科目を教えるにも、担当教師によって教え方や内容も変化を被るのではないかと思っています。私は、大学・大学院で、英語圏の哲学を学びましたが、日本では、ヨーロッパの哲学を専門にしている研究者の方が多いように思います。たとえば、分析哲学と呼ばれるものを中心に学んだ私が教えるのと、現象学のような大陸系の哲学を学んだ人が教えるのとでは、同じ教科書を使って授業を行っても、その内容は違って理解される可能性があると思います。

 私は、だからだめだと言いたいわけではありません。むしろ、教師になるためのトレーニングは、教職課程だけでは成立しないと言いたいのです。皆さんは、教育学部以外の学部で専門を学び、そして、本学でも特定領域の専門を深く学び続けながら、授業実践や教職専門にかかわる内容も学びました。そこにさらに日常生活の中でのさまざまな体験が加わって、そうした学びをよりいっそう深いものとしているのではないかと思います。今ではきっと、それぞれの人が、得意とする専門分野を持ち、いくつかの授業方法を身に付けて、独自のやり方で子どもたちの指導ができるようになっているものと思います。もちろん、教育学部以外とは言いましたが、教育学部から大学院に進学された方にも同様のことが当てはまると思っています。

 現在、本学では、教員養成学の再構築ということに取り組んでいます。その成果の第一弾がこの3月中に、『教員養成学を考える』というタイトルで風間書房から出版されます。本屋さんに立ち寄られることがあれば、手に取って中身をご覧ください。

 教員養成にかかわることを述べてきましたが、本学には修士課程もございます。心理臨床研究コースのみの課程になります。臨床心理士や公認心理師の資格を取得してご活躍いただきたいと思いますが、本学に設置されている点で、教育にも詳しい心理士としてご活躍いただければありがたいと思っています。

 さて、結びになります。大学院に派遣された教員など一部の方を除いて、多くの修了生は、4月から、社会人としてのスタート地点に立ちます。これからは、今まで以上に、自分の頭で考え、判断し、行動しなければならないことが増えていきます。どうか、ときには相手の立場に立って耳を傾け、相手から学ぶという謙虚な姿勢も忘れずに、しかし、しっかりと自分の考えをもって、それぞれの場で職務に励んでください。

 教職関係に就かない方々も、本学での教育に関係する学びは、役立つものと思います。教育に関する学びには、人間関係に関わるものも含まれているからです。

 修了生の皆様のご健勝とご活躍を祈念し、告辞といたします。

 

令和7年3月19日
国立大学法人 上越教育大学長
林 泰成


このページは上越教育大学/総務課が管理しています。(最終更新:2025年04月28日)

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