冬の寒さも和らぎ、キャンパスの桜も咲き誇るこの春爛漫の佳き日に、172 名の新入生の皆さん を本学にお迎えし、ご来賓の皆様のご臨席を賜り、入学式を挙行できますこと、感謝に堪えません。
新入生の皆さん、本日は、ご入学おめでとうございます。上越教育大学の教職員を代表いたしま して、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。
昨年度中に行われた学部の入学試験では、一般選抜が 9.0 倍というきわめて高い数値となりまし た。その倍率をくぐりぬけてきた皆さんは、すでに、高い学力を有しているものと思います。その 力を基盤として、本学での 4 年間の学びを通して、子どもの発達や授業方法などに関する知識や技 能を身に付け、教職に就くという目標を達成していただきたいと願っています。
本学は、国立の教育大学や教育学部の中でも高い教員就職率を誇っていますので、皆さんの夢は かならずや実現するものと信じています。
ところで、皆さんがなりたいと思う理想の教師像はどのようなものでしょうか。そう問いかけれ ば、子どもたち一人一人の個性を伸ばす教師とか、集団づくりに長けた教師や子どもたちといっし ょにグラウンドに出て遊ぶことのできる教師とか、あるいは、特定の教科の楽しさを伝える教師な ど、いろいろな教師像が出てくることでしょう。いずれか一つが正しい教師像だということではあ りません。皆さん一人一人の性格が違っているのと同じように、子どもたちも一人一人が違ってい ます。同じタイプの教師ばかりでは、そうした教師と性格の合わない子どもは困ってしまいます。 ぜひ、自分の性格や長所を振り返り、それを生かした教師となってください。
教師になるためには、国の定めた教職課程を履修しなければなりません。本学では、卒業と同時 に全員が小学校教員の免許状が取得できるようにカリキュラムが決められています。同時に、特定 の科目を履修すれば、中学校や高校の教科の免許状も取得できます。しかし、免許を取るためだけ に勉強するというのでは、あまりにも寂しい。この 4 年間に、いろいろなことにチャレンジしてい ただきたいと思います。人間としての価値を高めるような取り組みをしていただきたいと思います。 ボランティア活動に精を出すとか、あるいは、この上越の近隣の地理に精通するとか、今まで取り 組んできたスポーツの腕を磨くとか、あるいは、やりたかったけどできなかったスポーツにチャレ ンジするとか。教師は、教育に関する知識や技能だけをもっていればよいというわけではありませ ん。その人間性からも、子どもたちは影響を受けます。そして、その人間性を形成するのに役立つ のは、豊かな体験だと思うのです。
そうはいっても、あれもこれも体験しようと思っても、なかなか難しい。だから、本を読んで代 理体験をするということもよいかもしれません。
これから大学での学びがはじまるのですから、まず、 大学で何を学ぶか』というタイトルの本を 読んでみてはどうでしょうか。同じ名前の書籍はいくつもありますが、ベスト新書に入っている加 藤諦三の 大学で何を学ぶか』をお薦めします。この本は、2009 年に発行されていますが、じつ は 1979 年に光文社から出版されたものに加筆して再発行されたものですので、相当古い本です。 しかし、今でも書店で購入できるということは、多くの人に読み継がれてきたということになりま す。
最近の本では、ちくまプリマ―新書の 1 冊、濱中淳子の 大学でどう学ぶか』がたいへん興味深 い。今年の 2 月に出版された本ですが、タイトルが 何を学ぶか」ではなく どう学ぶか」という 表現になっているのが面白いと思って、手に取りました。インタビュー調査に基づいて、何人もの 大学生の事例を紹介しています。
教師を主人公として描かれた小説もたくさんあります。壺井栄の 二十四の瞳』や、島崎藤村の 破戒』などは、描かれている時代背景が古いので、皆さんには興味が持てないでしょうか。しか し、遠い昔の時代に思いを馳せる想像力も教師にとって必要な能力だと思いますし、藤村の 破戒』 は、教育の場における差別の問題を扱っているので、ぜひ読んでいただきたいと思います。どちら の作品も、何度か映画化もされていますので、DVD などで見ることもできます。
私が大学生のころは、灰谷健次郎の小説 の目』を読んで、主人公の小谷先生と鉄三という子 どもとのかかわりに驚き、その後、灰谷の作品を読み漁ることになりました。
ごく最近読んだ本としては、伊予原新の 宙(そら)』わたる教室』がたいへん興味深いと思いま した。定時制高校を舞台として、そこに通う年齢も抱える事業も違う高校生が、理科教師の指導で、 学会発表を目指すというお話です。昨年末に NHK でドラマ化されたので、見られた方もいらっし ゃるかもしれません。
大学教員が本を読んでくださいというと、反発する人もいると思いますので、皆さんにお勧めす るのは大変難しいことだと了解していますが、しかし、一人の人間がさまざまな生き方を体験する ことはできませんので、さまざまな教師の生きざまを学ぶという意味では、学校や教育をテーマに した小説はぜひ読んでいただきたいと思っています。
とは言いましても、たとえばこんな言葉もあります。 本を読むとは、自分の頭ではなく、他人の 頭で考えることだ」。これは、ショウペンハウアーという哲学者の言葉です。彼は、 他人の頭では なく、自分の頭で考えろ」と言いたいのです。しかし、私は、考えながら読めばよいと思っていま す。小説やその他の種類の書物に描かれているすべてを受け入れる必要はありません。たとえば そ んなやり方もあるよな。でも自分はそんなふうには考えないし、そんなふうに行動もしない」とい うことでよいのです。
Critical Thinking という言葉があります。日本語では批判的思考と訳されています。批判的に読 んでゆけばそれでいいのです。批判というのは、人を非難するということとは少し違います。吟味 するということに近い言葉です。一つ一つのことを吟味して、これは使えるとか、これはダメだな と選別すればよいのです。
たしかに、与えられた知識とか、自らの体験も大事なことですが、知識や体験からだけではわか らないことも、もちろんあります。理詰めで考えたり、論理的に考えたりすることも大事なことで す。多様な視点から考えるということを忘れないようにしてください。
さて、学びにつながるようなことをお話してきましたが、ときには息抜きも必要です。上越の地 域は、とても自然環境が豊かなところなので、いくつかご紹介しておきたいと思います。大学前の 山麓線をまっすぐに北に向かうと日本海に出ます。夏には、海水浴場も開設されますし、魚釣りも できます。親鸞聖人が上陸したと言われる居多ヶ浜もあります。逆に、長野方面に向かうと、妙高 山や火打山などの山々が見えます。そして冬には、たくさんのスキー場が開設されます。笹ヶ峰高 原にはドイツトウヒの森があって、この木は長さ 15 センチから 20 センチもあるような大きな松 ぼっくりをつけます。上越妙高駅から新幹線に乗れば 20 分ほどで長野市に到着します。また 8 号 線を西に向かえば、糸魚川市にでます。そこには、フォッサマグナ・ミュージアムやジオパークな どがあり、特徴的な地層や岩石などを見ることができます。
ときには森林浴などに出かけて自然を満喫し、ときには勉強に集中し、有意義な 4 年間を過ごし てください。私たち教職員は、皆さんのそうした生活と勉学を支援させていただきます。
最後になりましたが、本日ご参列いただいた皆様のご健勝とご発展を祈念申し上げて、告辞とい たします。
令和7年4月7日
国立大学法人 上越教育大学長
林 泰成
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